3月某日。


この日は、2年間の角畑の役員任期の最後の会議。
その席上、角畑さんはあきれるを通り越して、笑いそうになってしまった。


今日の議題は、「総会議案に関する確認」。
4月に行われる住民総会にて審議される議案の内容の最終確認だった。


前月の定例会で、わんにゃん会からの最後の要望、
「次回の総会で、何とか『エレベーターの使用許可』の審議が出来るように」
という申請があったのだが、審議をしようにも内容があまりにも決まっていない状態だったので、
今回の総会の議案にはしないことを決定し、議事録へ記載の上、その議事録を持って、
わんにゃん会に議案にならないことを通知していた。


因みに・・・

わんにゃん会の要望で、犬猫同伴で、エレベーターを使えるようにして欲しい、
(2基あるエレベータのうち、)どちらか一方でも使えるようにして欲しいという要望が、
3年も前から続いていますが、最初の一年目は、禁止されているにもかかわらず、
ペット同伴でエレベーターを使用していた人がいたので、細則違反を理由に却下、
2年目は具体的な運用方法が何も決まらない上、動物アレルギーなどに対する
対応策も不明瞭だったために見送っていました。


2基あるエレベーターのうち、どちらかをペット同伴可能とした場合の、
エレベーターのシステム変更も検討され、システム変更に伴う費用の見積もりも出しました。
(ペット同伴で乗りたい人が、決められた方のエレベーターを使用できるよう、
 決められたエレベーターのみを呼び出すボタンの設置を行う改造費用)


その費用、300万円強。


3月某日の定例会開始前。
わんにゃん会の会長成田さんと副会長の丸川さんが議事録を持ってきて、
管理組合会長の市橋さんの御宅を訪ねて、5点ほど要望や意見を伝えてたそうです。


1.エレベーターの改造費用、300万円強ということが不可思議である
2.前回の議事録の中に、エレベーターにペットを乗せる際に使用するアイテムの、
  「カタログを見せた」ことが記述されていない(議事録不備ではないかという抗議)
3.総会議案書を各戸に配布する際にでも、「エレベーターの使用」に関するアンケートを実施できないか
4.エレベーター費用のことは、他の人に言わないで貰いたい
5.エレベーターの改造を行わないで、どちらか一方のエレベーターを使用できるようにしてもらいたい

その上で、「要望を議案に載せてもらえるようにお願いします」と言っていたそうです。


ここで1点、事実誤認があり、2点目の件について議事録中にきっちり記載されていたのです。

しかも、最後の要望に関しては、議事録にて議案にならないことは通知済みだったのです。

どうやら、議事録にしっかり目を通していないようでした。



角畑さんが笑い出しそうになった点はずばり4番。
「4.エレベーター費用のことは、他の人に言わないで貰いたい」の件。


まず・・・
角畑さん達が暮らす、四つ葉グランドハイムは、今現在は一代限りのペットの飼育を認めているけど、
将来的にはペットの飼育戸数は0になるマンションなのです。
その中で、ペット同伴のためのエレベーターの改造は、将来的には不要になる設備。
言ってみれば、ペットを飼っている人のためだけに改造するようなものなのです。
ところが、実際改造費用は300万円で、しかもエレベーターは共有部分。
となると、費用の捻出元は普通に考えれば、全住民が支払っている「管理費」からの出費になります。


ここで問題になるのは、改造に対する利益を得るのは、ペットを飼っている人たちだけであって、
他の人は何ら関係のないことであるのが、このエレベーターの改造になるのです。
要するに受益者が、マンション内の住民の一部の人たちだけなのです。


こうなってきた場合、出費に関することに疑問を持つ住民さんもおられるかもしれません。
受益者が費用を出すべきであって、他の人には出費させることはないという人もいるかもしれません。


こうなってしまったら、エレベーターの改造は宙に浮いてしまい、
エレベーターにペットが同乗できることも、また遠のいてしまうのです。




例えば、その改造費用をわんにゃん会の会員だけで負担するとなると、一戸当たり10万円。


わんにゃん会からも、きっとそれは受け入れられないことでしょう。


そこで、わんにゃん会の会長と副会長は4番のような陳情を行ったのです。
もちろん、5番の「改造を行わない運用」という形で、4番の理由を正当化しているわけですが。



調べたことに対しての隠蔽要望です。
意図が見え見えで角畑さんは笑い出しそうになったわけです。


要するに、

「自分たちの要望を実現させるために、

不利になるような事柄は隠したい」


この日の定例会の中で、この部分に関する意見は辛辣でした。
結局は隠すこと自体が公平さに欠けるという意見でまとまり、
エレベーター改造の話が出た時は、費用の件もきっちり説明することに決まりました。


