〇色で誤解を招く?思い込みによる色選びの失敗

 

 色彩の持つ見えない影響力を知っている人と知らない人では人生の豊かさや人に与えるパフォーマンスが違います。色彩は最も早く視覚に刺激を与え、形や素材よりも記憶に強く残り影響を与えます。

 

 

一方で色彩は思いのほか、失望と喜びの両方をもたらします。少し使い方を間違えるだけで評価を下げたり、上げたりが本当にあります。特に第一印象では最も大事なポイントとも言えます。変えられない第一印象の苦い思い出が私にもあります。

 

 

 ある取材で専門職の方へのインタビューへ訪れた際のことです。私はカラーコンサルタントとしての立場での訪問です。今思えば先方の私への期待値が高かったのだと思いますが、私はお話を伺う側だからと思い、無難で目立たない黒いスーツ姿で行きました。

 

しかし当日、伺う前のやり取りのウエルカムな様子とは全然違っていて何か気配がよくないことを感じ取っていたのですが、その違和感が何なのかは分かりませんでした。取材時間も超過して終わろうとしていた時、相手の方は私にこう言ったのです。

 

 

「今日は、色彩の専門家の方がいらっしゃると思って、どんなファッションでいらっしゃるかすごく楽しみにしていたんです。そしたら黒スーツでしたので、少しがっかりしてしまって。はじめテンションが低くてすみませんでした。あなたとのお話はとても面白くて、まだまだもっとお話ししたいと今は思っているので、今日の第一印象はとても残念でした」

 

 

 なんて率直なコメントでしょうか!すぐに強烈に胸に刺さりました。色彩の専門家と名乗りながら、自分自身の見せ方について考えていなかった私。今日は取材だから「無難な黒でいい」という安直な気持ちもありました。

 

以来、どこへ行く時も私はこの方から頂いたコメントを胸に刻み、思い出しています。相手を喜ばせる色は何色かしら?相手は私にどのように期待してくれているかしら?ということを常に意識して、今日はどうしてその色を選ぶのか、私を待ってくれている相手のことを真剣に考えて色選びを続けています。無難な黒スーツをすぐに捨てて、似合う色の洋服に着替え、時間を巻き戻ししたいと本気で思った出来事の教訓です。

 

 

 このように「色」はその人を印象付ける大事な要素です。無難スタイルは無難なままで何の印象にも残りません。かといってやりすぎは不快です。快適な範囲のなかで、限りなく限界を目指す、このことが大切だと思います。私自身は後ほど紹介しますが「赤」で元気をもらい、「赤と黒」で就職での目的を達成しました。その後、「黒」で人をがっかりさせるという経験を経て、人から見えている自分は自分で演出できること、簡単に落胆させることもできることから、目的にあった色彩を使って自分をラッピングすることの重要さに気がつきました。

 

   

 

 

 中身は同じでも外見で見えている姿が違うと人は印象をミスリードします。多くの場合、この取材先の方のようにダメだと思ったことを直接語ってくれることはないでしょう。その点で私はラッキーだったと言えます。第一印象はもう二度と取り返せません。ならば色彩を上手に使う人になりましょう!色は自分自身の力になり、癒しになり、行動を促してくれるパートナーだと思います。

 

(大正大学客員准教授 色彩研究家 大平雅美)