の続き
兄貴
「はい。色々コイツらとも考えたんす。」
コイツらという周りの男達を見渡すと、ネクタイの首元に手をやり一回気持ちを引き締める者。手を前に合わせて背筋を伸ばす者と、何やら皆がソワソワとしっかり意識を集中し始めている。
「あの時、私は死んだも同然。私はこの組の頭です。小さい組ですが、コイツらは私の家族で、本当大事な場所なんです。私が死んでたら、コイツらも守れんかったかもしれません。」
なんか極道映画って作ったシナリオだと思ってたが、本当にこんな漢気ある仁義で熱い世界なんだな。と言葉には出さなかったが聞きながら思っていた。
「無くなるはずだったこの命、兄貴に託したいと思いました。」
おい…いきなり熱さが…急上昇し始めたか?
「私達の兄貴になって下さい。」
周りの男達もそこに同意と
「兄貴になって下さい!」
と口を揃えて言った。
おいおい…どんな告白よ。
俺は昔から女の子に惚れられるより、男から先輩先輩と集まってくる傾向があった。
大学の時も迷彩服にサングラス、スズキのオープンのカーキ色の四駆に乗っていたから、女の子なんか寄ってもこなかったが。寄ってきたのは日の丸を愛する活動をしている若者達だった。
「浅井君!浅井君!ウチらと一緒に街を走らない!」と。専ら男にモテる。
「え?兄貴って、マジな兄貴になるって事?」
「ハイ。真剣です。私達は。」
確かに冗談を言ってる目ではない。
「本題?それ?」
「ハイ。本題はこれです。」
沈黙した。
う〜ん。何だろ?このザワつく感じは。
小さい頃に、占い師にこう言われた事を思い出した。
「この子はある道に行けば、親分になるわよ。でも危険も伴い、そちらは早死にします。この子はそこが人生の分岐点ね」
正にその分岐点だと、ヒシヒシ思っていた。
こんなに分かりやすい分岐点が今日になっていきなり来るとは?朝の目玉焼きに塩をかけるか?醤油をかけるか?迷っていた自分が想像出来ただろうか?
これから親分になったら、目玉焼き食べる時には、塩と醤油の両方が横に添えてあるのかな?
などと訳の分からない想像まで、この沈黙の5秒ぐらいで駆け巡っていた。
自分の気持ちは正直50:50だった。
昔から憧れていた極道映画の世界。そんな映画みたいな世界ではないと分かってはいるが、男なら誰もが一回は憧れる、男の世界。
しかし今の仕事は俺しか出来ない、プロの世界。美大を主席で出て、ここまで辿り着いた自分の道。
カタギか?カタギじゃないか?
理想のデザイナーか?憧れの極道か?
これも数えてはいないが、30秒ぐらいは頭で巡り巡って思考していた。
その間加藤、周りの男は一切口を開かず、自分を見ていた。喫茶店のマスターもコーヒーカップを手拭いで拭く手を止め、音を出してはならないと静止している。
そして決断をした。


