コペルニクス的回転ドア
全く愚かなものだ。
男は行きつけのカフェでコーヒーを飲んでいた。
デパートの一階に位置するカフェからは、デパートの入り口の回転ドアが見える。
それは我が社の製品である。
人間どもは自分たちが使うために発明したと勘違いしているらしい。
それはとんだ間違いだ。
彼らは回転ドアを使っているのではない。
あくまで、使われているのである。
人間どもは皆、回転ドアに回転させられているのだ。
彼らは便利だからと好んで使い、
習慣化し、慣れてしまい、
回転ドアのない所に足を運ばなくなり、
もう、それ無しには生きて行けなくなる。
気づかぬうちに使われる。
あたかも、それが自分の意思であるかのように。
我々の壮大にして完全な世界征服に、愚かな人間どもは気が付いていないのである。
全く愚かなものだ。
男はニンマリと含み笑いをしながらコーヒーを飲みほすと、マスターに一言お礼を言って店を後にした。
「大丈夫。たぶん見られていない」
マスターは内心焦っていた。
男がお礼を言いに来たときに、自分の含み笑いが見られたのではないかと不安だった。
「たとえ見られてたとしても、我々の壮大にして完全な世界征服に気づく筈がない」
全く愚かなものだ。