決心6日目
その日のパリはとても寒かった
雪がちらちら…
それでも私はシャネルスーツ
そして靴だけは歩きやすいように新品で買った
フェラガモのレザーパンプス
それにでっかいファーストール(白)
を巻いていざ出陣
隣でおばあちゃんはというと
「勝負着物」
とか言って決め決めで準備オーケー
電車の乗り方も分からない
ということでタクシーでいざ出陣
エルメスの本店
私はシャンゼリーゼ通りだと思っていたの
でも
実はそうじゃなくって…
エルメスの本店はマドレーヌのそば
なんかねーー
お城みたいなのよ
ほえー
高島屋とは違うねぇ…
と思いつつ
恐る恐る入ったわよ
一言
別世界
そこはもう別世界
上品さの究極
商品の配置も全て完璧
私はこの時
124万というカバンが
世の中にあると知った時より驚いたわよ
店内を歩く
タクシーで見たパリの街並み
パリの景色を見るよりも
エルメスに入ってようやくパリに来た
という興奮がしたわねー…あの時
でも
お目当てのケリーはなかったの
おばあちゃんがフランス語で聞いてくれたけど
キャンセルがない限り店頭には並ばないよ
とのこと
おばあちゃんは説明してくれたわよ
エルメスを見るために
この子はパリまで飛んできたってね
話し合い50分弱
それでもないものはなくて
どうにもならなくておしまい
嘆く?
でも
嘆いてもしょーがない
その代わり
5時間~6時間
それこそバッグは勿論
スカーフ
時計
日用品
香水
店内にあるものを1つづつ
説明をうけたわ
そして必ず明日も来るといって本店を後にしたの
フランス語で
「観光はしないの?」
と聞かれたそうだけど
おばあちゃんは微笑んでタクシーに乗ったそうよ
私?
私は興奮したまま
おばあちゃんに訳してもらったことを大学ノートに
無造作に書きとめていたわ
もうね
興奮がおさまらないのよ
本物
あれが本物のエルメス
あれが本物の商品
あれが本物の質
手に取ったわよ
その日、本店にいた
一番長くいた人間になったわよ
スタッフをのぞいてね
パリ滞在2日目
大学ノートは私のきったない字で半分は埋まったわ
今まで受けたどの講義より
授業より
ノートを汚したわね
それから3日目
4日目
5日目と過ぎた
その3日間も
私とおばあちゃんは本店にずーっといたわ
エルメスの商品を触らしてもらって
説明を聞いて
書いて
ホテルに帰ってきれいにまとめて
感想を付け足して…
パリにいる間
それの繰り返し
そして6日目
今日はもう帰国の日
結局ケリーには触れられず
朝起きて、泣きそうな状態で
歯ブラシなんかをスーツケースに放り込んでたの
これでおしまい
もうそうそうこんな国には来れない
だってまだ大学生
さすがに留年はできない
会社もある
泣きそうでした
泣く前の
あの鼻がツンとして
少し胃がしぼられるあの感じ
なんて間抜けな人間
一番知りたかった
ケリーバッグはついに触れられず
国際電話なんて発想もない私
馬鹿な私
そんな中
おばあちゃんが外出から帰ってきた
朝から元気ね~
とのんきに思う私
「しっかりし!」
…?
部屋に響くおばあちゃんの声
「フライト
延ばしたから」
はい?
どゆこと?
おばあちゃんいわく
落胆してる孫をみてほってはおけず
エアフラに連絡をしてくれたそう
今回の旅は本当に急だった
格安航空ではなく
正規のエアフラ料金
エコノミーでも30万ほどのチケットだった
悪運強く
そのチケットは
フライトの変更に追加料金がかからない
結局
おばあちゃんはホテルも延泊してくれていた
そして
私の日本の会社にも連絡してくれていた
一緒に会社を立ち上げた子からメールが届いた
「本物見たくて休んだんなら
本物見るまで帰ってくるな
土産はエッフェル塔で」
嬉しいのやら
驚いたのやら
わけもわからず泣いたあの日
見たいもんは見たい
そう
知りたい
そのためにパリに来た
ここで帰国してたらあかんやろ
この日も
私はおばあちゃんと朝からエルメスに行くことができた
店に入る
フライトを延ばしたと伝える
ずっとすましてた顔の店員が何人か笑い出した
あの日
あの日
私は生まれてはじめてのケリーバッグに触れることになる