一週間の湯治生活の間、隣室にはいろいろな人達が宿泊していた。宿泊日数はもっとも短い人で一泊、長い人は一ヶ月以上を越す宿泊客もいた。
私は、七泊八日、平均的な日数なのか良く解らないが、自分なりにはもう少し逗留していたかった。夏休みが始まり、宿も最盛期を迎える中満室が続き、宿泊の延長はかなわなかった。
私の宿泊している部屋の左隣の老人は、私より一日おくれで到着した。二週間以上宿泊すると言っておられた。この方はこの宿の常連であるらしい。台所で合った人に「今年、お会いするのは二回目だね」等と話し合っている。いかに常連客が多いか解る。
右隣の部屋の入り口は閉じたままで、誰が宿泊しているのか良く解らない。3日目に階段を上がってきた男性が、その部屋の中に入るのを見た。その日の夕刻、台所で思い切って声をかけてみた。男性は思っていたとおりの‘閉じこもり’であった。
自炊棟なので、食事はカップ麺と、缶詰などの食品で済ませていると言う。温泉に入るとき以外は、ほとんど部屋を出ない。どうやらパソコンで、インターネットをしていたらしい。テレビも無い部屋で部屋に閉じ篭り、ひたすら画面を見つめている。
翌日、その男性の方から声をかけてきた。
「今日、帰ります・・」少しだけ話しをしたが宿泊中、話したのは旅館従業員と私だけだった様だ。