まず


タイトルを見て、あぁ邸宅契約できたのね

と思った方は大間違いぼー








私は小柄な彼女になんとも滑稽な


勇ましいプローサムのドレスを着て


無言で


息子の手をとって涙を流す彼女に





何もいえなかったわ





私の中で植物状態というと


おじいちゃんとか、おばあちゃんとか


老人がなるものだと思っていたもの


非現実的な彼女の生活は19歳の私にとって


衝撃だったわ


私が大学に行ったり


コレクションをひたすら見たり


直営店の人と話している間も


彼女はプローサムの服を身にまとって


こうして息子さんの手をとって涙を流していたのかしら













何か違う













ファッションは楽しいものだと


甘い私は今もそう思ってる


いつも


毎日勇ましさを胸に抱えて


ファッションは楽しめないもの


彼女の中でファッションは一つの武器


なぜか


そんな感じがしたわ










少し落ち着いて


厳しい顔ををした彼女が私を大きな部屋に案内したわ


100畳くらいの部屋には


壁沿いにすべてガラス製の棚が


棚の上には靴、アクセサリー、バッグなど


その下にはプローサムのハンガーにかかった服




プローサムの展示会よりも沢山のプローサムを


私は見ることになったの







特注したドレスやスーツをはじめ


数々のバーバリープローサムの服が


でも


部屋の中心にあるガラスケースの中


一つ


違和感のあるものが












それは片方だけの


ガラスの靴


サイズは38くらいかしら


そんなことを思ってぼーっとガラスの靴を見ていると


彼女が私の隣にたった


彼女はどんな顔をしているか分からない


「昔の旦那がプロポーズの時にくれたの」


ぽそっと彼女がそんなことを言う





「でもシンデレラは、片方のガラスの靴じゃ幸せにはなれないわ


2足そろわなかったから、シンデレラは家で王子様を待っていたの


もし、王子様が迎えにこなかったら彼女はどうしてたのかしら


1つのガラスの靴でも王子様のところへ行ったと思う?」








私を彼女を見上げると


彼女は微笑んでいる







あぁ


やっぱりこの人はきれいな人






余談だけど


私はきれいな人が好き


顔とかそんなんじゃなくて


本当に芯のある人間はきれいだと思う


そんな人だと思ったの


私に出来ること


私が彼女に出来ること







ないかしら?













「魔法使いがもう1度来てくれると思うわ」


私はガラスの靴を見ながら


静かに


ゆっくり


言葉を選んだわ






シンデレラみたいに


芯の美しい


身も心も優雅な人には


必ず魔法使いがもう1度助けてくれると思うわ








「そんなに人生、いいことばかりかしら?」


彼女がそんなことを言う








なーにを


なーにをそんなに悲観的になることがあるのかしら










私は彼女に


経営者でもあるけど


もう1つ


個人的な仕事をしていると言ったの














「実は私、魔法使いなの」














今まで微笑みしかもらさなかった彼女の顔が


大きな口をあけて笑う


あなた


日本人なのにユニークねと言って笑う


そして


頭はキレるようね


と半分笑った顔で私を見る


「それで、魔法使いさん、あなたは私に何をしてくれるの?」













私は微笑んでやったわ


シンデレラにもし王子様がむかえにこなかったら


私は魔法使いがそんな彼女をもう1度


魔法をかけてくれると思うの


全ての女性には


王子様が現れる前に魔法が降りかかると私は思う








今日


私は彼女と契約するわ


魔法使いになってあげるわよ







私は彼女の手をとって


使用人に叫んだ


「すぐに車をだして」


彼女が驚く


今日はこの後、ここでパーティーをするから


何とかかんとか


ほぉほぉ


そりゃちょーどいい


「そんなの何のために使用人がいるのよ」


私は彼女を車に押し込んだ


運転手も


私の悪戯に付き合ってくれるよう















向かう先は


ラグジュアリー直営店















彼女は車の中でぶつぶつ言う


「あなたって本当に信じられないわ」


「何を考えているの」


「良かったわ、あなたにあの別宅を渡さなくて」


そこまで彼女の文句をきかずにすんだのは


道がすいてたからかしらね










まず


私が向かったのはシャネル


日本人はぱらぱらとバッグや財布を買う


ここなら日本語も通じるし










「彼女に似合う服、全部持ってきてください」


私は一人のスタッフを捕まえて


英語で言うと


日本語で返されたわ



「すぐにサイズ36の服をお持ちいたします」


うんうん


だから好きよ


シャネルの店員さんは







訳のわからぬ状態の彼女を試着室に入れて


どんどん服を持ってくるスタッフには私が対応



「いったいなんなのよ」


そんな彼女の文句がだんだん少なくなる




あれも


これも着て


あぁ


これもきっとあなたに似合うわ


違う違う


このドレスは襟を立てて


そうね~あ、襟にストールまいて


バッグは…


こっちより


こっちじゃない??


