徹夜明け


次の日


私はとにかくバーバリー


と名のつくお店を数点回ったの


バーバリーロンドンはよくお店にあるけど


さすがにプローサムの数は少なくて


実際触れられたのはほんの少し


バッグや


アクセサリーはもっと数が少なかったけれど


バーバリープローサムのイメージしてる


女性像


これがプローサムのデザインには


かなり


かなりよ?


生かされてたわ


実際触ってみると


やっぱりシルクなんかのふんわりした


やわらかい素材は少なく


ラナウールやカシミア素材のドレスや


リネンが多く


スタッズが強さを表すように施されたものばかり


ボタンは大きく


斬新なデザインのものが多く


チャックも大きめでそこにもスタッズがついている


どうして


あの女性はプローサムが好きなのかしら…?
















ファッションは内面のアピールだと


私は思うわ









例えば親しい人の還暦祝い


そんなお祝いの誕生日には


私は真っ赤な艶やかなドレスを着る


ついでにストールも渋い赤をまとって


キラキラ光る


真っ赤なパンプスをはいて


全身でお祝いする


おめでとうございますって


ファッションでも表現する




誰かに初めての食事に誘われるようなもんなら


それが男性なら


シルクの膝丈のふんわりしたワンピースに


ヒールは3センチまでのパンプスをはいて


小ぶりのアクセサリー


ディオールなんかをつける


バッグはホワイトケリーを合わせる


イヤリングもおそろいのものを選ぶ


ハンカチも何度も吟味する





仕事の話で食事に誘われたなら


シャネルスーツを着て


その下のブラウスはフリルのきいたものや


光沢のあるインナーを選んで


シャネルのロングネックレスをつけて


ルブタンの真っ黒のパンプスや


バッグがクロコダイルのバーキンなら


クロコダイルのグッチのパンプスをはく




仲のいい友人と海外の別荘でホームパーティー


それがビーチなら


フルーツいっぱいの柄の入った


グッチのシルクのワンピースに


シャネルのビーチサンダルを合わせてもいい


目上の人が多いなら


ライトブラウンのリネンのパンツに


ドレープのきいたガリアーノのトップスえお持ってきて


アジアンちっくなジョルジオアルマーニのネックレスをセレクト




そう


服は私の心中の現れ


普段???


お部屋ではプラダスポーツのパンツや


DGのジャージを着てごはん作って


掃除したり


ゴミ


出したりしてるわね


楽~な格好してる








そうなの


ファッションはその人の心が映る


大切な


一種のバロメーター










どうして彼女は


バーバリー プローサムのドレス





だったのかしら?









