着いた先には背の高い

上品な女性が立っていた












そして意地悪く言われた













「シャネルガール、いらっしゃい」














この女性

この女性がキーなのよ
















会釈で交わし

「今の私にはこのファッションがぴったりなの」

と微笑んで中に入った











こ狭い部屋のクッションのいいソファに座る

「早速だけど」

目の前に座った女性が足を組んでタバコに火をつけた

テーブルの上にあるのは灰皿だけ













「何しにきたの?展示会には入れてあげたでしょ?」

そう

私は展示会の4部ではなく2部に上り詰めるまで

彼女に交渉をしまくった

とにかく馬鹿になることから私は始めていた

バルマンに身を包んで

媚びて

媚びて

ただ

媚びていたの

若い証拠かしら










「これ以上は無理よ。大体、日本人なんて本来2部に入れる必要もないんだから」

彼女は言う

バルマンは日本では売れないし

いい商品は平等には分けれない

いい商品はそれ相応のキャッシュを出すバイヤーのためにある

誰も小ロットしか買わない人間を1部には入れない

「それに日本人にバルマンは似合わないわ。ただのブランド好きの国なんだから

LVMHグループのものを仕入れたらどう?」










「私は」














そこで深呼吸をした


















「私はあなたよりバルマンの似合う日本人女性を知ってるわ」




















彼女がタバコを持ったまま

姿勢を変えない

眉間にしわをよせて目を大きく見開いてる













「バルマンの似合う女性は日本人にもいるわ。
 ブランド名でファッションを楽しむ人もいるけど
 そんな人間、私の顧客にはいないわ。」














彼女がタバコをおいた

全身バルマンの彼女が鼻で笑う











「だから何?」

















「だから私はどんなバイヤーよりも早く触れたいの、本物に」

















彼女がため息をつく















「あなたは日本人のバイヤーで、日本人に売るのよね。
あたしは日本人にバルマンは似合わないと思うし、着こなしもできないと思うの
それにバルマンのよさを分かる人間がいるとも思えないわ、あなたの顧客の中に」









新しいタバコに火をつけた

「日本人は所詮後追いよ、私たちの」



















今まではそうかもしれないわ

今までのバイヤーはもしかしたら

そんな人間ばっかりだったのかもしれないわ

売れると分かってから飛びついたのかもしれない


















「でも、私は違うわ」













私は足を組みなおした

「私はファッションが好き。私の顧客も本物よ

私のことは好きに罵倒しなさいよ

でも

私の顧客を知りもしないでウダウダ言うの

やめてくださらない?」














私は微笑んだ

嫌な女?

当たり前よ

私は大好きな人のバイヤーだもの













「じゃあ、あなたは私よりもバルマンが解るのね」












挑戦的な彼女の目は鋭い
















「えぇ」













私はファッションが好き

ファッション業界に新しい風が舞い込むのは

バルマンを見れば分かる

この斬新で洗練されたアイテムは

必ず人を虜にする

素材だけで言うと落ちるところもあるけれど

このデザインは誰も真似できないわ

そして

















バルマンだろうが

どこのブランドだろうが

















必ず本物は

本物の人には似合うのよ



















いらっしゃいと彼女に言われ

連れてこられたのは繊維の部屋のような場所

無造作においてある数々の糸

ここは数万の種類の繊維がある














「このジャケット、このジャケットの表面の生地

繊維と縫いだしの糸を私に渡しなさいよ」


















「バルマンのよさはデザインだけじゃないわ
ミーハーな日本人に触ってほしくもないわ
あなたは違うって、今すぐ証明しなさいよ」


















ふぅ

私はため息をついた

そんな優しさはいらないわ

こんな資料室

わざわざ案内してくれなくていいのにね




















「資料なんていらないわ」

私は彼女を見上げた

「番号を言えばいいでしょ?」













彼女の目が更にでかくなる














「適当なこと言ってるんじゃないわよ、

じゃあ














ささっとしてよ、だから日本人は嫌いよ」














私はゆっくりジャケットの袖をとった

指紋の線に少しささる繊維


10段階中2ほどのザラつきのある

起毛のない糸












「早くしなさいよ」




















私は口を開く

















私だって信じてるの

日本人の中にもバルマンを解る

本当に本物のファッションが大好きな人がいること

俗にいう

マナーの悪い日本人もいるけれど

そうじゃない日本人がいることも

本物しか持たない

本物を見る目のある人がいることを

私は知っているから

信じられる














日本人の中にいる

本物の人に素晴らしい本物を送りたい

共感したい

だからバイヤーになったの
















シャネルに包まれて

私はココ・シャネルの力を少し借りる








「この素材は…」











唇に塗ったルージュが少し口の中に入る

甘いフレーバーが広がったわ