天の御父の声は Vox Patris Caelestis

天の御父の声は Vox Patris Caelestis

ふるい音楽を歌うテノールです。

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「夏が来た」のカノン
Sumer is icumen in
大英図書館 The British Library 所蔵の写本
British Library, Harley MS 978 f.11v



HarleyMS978


写本のこの頁に書かれているこの曲は、
実はカノンで、音楽史上最古の13世紀の6声部の多声音楽です。

譜線は6本で下から4本目に C の記号がありここがド、
その一つ下には ♭ が書かれています。

音符はしっぽのある長い音符(ロンガ)としっぽのない四角い音符(ブレヴィス)、
さらにそれより短いことを示すひし形の音符(セミブレヴィス)で書かれています。

歌詞は各6線の下に二段に、上段-黒色で英語、下段-赤色でラテン語
の歌詞が書かれており、英語とラテン語のどちらでも歌うことができます。

英語の歌詞が

"Sumer is icumen in
Lhude sing cuccu"
「夏が来てカッコウがうるさく鳴く」

というところから
「夏は来たりぬ」のカノン
などと呼ばれます。


Sumer is icumen in


音符を見ると、
ファ-ミ レ-ミ ファ-ファ ミレド
まで歌ったところに赤い十字架が書いてあります。
これがカノンの印で、
前に歌った人がここまで歌ったら、次の人は最初から歌う
という指示です。
この旋律は4人の人の掛け合いで歌えます。

さらに、この頁の下2段、赤と青の大きな S が書いてある部分は
Pes ペス と言って「足」の意味ですが、
上のカノンに対して低い音で2つのオスティナート・バス(低音の繰り返し)が掛け合って
全体の和声(ハーモニー)の基礎を作ります。

上の4声と下の2声を合わせて、
全部で6パートの音楽です。
同時に6つの旋律(メロディー)が別々に同時に鳴る音楽は、
3声の音楽がふつうであったこの時代としては異例の作品です。
写本(MS, マニュスクリプト)の時代は、
13世紀の3番目の四半世紀、つまり
1250-1275年頃とされています。


https://youtu.be/BVdA9t-AOfU

演奏 
ヒリヤード・アンサンブル、ポール・ヒリアー指揮
The Hilliard Ensemble, Paul Hillier

大英図書館 British Library は
もとは大英博物館 British Museum の中にあったのですが、
1998年に大英博物館から文書の部分だけが分離して、
ロンドン北のセント・パンクラスに新しく
大英図書館として開館しました。
私が訪れてこの写本を閲覧したのは、
ちょうどその年の秋でした。

最近では、保存されている文書資料を守るために
文書の「デジタル化」が進められており、
この写本もオンラインのデータベース上で
日本にいても細かい部分まで閲覧できるようになりました。


http://www.bl.uk/manuscripts/FullDisplay.aspx?ref=Harley_MS_978&index=0


上記リンクから大英図書館所蔵
デジタル化された写本 [Harley MS 978] を閲覧できます。

リンクの
View: bindings
と書いてあり写本の一部が見えている部分をクリックすると
ヴューワーを開けます。

ヴューワーで右(→)に頁をめくっていき、
[f.11v] (フォリオ11ヴェルソ)にあるのが
この楽譜です。

(中世の写本では「ページ」というものはまだなく、
 一葉一葉の羊皮紙を綴じて、
 その表側を recto レクト,、裏側を verso ヴェルソ
 といいます。)
f.11v というのは「11葉目の裏」という意味です。

ヴューワーでデジタル化された写本を拡大したりして自由に閲覧できます。
それでは英国国宝級のこの写本をどうぞお楽しみになってください。

リンク:大英図書館 ホームページ

http://www.bl.uk