うーん…


私はプローサムを好きだとは思わない


この時


はっきりしたわ


うんうん


それじゃ


誤解が生じるかも


着たい服というよりも


プローサムはまだ見ていたい服


私の中の


芯の強さをまだおおっぴろげにしたくない


これが本音













彼女は何と戦ってるのかしら

















私は連絡も入れないで


彼女の家にタクシーで行ったわ













見開いても


彼女の家の全ては視界には入りきらない







大きな門


花輪くんかい、と突っ込みをいれたくなる家


観光地からは離れた


静かに時間が流れているような


大邸宅








しばらく


門の前でうろうろしている私


行動力はあるんだろうけど


最後の門は


いつもたたくのに時間がかかる


すると


私が門をたたく前に


門が開いたわ





ばっちり


カメラで見られていたよう…









左側の茂みに隠れていた


送迎用の車に乗って


門から玄関まで5分くらい


南国を感じさせる


色とりどりの花




心中穏やかな気持ちになって


私は彼女の元へ









彼女は真っ白な大理石の床の上


大きな大きな真っ赤なソファに


心地よさそうに体を沈めながら


私をジッと見てる


しばし無言


彼女の使用人が席をはずす







その日の彼女も


プローサムのドレスを着ていた


少し攻撃的な目と


ドレスとちょっと合わない


キレイな細い肩や腕


「あなた、どうしてその服を選んだの?」


彼女が下から上まで私を見て


顔のところまできてそう言ったわ


これじゃー


アパレルの面接ね




その日の私は


プッチのスカートに


真っ赤なヴァレンティノのニットを着て


真っ赤なディオールのパンプスをはいて


スカートのカラーに合わせた


ヴァレンティノガラバーニのバッグを持ってた


私は


滅多に赤い服を着ない


お祝いの時や


喜びを表す時にしか


赤は着ない









意図的というよりも


自然に手がそうなるからこればっかりは仕方ない






私は彼女に感謝してたの


確かに


社長としての仕事は


ぶっちゃけ失敗したわ


先方を怒らせて帰らせてしまったのは私



でも







「それなのに


何だか嬉しいの」











彼女の顔が余計


険しくなったわ













私は今まで


ラグジュアリーを自分の興味のあるもの


先入観のある


イメージのいいものしか見ていなかった


バーバリーという名前を聞くと


高校生のときに使っていた


あのバーバリーのイメージしかなかったし


正直


私の範囲外のコレクション


今だったらガレスピューとか


クロエ、ジバンシー、リックオウエンス、ハイダーアッカーマン


ヴェロニクブランキーノやジャイルズのパリ、ロンドンコレクション


まだ


そこまで興味がなかったものは


私は一切見ていなかったわ


見ていたけど


素通りするのよね


服が









そんな私だったから


簡単な彼女の質問にすら答えられなかったの


危なかったわ


だって


彼女が教えてくれてなかったら


せっかくの素敵なファッションを知らずに


時間を無駄にしてたもの










だから


私は何だか嬉しいの


1つ仕事が失敗しても


上手くいかなくても


今回学んだことは、私にとってとても武器になると思うの


その代わり


もう失敗はしないわ


先方の好みくらい


私は知っておくべきだったし


嘘でもいいから好きだと言っておけばよかったのかも


でも


私は知らないものを好きだとは言えなかっったわ


ごめんなさい





バーバリープローサムって


よく知らなかったの











ここまでを


カンニングペーパーを見ながら


一気に彼女に話した


一方的にね









すると彼女は私の前まで歩いてきた


正直


ちょっと怖かったわ


うーん


ビンタですめばいいんだけど


やっぱ痛いわよね~


そんなことを考えてたわね










「私、プローサムはまだ着れないわ」


だって


好きじゃないとかより


似合わないもの






目の前の彼女にそう言ったわ






「あなたは」











彼女の薄い唇が少し開いたの



「何かのために必死でまだ戦ったことがないのね」



いくつ?



続けて聞かれたの








もうすぐ20歳


彼女にそういうと


若いわね


と言われたわ


そして


私の息子くらいね








そこにセーブル磁器のティーカップのセットがでてきた


とりあえず


私は殴られずにすんだよう





「あなたも女をかけて、強くならないといけない時がくるわよ」


彼女は私のほうを見ないで言う


「今はあなたにはプローサムは似合わないわ、着てもね


私は戦ってるの


私はこの仕事をしてきてずっと戦ってるわ


少しでも家族を豊かにするために


常に私は強い女であり続けて


大事な家族を守るの」


ようやく彼女がこっちを見た












彼女の息子


私はお会いしたわ


彼女の寝室のベットで


ただ眠っていたわ










生まれつき脳に障害をもって生まれた


彼女の息子さんは14歳の時に完全に植物状態になったという


そしてあの邸宅は


息子さんがお元気だった頃に


数回家族4人で過ごした場所


彼女の夫は3年前離婚


もう一人の息子はロンドンで新聞記者





思い出を消すかのように


彼女はあの邸宅を売りに出した








「私は息子のためなら何でもするわ


あなた


プローサムの歴史をご存知?


戦場で沢山の命が奪われた時にも


バーバリーは行き続けたの


その衣をまとって


傷ついた戦士を守った女が沢山いたの


私もそうならなくてはいけないの








息子のために」













息子の動かない手をとって


彼女は涙をスッと流した




本当は


あの別宅は売りたくないと言う


人のものになってしまったら


私はもう二度と足を踏み入れられないと


でも


思い出にしがみついても


息子は私にハグをしてくれはしない


と彼女は漏らした








彼女にとってのドレスは


彼女の生き方をそのまま表していたの


「プローサム好き?」















「私の生き方、好き?



あなたは

私の味方?敵?」

という彼女の問いかけだったのよ