それから

私は日本に帰った









彼女の家に泊まった

次の日の朝

彼女は私に契約書をもってきた

それは不動産業をしている人間なら

のどから手が出るほどの物件だと思う

彼女の好意あってか

相場の3分の1の価格

3億の物件が簡単に言うと1億で買える

そんな契約書だった

それをすぐに売っても1億の利益が出る

そんな物件の契約書を彼女は私に差し出した

「あなたのおかげで人生が変わったもの」












彼女の顔は華やかで

幸せに満ちている

息子とまた2人で頑張ると

そんなことを言っている














その契約書をどうしたかと言うと

私は彼女の目の前で破棄した














どうして

と彼女は目を見開いて

驚きを隠せない

私はその時

プローサムの服を着ていた

ファッションは気分によって変わる


















今日は自分の欲と戦いたい



















彼女にとってつらい思い出があるから

その別宅を手放したいという気持ちは

分からなくもない

でも

つらい思い出も

苦い経験もひっくるめて受け入れられることが

芯の強さだと思う

別に彼女はお金に困って売却しようとしてないし

ここを紹介してくれた不動産事業の社長も

どうして彼女がその物件を手放すかは知らなかったもの

私は少しなら分かる

それは彼女の弱さであって強さではないの

人生を変えるなら

最後まで変わるべきよ

















「あなたの息子さんが目を覚ました時に

あの家がないと息子さんは悲しむわ

あの家を手放すことは

あなたにとって息子さんを手放すのと一緒よ

見捨てちゃ駄目よ」
















私はそういって彼女に2つに裂いた契約書を渡したの














正直

馬鹿だと思う人は沢山いる

勿論

この話をすると私は馬鹿だと本気で言われる

でも

私は何でもそうだけど自分が100%納得した仕事しか出来ない

まるで人の弱みに付け込んで

おいしいところをとるような仕事はしたくない

甘いと言われようが

それでも一応稼いでるわ













ファッションで人は変われると思うわ

プローサムのスーツで身を引き締めて

頭の中を整理すると

私は自分の会社とか

資産とか、未来よりも

私自身の気持ちを優先したいと思ったの

素直に

ただ

純粋に












直営店での買い物も

ただ

彼女にファッションを楽しんでもらいたいと思った

それだけ

あの別宅は彼女の話を聞いて

最初から手を出そうだなんて思っちゃいないわ
















この仕事をしていても

社長の仕事をしていても

知り合う多くの人は

自分の欲求に勝てない






ハイファッション、車、家、別荘

お金

情報

そのためなら

ポリシーも捨てて

優美さも忘れて

ただの欲の塊の人間になる

勿論

私もそんな欲に頭をかすめることもある

でも

そんな自分が嫌いになることもあるの

それは私の望むセレブではないわ











欲のない人間なんていない

うんうん

でも

欲に勝てる人間はいると思うわ

少なくとも

私は自分の欲に勝つの

バーバリープローサムの服を着て

ちょっときつめのメイクをして

もう一度自分がどうしたいか聞く















それで出た答えは

彼女の邸宅は

彼女の息子さんが目を覚ました時に必要

彼女には

逃げることでも目をふせぐことではなくて

まっすぐに受け入れることも必要

そう思ったの










「私も欲に負けそうなことがあるの」

サインをしてくれないと

私の気持ちがおさまらないとか

言っている彼女に私は言ったわ

「つらいことがあると逃げ出したくなるし

落ち込むと人にあたってしまいたくなる

でも

そんな時こそ私はファッションで

変われるの

私は自分のポリシーをねじ曲げてまで

ビジネスをしようと思わないわ

でも

欲が顔を出した時にね」














ちょっとファッションに頼るの

頑張れ

しっかりしてって












そこまで言うと彼女は泣いた

本当に

強い人なんてどこにもいないと思うわ















「後悔しても知らないわよ」









彼女がちょっと意地悪そうに言う











潮風の香りにつつまれながら

甘い花の香りに包まれながら私は言ったわ
















「勝者は後悔なんてしないわ」
















私たちはそれから手を取り合った















そして

私たちは彼女いわく親友になったの















私は親友と言うか戦友ね

と言うと彼女は微笑む














私も欲に負けそうな

弱い自分が顔を出すときがある

汚い

どろどろした感情が出るとき

私は少しプローサムに力を借りる














戦場で可憐に

そして強く飛び出していった彼女たちに

バーバリーが守っていてくれたように

私もプローサムに守られ

強くなるの