HAKATA PARIS NEWYORK

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本業はファッション、グラフィックなどデザイン関連のクリエイティブディレクター。創る側の視点で今のファッション関連の事情を評論する。マスメディアはもちろん、業界紙誌も扱わないテーマに踏み込む。

 福岡は風は冷たいが、すっかり春の陽気。生活圏の天神から福岡城址、舞鶴公園、大濠公園、けやき通りのコースを週に1、2度走っているが、1キロほどでトレーナーの背中が汗ばんでくる。ウエアはいろいろ替えが効くが、シューズはアディダスのドラゴンを2足ローテーションにして10年ほど履き続けた。同じものが廃盤になってしまい、新たに同タイプのR-71が発売されたが、ランニングシューズは足にフィットすることが最優先。R-71がドラゴンと同じサイズかどうかは試着してみないとわからないので、購入をためらっていた。

 その間にほぼ全色・全サイズが売り切れてしまったが、2025年の11月に入った頃、ようやくあるシューズ店のサイトで、R-71を発見した。サイズが合わなければ、返品交換すればいいと思ってブラックと白の2足を即買いした。届いて試着すると、ドラゴンと同じ作りだったようでジャストフィット。早速、26年の初ランから履いてみると、靴擦れもマメもできることなく快走できている。自分にはアディダスの木型が合うのか、どのシューズもしっくりくる。大濠公園は冬場でもランナーの姿が途切れることなく、下は小学生から上は高齢者までが池の周り2kmを周回している。

 

 履いているシューズで一番多いのは、Nのタイプフェイスが目立つニューバランス。1996年に来日した米国のクリントン大統領が神宮外苑でランニングした時に履いていたのが話題を呼び、その後セレクトショップがスニーカーとして売り出したことで、ブランドとして一気に定着。メジャーリーガーの大谷翔平選手もニューバランスと契約しているが、人気の背景にはそれまで絶大なブランド力を誇ったナイキが陳腐化した反動もあると思う。次に多いのがアシックスだ。ラインを見れば、こちらはすぐにわかる。海外ではOnitsuka Tigerのブランド力で売れているが、国内ではスポーツシューズとしての人気が高い。

 

 他はメジャーなアディダスやナイキ、ソールに特徴があるオンなどが見受けられるが、最近特に目立つのが厚底シューズだ。大濠公園のランニングコースは、池側が散策やウォーキング用、外側がランニング用に舗装整備されている。ランナーのほとんどが足を守るためだろうか、信頼性のあるブランドのシューズを履く傾向が見られる。厚底シューズは箱根駅伝に参加する学生ランナーが好記録を連発している影響と、山登りなどで強靭な足腰を披露していることもあるのではないか。市民マランソンが定着する一方、目にみない部分で足への障害があるかもしれない。手軽な健康管理の手法としてランニングがある一方、足をケアするための投資も必要だと多くが感じている証左と言える。

 日本経済新聞が2026年1月3日に掲載した記事では、今年の箱根駅伝に出走した学生ランナーの95%以上がアディダス、アシックス、ナイキ、プーマのいずれかのシューズを履いていたという。着用の比率はアディダスが35.7%(75人)で2年連続のトップ。次いでアシックス(28.5%/60人)、ナイキ(16.7%/35人)、プーマ(14.8%/31人)の順だ。アディダスは青山学院大学などの活躍により、ADIZERO ADIOS PRO EVO 1/2などが高いシェアを誇る。アシックスもMETASPEEDシリーズのシェアが5年連続で拡大している。一方、厚底シューズを最初に開発したナイキは低下傾向にあり、プーマが10%を超えてトップ3に迫る勢いを示している。

 

 各大学のチームと契約するスポーツメーカーもあり、メーカー側の担当者は選手の要望を聞き入れながらシューズ開発に注力する。前回の大会から最もシェアを伸ばしたプーマは、製品の工場と並行して選手のサポートにも熱心という。担当者は選手のもとに足繁く通い、走りの悩みやシューズに対する要望を聞き入れ、開発にフィードバックしている。夏合宿では宿舎近くに選手がリラックスできる施設まで作ったというか、選手との関わりを密にすることが理想的なシューズ開発に繋がり、ランナーの信頼を勝ち得るという方針なのだ。シューズ開発はテクノロジーの結晶である一方、各社の開発力は拮抗している。だからこそ、プーマはランナーに親身に寄り添うということを価値にして信頼を得ているのだ。ランニングシューズはやはり履いて走る人間がいかに身も心も心地よくなれるかが鍵を握ると思う。

 

 そんなプーマに先日、驚くような報道があった。中国スポーツ用品大手の安踏体育用品(以後、アンタ)がプーマの株式29%を取得することで合意したという。同社はフランスの富豪ピノー家の資産管理会社(旧ピノー・プランタン・ルドゥート、以後PPR=現ケリングの関連会社。2007年にプーマを買収し、18年にはピノー家がケリングからプーマ株式を切り離し、70%を同社株主に現物分配)との間でプーマ株の取得の合意にこぎつけた。プーマ株を1株35ユーロで4300万株取得するが、アンタの株主や規制当局の承認などが条件になる。26年末までに取得を完了する計画で、アンタは現時点ではプーマに買収を申し込む計画はないとしている。

 