わんにゃん会の会長、成田さんはこう言いました。
「マンションのみんなが笑って暮らせるようになりたい」と。


この会議に出席した角畑さんは、
「自分たちだけが笑いたいんです」としか聞こえなかったそうです。

200×年春。
わんにゃん会では役員改選が行われた。
何でも年毎に回ってくる輪番制で役員を選出しているそうで。


会長になったのは5階の成田さん。結構お年を召している。
副会長が2階の丸川さん。普通のご夫人。


管理組合の役員も2年目に入った角畑さんも、
この役員交代直後は特に何にも感じていなかった。
ところが・・・事態というのは突然変化する。


ある日曜日。
いつものように、午前中から買い物にでも出かけようとしていた角畑さん一家。
突然の電話が、その日曜日の雰囲気を壊してしまうことなんて、微塵も感じていませんでした。

電話が鳴ったので、角畑夫人が応対。
ところが、角畑さんが横で聞いていると、どうにも会話の様子がおかしくなっている。



「来られても困ります」

「これから出かけますから」



どうにも雲行きが怪しい会話。

ようやく電話が終わって、角畑さんが何事かと夫人に問いかけると・・・


「わんにゃん会の会長になった成田さんが今からこっちに来るって。
美味しそうだから買ってきたお菓子

を持ってくるって言っているけど、


こちらはこれから出掛けるって言ってるのに


来るって・・・」

どたばたと出発準備をしても間に合わず。



ぴーーーーーーーん
ぽーーーーーーーん


表の呼び鈴が鳴ってしまいました。

角畑さんが応対しようとしたのですが、夫人が出るといって玄関に向かいます。
その間、角畑さんは子供の相手をして奥のリビングにいました。

ドア一枚挟んで、角畑夫人と成田さんのやり取りが聞こえてきます。



どれくらいの時間が経ったでしょう。
ようやく玄関の閉まる音がして、夫人がリビングに戻ってきました。


見れば涙目。


話を掻い摘むと、

・角畑さんのご主人が管理組合の役員さんで、成田さんがわんにゃん会会長になったので、
 お近づきの印にお菓子を持ってきた
・角畑さんの所の教育は行き届いてすばらしいねぇと褒める。
 (夫人が成田さんに「うちではペットを飼いたいけれども飼えない事をしっかり教えている」と話した)
・わんにゃん会では、今エレベーターを使えるように頑張っているんです。
・将来的には、今のペットが亡くなったときに、寂しい思いをする人がいるだろうから、
 そういう人は継続的にペットを飼えるようにしたい

この4点で、それ以外は同じことの繰り返し。
夫人が涙したのは、いい加減腹が立ったからだそうです。








角畑夫人の感想:

「何だかんだ言っていたけど、

結局自分たちのことしか考えてないね





後日、角畑さんが他の管理組合の役員さんに話を聞いたところ、
管理組合会長と、前役員の方、管理人さんに同じようにお菓子を配って回っていたそうです。






買収行動?
わんにゃん会の、これとよく似た行動は、この後にも引き起こされるのです。

どちらが先に発生したか、悩むべきことを悩むのは結構なことなのだが、
明らかにどちらが先に発生したかを、こうも誤魔化されるのはいかがなものか?



角畑夫人が自宅で子供を昼寝させようとしていたとき。
どこからともなく・・・
というよりお隣から「わんわんわんわん!」って鳴き声が聞こえてきたそうです。



1時間ぐらい鳴いちゃったらしいんで、結局子供を寝かしつけることに失敗。
余りに酷かったので、角畑夫人はお隣の海野のお宅に。
ぴんぽーん、って鳴らしても誰も出てこない。どうやらお留守だったようで。

仕方なく、その場は引き上げ、後ほど苦情を言いに行きました。



海野夫人が応対に出て、一頻り謝罪があった後、こんなことを言われたそうです。

「犬はちょっとの物音で鳴いてしまうみたいなんです。
インターホンの音で鳴き始めたのではないでしょうか?」















(°◇°;) エッ?
角畑夫人、しばし唖然。

インターホンを鳴らしたのは、犬の鳴き声がうるさかったから、
何とかしてもらうために海野さんを訪ねた際に鳴らしたものであって、
インターホンを鳴らしたから犬が1時間も吠えていたわけではないはず。






動物なので、気配に敏感、物音に敏感なのは分かりますが・・・
ちょっとその言い分はすじが通らないのでは?