外出のついでに立ち寄った中央線沿いの大手中古CDショップで素晴らしいCDと出会ったので、今日はそれを紹介したいと思う。
グリゴリー・ソコロフ(ピアノ) box set(5CD)
CD1:ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲
CD2:シューベルト/ピアノソナタ第19番
CD3:シューベルト/ピアノソナタ第21番
CD4:ショパン/ピアノソナタ第2番、練習曲 作品25
CD5:スクリャービン/ピアノソナタ第3番、第9番「黒ミサ」
プロコフィエフ/ピアノソナタ第8番「戦争」
ラフマニノフ/前奏曲 作品23 第4番
ピアニスト、グリゴリー・ソコロフ。
国内ではほとんど聞かない名前であるが、まだ50代半ばに差し掛かるくらいのロシアの中堅ピアニストだ。
1950年の生まれで、1966年の第3回チャイコフスキー・コンクールで優勝したことで世界的にその名前は知られることになるわけだが、いかんせん日本国内での地名度は低い。それもそのはず、(何故か)国内で手に入るCDも少なく、その内容もあまり万人ウケするようなものではない。コンサートも95年の来日を最後に、ぷっつりと日本にはやってきていない。彼の演奏を知るにはその入手しづらいCDを聴くしかないのであれば、この知名度の低さもすぐに頷けるというものだ。
しかしこのピアニスト、知名度の低さとは裏腹に恐るべきピアニストだ。
僕が初めて彼の演奏に触れたのもこの中古屋さんで偶然手にしたブラームスのピアノソナタ第3番を含むCDだっがわけだが、そのときもそのプログラムの地味さに一瞬買うのを躊躇したくらいだ。ソナタとカップリングされていたのが、4つのバラードという作品。ショパンの4つのバラードと名こそ同じだが、内容といえばあれほどのエレガントな技巧は一切用いないし、規模としてもけして大きな作品ではないからだ。
しかしそのソナタ第3番を聴いたときの事は、もはや事件といってもいいんじゃあないだろううか。
第1楽章の冒頭のワン・フレーズが部屋に流れただけで、もう完全にド肝を抜かされていた。全5楽章からなるこの長大なソナタが、非の打ち所の無いテクニックと、ブラームス特有の深い情感をいっぱいに湛えて一つの物語として訴えてくる。体の底を震わすようなダイナミクス、虹の如き色彩感、そしてなにより純潔を極めた弱音が、揺ぎ無い1つの建築物のような存在感で僕の魂を串刺しにしてきた。その音楽が終わっても、茫然自失で声も出なかったのだ。
前置きが長くなったが、今回また偶然にも出会ったソコロフのボックス・セット。
今日聴いたのはCD4だったが、やはり期待以上の演奏。
ソナタ第2番も作品25も本当に好きな曲であるし、ソコロフの弾くショパンが尋常でないことは前奏曲集で実証済みだ。ソナタ第2番の第1楽章の前奏にはちょっと驚かされたが、「精神の不安定さ」を何故こう見事に表現できるのだろう。動機の変化による場面転換も本当に見事!!驚くほど敏感な感性だ。音色の多彩さにも舌を巻くばかり。何かから逃げ出したい、しかしその恐怖はどれだけ逃げてもすぐ足元まで迫ってくる。助けてくれ、助けてくれと叫び声を上げるがその声はどこにも響かず、不規則な足音は次第に体を呑み込んでいく…。圧巻!!
終楽章はクーラックに「墓場の上を吹く風」と形容されて有名なものだが、いかんせん両手のオクターヴ・ユニゾンのみの音楽なのでこの楽章の解釈は演奏者の手にゆだねられるところが大きいのだが、さすがソコロフ。ラフマニノフやコルトーにも負けずとも劣らぬこの不気味さ!!悪寒が走るほどの見事さ(?)!!!
練習曲に至っては本当に丹精な演奏。第2番などこの曲の本質を突いていると思う。ペダリングが美しい。第4番、左手跳躍の練習曲はルガンスキーの見事すぎる程の演奏に比肩するほど。第6番の3度のエチュードがこれほど詩的に響いたのを聴いたことはない!!二人のコロラトゥーラが歌っているかのよう!!そうか、これは3度の練習曲ではなく、「2声の練習曲」なのか!!
第11番のおなじみ「木枯らし」も華麗な指さばき。でもこれはベレゾフスキーのあの全てを語りつくしたかの様な木枯らしにはちょっと及ばないかも。しかし第12番「大洋」はもうフルスロットルといった感じ。化け物か、この激しすぎるテンペラメント、圧倒的なテクニック、感情全てを吐き散らすかの如く荒れ狂うアルペジオ、そして時折覗かせるこの歌は一体何事だろう!!
彼の事を大好きなある先輩が、「ソコロフは最強だよ」といっていたが、言い得て妙だ。音楽家に対して「最強」の称号はなんだかおかしな気がするが、この大洋などを聴く限り、一番しっくりくるのが「最強」という名なのだ。
ソコロフは最高のピアニストの1人である。僕の心を掴んで離さない、彼特有の「音の圧力」といったようなものは、他では聴けない凄まじいものがあると僕は思う。のこり4枚も非常に楽しみだ。
ソコロフのCD郡 ![]()
- Johann Sebastian Bach, Ludwig van Beethoven, Johannes Brahms, Fryderyk Chopin, Grigory Sokolov
- Grigory Sokolov: Bach, Beethoven, Chopin, Brahms [Box Set]
- Johannes Brahms, Grigory Sokolov
- Brahms: Vier Balladen/Sonata in F minor
- Fryderyk Chopin, Grigory Sokolov
- Chopin: Preludes Op28
- Prokofiev, Rachmaninoff, Scriabin, Sokolov
- Sonatas / Prelude