中国メーカーの投資が仇にならなければいいが

 では、プーマのビジネスはこれまでどうだったのか。同社は1948年、アディダスの創業につながるダスラー兄弟の兄ルドルフ・ダスラーが創業し86年に株式上場したが、94年までは毎年赤字が続いた。倒産寸前にあったプーマを立て直したのが、93年にCEOに就任したヨハン・ザイツ氏である。ナイキのハイ・パフォーマンスと対照的に、1990年代後半はファッション性を重視したスポーツライフスタイルで、業界一の伸び率と収益性の高さを誇った。2002年度売上高(12月末)は9億1000万ユーロ(前期比52%増)、規模はナイキの約10分の1だが、97年から毎年30%台の勢いで伸び、03年前半の売約も49.5%増と高い伸びをみせた。

 

 そこに目をつけたのがグッチをはじめ、ボッテガ・ヴェネタやアレキサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニーなどを傘下に持つPPRだ。2007年、同社はプーマの株式62.1%を取得し、子会社化した。ザイツCEOが設定したスポーツライフスタイルブランドの構築。ジル・サンダーなどファッションデザイナーとコラボレーションする一方、05年からF1チームのフェラーリのパートナーとして最先端の軽量素材や通気素材を駆使した耐火レーシングスーツ、グローブ、シューズ、そしてチームウェアを提供した。プーマの年商を12年で8倍まで(06年前期24億ユーロ、約3740億円)引き上げた。

 

 しかし、プーマはPPR傘下でファッショントレンドを追いすぎるあまり、ナイキやアディダスが得意とする高い機能性や実用性に対する消費者の信頼が低下。売上拡大を狙ってディスカウントストアなど低価格な流通チャネルにも広く製品を供給した結果、皮肉にもプレミアムなファッションブランドとしての価値が低下した。 また、パレルモやスピードキャットなどのヒット作はあるものの、レトロ・スタイルのスニーカーの流行でも適切なトレンド対応に出遅れた。PPRグループの中で、スポーツ事業の改革が後手に回り、売上高は伸びても低成長・低収益体質から脱却できなくなった。 さらに2010年代には在庫の積み上がりと販売不振に苦しみ、大規模な構造改革と人員削減を余儀なくされた。 2018年には、ピノー家はケリングからプーマの株式を切り離し、経営が実質的に独立した形になった。 

 プーマは2026年1月21日~24日までのパリ・ファッションウィーク期間中に同パリ市内の会場でブランドのアイコンシューズ、スウェードのレガシーを体感できる「スウェード ハウス」を開催。スウェードの歴史を形づくってきたスケートボードなど、ストリートカルチャーにフォーカスした専用ルームを設置し、スウェードのストーリーを来場者が体感できる空間を演出。アーティストのサムタロウ、スケートボードブランドのウェルカム、パリ拠点のカルチャープラットフォーム・114 Indexが参加し、各自が解釈したスウェードのインスタレーションを行った。プーマ側も今シーズンはプーマのアイコンであり、ブランドに多くの豊かさをもたらしてきたスウェードに焦点を当てた。スウェードの過去と現在を祝福し新たな世代へとその魅力を伝える機会になったと感じていると、マーケティング担当者は語った。

 そんな矢先の中国メーカーによる出資だ。プーマはパリでのイベント注力とは裏腹に業績は低迷している。2025年1~9月期の最終損益は3億890万ユーロの赤字(前年同期は2億5710万ユーロの黒字)。欧米や中国での販売低迷に加え、米国の高関税でコストが膨らんだ。同年12月期通期も営業損益が赤字に転落する見通しを示している。一方、アンタは24年12月期の売上高は前の期比14%増の708億元(約1兆5700億円)、純利益は52%増の155億元だった。増収増益の背景には、イタリアのフィラの中国事業を買収やアウトドアブランドのアークテリクスやテニスのウイルソンを手掛けるフィンランドのアメアスポーツへの出資がある。プーマ案件もその一環と見られる。

 

 プーマにおけるアジア市場での売上げシェアは約2割だが、25年1~9月期の同市場の売上高は11億8810万ユーロと9%減と、低迷する。一方、アンタの売上げシェアはアディダスに次ぐ世界第3位。サプライチェーン(供給網)や物流などの経営資源を傘下ブランドで共用し、競争力を高めた実績を持つ。これをプーマにも提供して業績を立て直す考えと見られる。一方で、アンタ傘下の各ブランドは、ナイキやアディダス、アシックスのような世界的な知名度はない。グローバルマーケットに切り込む上ではプーマのノウハウが喉から手が出るほど欲しかったわけだ。現時点ではプーマを買収する考えはないというから、商社的な形でノウハウを吸収する構えなのかもしれない。だが、それで傘下ブランドが大きく成長する保証はない。

 

 中国企業のことだから、著名なグローバルブランドを手に入れたい野心はあると思う。ただ、出資をしたからといってプーマに無理やり自社の経営資源を投入しすぎると、逆効果にならないとは限らない。アシックスのOnitsuka Tigerが国際的に成功したのは、欧州のスタッフが商品開発やデザインに参画し、本社サイドは一切口を出さなかったことが要因と言われる。プーマの立て直しも、ナイキやアディダスと対峙する機能性をさらに高めていく一方、ファッション性に直結するクリエイティビティをどこまで発揮できるかがカギを握る。そのためには商品開発の組織を見直し、外部から登用を含めたディレクター的人材の抜擢が不可欠になる。

 

 ※当コラムは2010年ごろからGoo Blogにて執筆をスタートしました。ですが、25年11月18日でサイトのサービスが終了し、Amebaへの引越しを致しました。過去14年にわたる月別アーカイブは、2011年から併載していますlivedoorブログ(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/)でご覧いただけます。