パンプスよりミュール…


やっぱりこっちのサンダルかしら



「あなた、何がしたいのよ?」


試着室からでてくるたびに


彼女は私に尋ねる




「あなた、何考えてるのよ?」


「あなた、本当に経営者なの?」


「あなた、デザイナー?新設ならお金は出さないわよ」


「あなた、どこでそんな知識身につけたの?」


「あなた、確かにこの色は私に似合うわね」


「あなた、こっちはどう?」


「あなた、これもいいかもしれないわ」


「あなたって面白い人ね」









そんな会話を重ねながら


彼女に似合うと思ったドレス、スーツ、ジャケット


ニット、パンプス、サンダル、ミュール、ブレス


ネックレス、指輪、バッグ、ストールなど


数十点のシャネルを私は会計を頼んだ


彼女がシャネルの


お気に入りのドレスに着替えている間に


親に勘当されてまで作ったクレジットカード


あんた


やっぱ必要ね


緊急事態の時に


彼女が試着室から出てくる


大量のシャネルの袋、袋


箱にリボンは新品を2つ使い切った


彼女の制服もシャネル袋の中に


「あなた、これ、どうしたの?」


彼女が全身シャネルになって私に問いかける


「これ?まだあるわよ」


次行くわよ~


沢山のシャネルの袋を車に乗せて


次は







エルメス


ここではエルメスのスカーフを


あれも


これも


「彼女に似合うものはどれだと思いますか?」


スタッフは微笑みながら


いろんなアレンジをしながら


彼女の首にふわりとスカーフをまいていく


淡い色ばかり


優しい色ばかりのエルメスのスカーフ


彼女に似合うと思った


私が厳選したスカーフ27枚


これも


全部オレンジのエルメスの袋へ


「あなた、何を考えてるの?」


これも彼女が試着をしている間に


別に彼女にエルメスの服が似合うとか


そんなことを思って着せてはいないわ


会計は


レディーには見せないもんよね


お次はディオール


その次にグッチ


彼女の手をとって


しだいに彼女は何がなんだか分からない状態になって


笑い出す





こっちも似合うわ


ほら


このスカートに合わせたらぴったり


そのドレス


すぐにお丈を直しましょう


うーん、この素材より


こっちはどう?


すごくキレイよ


こっちも着てみて


これもいいわ


やっぱりあなたは


優しい色が似合うわ









その日


お化粧品も合わせると買った数は数え切れない


100は越えたわ


彼女はへろへろ


でも楽しそうに笑ってる


夕方


私たちは彼女の家へ一緒に帰った


すでにパーティーの準備がされている


「こんなに笑ったのは久しぶりだわ」


その後


全ての箱や袋をひっくり返して


私は今の彼女にもっとも似合う服を選んだ






クリスチャンディオールのマーメイドドレス


淡いサーモンピンク


ドレープのきいたゴージャスというよりも


清楚な感じ


だから


パンプスはシャネルで華やかにホワイト


ネックレスはシャネルのロングパールを3つつけて


髪のセットにはディオールのコサージュを


パーティーバッグは


こっそり買っておいたディオールのパーティーバッグ


プチカレをくくって


メイクは彼女に似合うプリンセスメイク


「鏡を見て」








彼女が無言になる


そりゃそーだ


本当、別人


「あなたって…」


泣きそうな彼女


「それより、パーティーに早く」


息子にキスをし


彼女かドアから飛び出した














私は今日1日


彼女の魔法使いになるの





私は私ができることをするの







ファッションは楽しむものだと思う


それは変わらないの


彼女がパーティーを楽しんでいる間


私は彼女の使用人7人と


一緒にお片づけ








彼女


なんていうかしら