重い木のドアを開けるには勇気がいる
私はシャネルブティックで本物の自分に戻って
バルマンに戻ってきた
そこで挑まれた勝負に
女たるもの負けてはいられない
番号、繊維の太さ、カラー、糸も同じ
そして産地を告げた
彼女が微笑んだ
不適の笑みだった
「違うわ」
今度は私が目を見開く羽目になる
「全然違うわ、あなたそれで本当にバイヤー?
笑えて言葉も出ないわ。
だから日本人は嫌なのよ、バッカみたい」
私はのどの奥が熱くなるだけで声がでない
目頭が急にツーっとする
手が冷たくなっていく
「あなた、そんな適当なこと言って
今まで売ってたの?呆れて言葉もでないわ。
大方、偽物も売ってるんじゃないの?
好きでしょ。
日本人は偽物が」
言い返したい
言い返さないと
私は本当の本物が好き
でも
そんな私を見限るように彼女は口を動かしてた
「せっかく親切にここまで案内してあげたのに。
かっこつけちゃって馬鹿みたい。
大体、日本人がフランスに勝てるわけないの。
ファッションだけじゃないわ、ビジネスもよ」
彼女が笑う
…
違う
何が違うとか
そんなレベルじゃないわ
「いいかげんにしたらどうだ」
私の背後から男性の声がした
振り返ると
見覚えのある顔
「ボンジュー、ボス」
それは彼女の上司
「いい加減にでたらめを言うのはやめなさい」
そう
私も彼女にそう言いたかった
彼女が唇を少しかんだ
手を大げさに広げる
「私情と仕事を一緒にするなとあれほど言ってるだろう」
彼女の上司はゆったりと
でも
きつく
彼女に言った
彼女
彼女の母はフランス人
彼女の父はアメリカ人
彼女はすごくパパっ子で
パパと沢山の話をする
そんな彼女の父方のお父様は
第二次世界大戦で友人を目の前で亡くしたという
それを日々聞いていた父親は日本人を嫌う
そして彼女もそうなった
そんなの
日本人だって同じ経験をした人がいる
分かってる
彼女もそれは分かるけど
父から聞く
そうした反日がどうしても彼女の頭を支配する
そんな彼女の話をすると
彼女は急に泣き出した
「戦争で私の家族はあなたの国のせいで悲しい思いをした」
…
たまに
本当にたまにだけれど
海外で多くの人と深く付き合うようになると
こうした不満や憎悪を直に受けることがある
日本にいればまずないことだけど
海外ではある
私は歴史の専門家じゃない
ただ
おじいちゃんの家には日本の国旗が毎朝あげられて
おじいちゃんがアメリカという国を嫌っていたこと
そんなことをふと思い出した
正直
戦争が起こる理由はどうしても私には分からない
分からないといけないのだろうけど
日本差別
これは海外に出ると
単純にブランドばかり買うから
とか
そんなものだけでは済まないことが多い
マナーが悪いとか
それも確かにあるけど
こうした歴史が重なって差別を受けることが
本当にたまにある
「それは彼女には関係ないだろう」
上司がそういうと彼女はただ泣いた
彼女も分かってるようだ
何だか私も泣けてきた
単純に彼女はすごくファッションが好きなんでしょう
でも
家族が大好きで
家族が毛嫌いする日本人をどうしても
好きにはなれない
私がアメリカ人だったら
彼女はすごく優しかったかもしれないわ
同じ共通点があるのに
分かり合えるのに
どうして
事実はこうも今を捻じ曲げるのかしら
「あなたは…
どうして私を罵倒しなかったの?」
彼女が涙声で尋ねる
そうね
私が罵倒したら
少しはその時
その時
すっきりしてたのかしら?
「ごめんなさい、私は人権問題についてあなたと話にきたわけじゃないの。
それもとても大事なことなんだけど
私はあなたが好きなファッションを
バルマンを
日本で待っている顧客に知って欲しいだけなの」
彼女が泣く
隣の上司が微笑む
「どのラグジュアリーも君のようなバイヤーばかりだと
潤うんだろうね」
そんな事を言われながら
私は彼女と初めて握手をすることができた
握った彼女の手は冷たく
顔を見上げると今度は強張ってはいない
涙まじりの
少し眉の下がった彼女がいた
「嘘ついてごめんなさい」
彼女がポソッと言った
「私こそ…きついこと言ってごめんなさい」
不条理
これは世の中にはつきもんだと
それだけは思い知らされることがある
私はただファッションが大好きなんだけど
やっぱり
それだけじゃどうしようもないこともある
優美に生きると貫くには
それ相応の覚悟をしなきゃいけないし
勿論
私はその覚悟をしている
宗教
歴史の主に戦争
これらはすごく私が思うより
私の仕事にも絡み合う
私はファッションだけの理解じゃ
本物を仕入れる
本物のバイヤーにはなれないと思うわ
改めて
思い知った日だったわ
私はシャネルブティックで本物の自分に戻って
バルマンに戻ってきた
そこで挑まれた勝負に
女たるもの負けてはいられない
番号、繊維の太さ、カラー、糸も同じ
そして産地を告げた
彼女が微笑んだ
不適の笑みだった
「違うわ」
今度は私が目を見開く羽目になる
「全然違うわ、あなたそれで本当にバイヤー?
