タクシーに乗る

行き先を伝える時

バックミラーに自分がうつったの

全身バルマンでかためた私の上半身

顔は少し硬直してる

少し眉間にしわまで寄せて

これが本物?











こんなのが今の私かしら?














行き先の変更を伝える
















私はシャネルブティックの前で降りた


















全身バルマンの

エレガントから少しズレた私はさぞかし

滑稽だったでしょうね















「ボンジュー」

笑顔でドアマンにも挨拶をして

近くにいたスタッフに話しかけた

そうそう

私のブログの話しかけた

これ

いつもカンニングペーパー?持参なんだけど

それでも足りないときは

英語にフランス語を混ぜた言葉になってるわ














私が挨拶をした後に聞かれた

「何かお探し??」


















フランスのブティックでは

面白いくらいにこの言葉が日々交わされる

私は微笑んだわ


















「今の私に似合うファッションをしたいの

 お願い

 助けてくれない?」














スタッフが一瞬ひるんだ

その後

すぐに英語が堪能なスタッフと

3人のスタッフが着た













「今の私にシャネルは似合うと思う?」


















何を確認してんだか

でも私は目の前にいたスタッフに尋ねた

彼女はいたずらっぽく笑う

「シャネルが似合わない女性なんていないわ」

そして隣のスタッフが微笑む

「今日は特別な日なの?」

私はうなずき

返事をした










「特別な日にしたいの」















それから1時間半

彼女たちのプロの衣装選びが始まった

3人のスタッフは様々なコレクションを私の前に広げる










試着室で一人の彼女にきかれた

「あなた、日本人?」

私はうなずいた

彼女やっぱりと言う

ちょっと私の顔が曇る







「あなた、前にもここに来たわよね?」











ボケッと間抜けな顔をしたら

彼女が微笑んだ

「あの日みたいな、自信のある女にこそ

 シャネルは存在するわ

 さぁ

 鏡を見て、しっかりして」














06-07awのシャネルのコレクションの数々

初めてシャネルスーツを知った時

私は変わったわ

リサイクルショップにも行かなくなった

靴にこだわるようになった

肌にも

髪にも

健康にも

その成果かしら











時間が過ぎるにつれ

シャネルブティックで私は光りだす










当時のコレクション

その中でも私と3人のプロがしっくり

納得できた衣装がようやく見つかった








ウエストラインにリボンがついたシルクのパンツ



白のラペルは2重で漆黒の黒に近いジャケット

ボータイのシャツ

このリボンは黒で

パンプスはシルバー

ネックレスは3連でメタルブラックとのコラボ

総フレアのシルクスカートよりもパンツを



バッグはコレクションではメンズが持っていたものを















さっきまで着ていた服をシャネル袋の中へ

私は試着室からでると












「アンドロイドメイク?」

と聞かれた





バルマンだもの

うん

アンドロイドメイクでしたぼー















10分ほどでメイクもお直し

少しヘアもいじってもらった

シャネルのネックレスを髪につけてくれた

これが

すごくキレイ

これもメタルブラックで
















完成した私はまるで脱皮した蝶のよう







本当はバルマンに媚びていたの

バルマンの顧客になることが目的だったの

それで展示会に入ろうとしたの

そんなの

そんなの








私の思う本物とは違うわ

私は私の似合うものを身にまといたいわ

優美に生きたいわ













お礼を言ってタクシーに乗る

目的地はバルマン












1人のスタッフに出際に言われた







「あの時はごめんなさいね」

私は彼女を見た






「前の言葉、取り消してくれない?」









私は微笑むことができた














「勿論、また来るわね」













そう言ってタクシーに乗り込んだ


















ふとバックミラーを見る

口角の下がった

アンドロイド

ロボットの私はもういない

日本人の中に

日本人をバカにする人がいる

あんなのと一緒にしないでと威張る人がいる

私はそんなのもお断り

私は日本人よ

それは死んでも変わらない







マドンナの言葉が頭をよぎった















蝶みたいに

軽く

鮮やかに

優美に















私は大きく息をはいた
















「バルマンまで」















窓を流れるパリは大人びて

美しい












そんな中を舞う蝶は街中に飛び交う











私もそうなりたい













自分らしい生き方をつらぬいてみせるわ