兄弟の部屋は、どちらも綺麗に輝き、どちらの心も磨かれていきました。もう、争う事も、取り合う事も全く無くなりました。


そんな様子を陰でじっと見ていた平蔵さんは、その時悟りました。もたろうじいさんが、同じ小槌だといいながら、何で金と銀の小槌に分け隔てをしたのかを。又、その意味を。


平蔵さん自身が、二人の息子を分け隔てしていたから、その事を諭すためだったのでしょう。


又、同じ役目をする、同じものでも、使い方によって、全然違ってくる事を、平蔵さんは深く知りました。


その日、平蔵さんは、二人の息子を呼んで言いました。

「店は、二人で継いでくれないか。二人仲良く助け合って、今よりも、もっともっと二人の力で大きくしてくれないか」と。すると兄が言いました


「俺、店を継ぐどうこうよりも、弟に単に負けたくなかっただけだった、って事に気づいたんだ。俺が金の小槌を手にした時、俺の勝ちだと思ったしかし結果、俺はいろんな意味で完全に弟に負けた。店は弟に譲る。俺は旅に出るよ」


するとじっと聞いていた弟が

「人との勝ち負けじゃなく、俺は銀の小槌を振って、自分の弱かった心に勝てた気がした。そして人の痛みが見えた。俺はもっともっと自分を知りたい!自分の力で何かを成し遂げたい。だから店は要らない」と言いました。


平蔵さんは、二人の言う事に深く頷くと

「打ち出の小槌は、最高の答えを出してくれたよ

店は一代で閉じる。わしは、自分の夢をどうやらお前たちに押し付けてきたようだ。今のお前達なら、何をやってもやっていける」


そうして、二人の息子は平蔵さんの元を離れ、それぞれに自立していきました。


平蔵さんは、少し淋しい気持ちになりましたが、息子達が残していった、二つの金の小槌をお店に飾り、それを励みに又元気に商売を続けました。


もたろうじいさんは、今日も又、自然を相手にゆったりと、散歩を楽しんでいます。(終わり)


(言葉の魔法ーーボイスA i K)