奥の細道 松尾芭蕉  三 草加といふ宿  | まいどーおおきに 河内の樹々の独り言

今年元禄二とせにや、奥羽長途の行脚ただかりそめに思ひ立ちて、呉天に白髪の恨みを重ぬといへども、耳に触れていまだ目に見ぬ境、もし生きて帰らばと、定めなき頼みの末をかけ、その日ようやく草加という宿に着きにけり。瘦骨の肩にかゝれるものまづ苦しむ。

ただ身すがらにと出で立ち侍るを、紙子一衣は夜の防ぎ、ゆかた、雨具、墨、筆のたぐひあるはさりがたき餞などしたるは、さすがにうち捨てがたくて、路次の煩ひとなれるこそわりなけれ。



新校 奥の細道

昭和三十二年三月二十日 第一層刷発行
昭和四十三年四月十日  第十七刷発行

発行所 ㍿白揚社