笑えて言葉も出ないわ。
だから日本人は嫌なのよ、バッカみたい」
私はのどの奥が熱くなるだけで声がでない
目頭が急にツーっとする
手が冷たくなっていく
「あなた、そんな適当なこと言って
今まで売ってたの?呆れて言葉もでないわ。
大方、偽物も売ってるんじゃないの?
好きでしょ。
日本人は偽物が」
言い返したい
言い返さないと
私は本当の本物が好き
でも
そんな私を見限るように彼女は口を動かしてた
「せっかく親切にここまで案内してあげたのに。
かっこつけちゃって馬鹿みたい。
大体、日本人がフランスに勝てるわけないの。
ファッションだけじゃないわ、ビジネスもよ」
彼女が笑う
…
違う
何が違うとか
そんなレベルじゃないわ
「いいかげんにしたらどうだ」
私の背後から男性の声がした
振り返ると
見覚えのある顔
「ボンジュー、ボス」
それは彼女の上司
「いい加減にでたらめを言うのはやめなさい」
そう
私も彼女にそう言いたかった
彼女が唇を少しかんだ
手を大げさに広げる
「私情と仕事を一緒にするなとあれほど言ってるだろう」
彼女の上司はゆったりと
でも
きつく
彼女に言った
彼女
彼女の母はフランス人
彼女の父はアメリカ人
彼女はすごくパパっ子で
パパと沢山の話をする
そんな彼女の父方のお父様は
第二次世界大戦で友人を目の前で亡くしたという
それを日々聞いていた父親は日本人を嫌う
そして彼女もそうなった
そんなの
日本人だって同じ経験をした人がいる
分かってる
彼女もそれは分かるけど
父から聞く
そうした反日がどうしても彼女の頭を支配する
そんな彼女の話をすると
彼女は急に泣き出した
「戦争で私の家族はあなたの国のせいで悲しい思いをした」
…
たまに
本当にたまにだけれど
海外で多くの人と深く付き合うようになると
こうした不満や憎悪を直に受けることがある
日本にいればまずないことだけど
海外ではある
私は歴史の専門家じゃない
ただ
おじいちゃんの家には日本の国旗が毎朝あげられて
おじいちゃんがアメリカという国を嫌っていたこと
そんなことをふと思い出した
正直
戦争が起こる理由はどうしても私には分からない
分からないといけないのだろうけど
日本差別
これは海外に出ると
単純にブランドばかり買うから
とか
そんなものだけでは済まないことが多い
マナーが悪いとか
それも確かにあるけど
こうした歴史が重なって差別を受けることが
本当にたまにある
「それは彼女には関係ないだろう」
上司がそういうと彼女はただ泣いた
彼女も分かってるようだ
何だか私も泣けてきた
単純に彼女はすごくファッションが好きなんでしょう
でも
家族が大好きで
家族が毛嫌いする日本人をどうしても
好きにはなれない
私がアメリカ人だったら
彼女はすごく優しかったかもしれないわ
同じ共通点があるのに
分かり合えるのに
どうして
事実はこうも今を捻じ曲げるのかしら
「あなたは…
どうして私を罵倒しなかったの?」
彼女が涙声で尋ねる
そうね
私が罵倒したら
少しはその時
その時
すっきりしてたのかしら?
「ごめんなさい、私は人権問題についてあなたと話にきたわけじゃないの。
それもとても大事なことなんだけど
私はあなたが好きなファッションを
バルマンを
日本で待っている顧客に知って欲しいだけなの」
彼女が泣く
隣の上司が微笑む
「どのラグジュアリーも君のようなバイヤーばかりだと
潤うんだろうね」
そんな事を言われながら
私は彼女と初めて握手をすることができた
握った彼女の手は冷たく
顔を見上げると今度は強張ってはいない
涙まじりの
少し眉の下がった彼女がいた
「嘘ついてごめんなさい」
彼女がポソッと言った
「私こそ…きついこと言ってごめんなさい」
不条理
これは世の中にはつきもんだと
それだけは思い知らされることがある
私はただファッションが大好きなんだけど
やっぱり
それだけじゃどうしようもないこともある
優美に生きると貫くには
それ相応の覚悟をしなきゃいけないし
勿論
私はその覚悟をしている
宗教
歴史の主に戦争
これらはすごく私が思うより
私の仕事にも絡み合う
私はファッションだけの理解じゃ
本物を仕入れる
本物のバイヤーにはなれないと思うわ
改めて
思い知った日だったわ