「スタートアップの時期には、どんな営業やマーケティングをされていましたか?」
「地道に足使ったね」
「ええっ!てっきりいつもの感じで『ノリ』とか『いい気分』とかおっしゃるかと想像していました」
「セブンイレブンじゃないんだよ。セブンイレブンじゃないんだよ」
「というのも、僕自身スタートアップなんて言葉を使っていますが、それをやったことがあるかというと微妙なところです。学生時代にサークルの立ち上げをやったことはあるのですが、ビジネスというわけでではありませんし。商品開発にマーケティングプラン、ブランディング戦略含めてビジネスに必要な要素が一通り学べる貴重な体験なのではないかと考えているので、ぜひその辺の具体的な経験をお教えいただけると幸いです」
「うむ」
「でもいつもおっしゃってる『イメージして、いい気分でヒラメキを待つ』というスタイルではなかったんでしょうか?」
「ないない。とてもじゃないけどそんな発想はなかったよ。あったのは『絶対やる・やり切る』っていう気合だけだった」
「そうなんですか!それは相川先生が道場でおっしゃる『覚悟を決めたものだけが道場の門をくぐることを許される』ですね」
「そう」
「覚悟が最も大切だということは、こうやってお話させていただく過程でよくわかりました。でも、その覚悟を決められるまでに必要と思われるスキルは充分と思える程度に習得されたわけですよね?僕自身もYouTubeのアルゴリズムやツイッターのフォロワーを増やす方法を教えるセミナーですとか、営業マンのための心理コミュニケーションセミナーに参加しています。活躍されてらっしゃる方が集まるオンラインサロン にも参加して、毎日ビジネス関連の知識を高めようと意識しています。経験がないのは仕方がないので、その分、先に動いてらっしゃる方の経験から学びたいと思うんです」
「素晴らしい心がけだね。謙虚だ」
「いえいえ、僕はそれほど勉強できませんし、経営者の家族として生まれたわけではないのでそういうセンスは完全に未知数ですから。でも、相川さんが普段発信してらっしゃるYouTubeでの話し方や、ブログの文章を見ているととても面白いです! お上手だなぁと。やはり、それは起業されてからの経験の積み重ねだろうと感じます」
「それはあるけれども、それが全てではないよ。私がスタートした時は、まず老人ホームに電話した。10軒近く電話してね、アポを取ってプレゼン。決まればその施設で朗読や歌のステージをやらせてもらえるから、それ自体が経験値になる。そうして活動しながら衣装を着た写真を取って宣伝に活用したり、プロの仕事を引き受けるための技術を磨いたよ」
「とても地道な方法を選ばれたんですね! 和服とオペラに刀でイタリアっていうだけで十分話題性がありキャッチーですし、さらに自衛隊やアマゾン川、果ては宇宙人に拉致されたお話まで・・・五感に粘りつく強烈な印象を与えるという心理マーケティングの斜め上という感じがします」
「そうだね。でも、話題を作ろうとそう行動してきたわけではない。自分にとっては、自分の本心に正直な選択を積み重ねてきたにすぎないからね」
「自分自身の本心に正直にですか?」
「そう」
「しかし、本心が例えば『営業したくない』であったり『マーケティングしたくない』であった場合はどうなんでしょうか?そういうのが苦手な場合、、、いい気分でいられなくなってしまいますよね?そうすると相川さんが提唱されている創造の秘密から遠ざかってしまうわけですよね」
「うむ。営業しなきゃいい。マーケティングしなきゃいい。それだけだ」
「しかし、営業せずマーケティングせずだと、現実問題ビジネスは滞ってしまうのではないでしょうか?つまり僕が言いたいのは、短期的な視野から言えば『ラクできて気持ちいい』けれども、長期的な視点からすればかえって苦しくなっていくのではないか、そういう疑問です。どうお考えでしょうか?」
「二つ話す。一つ目は、自分にあった方法をすればいいということ。二つめは、都合のいい考え方をするということ」
「はい」
「東京で起業した当初にお付き合いしていた友人がいてね、フィットネス関連の方で、彼はその時点で年商8000万円を三人のスタッフで稼いでいたよ。経費はスタジオの家賃くらいだったから、相当な利益率だね」
「それはやばいですね!」
「その彼はアマノジャクな性格で、人付き合いをしたくないという人だった。だから営業したり、何かを売り込むのはやりたくないって言っていた」
「その方はどうやってその売り上げを作ったんですか?」
「彼は健康オタクで、健康について学んだことを書いてまとめるのが好きだったのだよ。そうして書き溜めたメモをブログ記事にしたらヒット!当時はブログブームだったから、そのブログから結構な数の芸能人やモデルが反応してくれて、数年であっという間に出版もして業界の寵児になったよ」
「それはすごいですね。文才があったということですか?」
「私は彼の文章の書き方は好きではないけれども、不安で生きている人たちを惹きつけるのはすごく上手だね」
「不安を煽るライティングスキル・・・それは一昔前のセールス心理学ですね。今でも週刊誌やワイドショーのタイトルでよく見かけますけれど、僕は極力そういうネガティブな情報は頭にいれないようにしています。考え方そのものが汚染されそうな気がするので」
「だね。悲観的な人、ペシミスティックな人、ネガティブな人、自分のことしか考えていない人というのは世の中にたくさんいるから気をつけるべきだ」
「はい」
「人は自分のやりたいこと、好きなことをやっている時が最も高いエネルギーが出る。だから、やりたいと思うことをやることが自然と自分にあった方法を引き寄せるのだよ」
「わかりました」
「二つ目は、今話したような考え方のことだ。多くの人は、ある特定の結果を出すためには、ある特定の行為が必要だと考えている。ところが、原因と結果の因果関係に作用しているのは、その特定の行為ではなくて、その行為に伴っているエネルギーなのだよ」
「・・・・すいません、前回もお聞きしましたが、エネルギーというものが肌感覚として理解できていません」
「それは君が冷静な証拠だ。なんとなくわかるという人には二種類いて、わかってないのに相手から認められたいからわかるという人と、本当にわかる人だ。 わからないという人にも二種類いて、本当はわかるのにわかるというと変な人だと思われてしまうことを恐れてわからないという人。そして、本当にわからない人だ」
「・・・その定義から言うならば、僕は本当にわからない人ということになるでしょうね。これまで、一定の結果を出すためには一定の努力を要すると学んできたんです。そう思ってそう口にしそう行動してきたんです。自身の経験からそうであると学んでしまったので、そうではないということをおっしゃられても、体感覚として理解できないようです。これは屁理屈かもしれません。本音ではわかりたいと思っています」
「うむ。君のその素直さが素晴らしいと思う。誰もが自分は優秀な人と思われたいものだから。特に君のように優秀で若い野心的な人はね。それでもこうして謙虚なのは、それだけ求めているからでしょう。その熱意が素晴らしい、と私は思う」
「ありがとうございます。いつもビシバシ生徒を切り裂く相川先生にもかかわらず、光栄です。 それでエネルギーなのですが・・・」
「君は大学に入るために相当なエネルギーを使った。そうだよね?それに今の会社に入るためにもエネルギーを使った」
「そうですね。特別な力とかではなく、単純に勉強しました。多少眠くても、自分で決めた課題をやり切るまでは手を緩めないように取り組んできました。すべてが達成できたわけではないですけれど、今乗っところは概ね思ったようになっています」
「うむ。私が言っているエネルギーとはそういうこと。仕事でも同じだよ。ある30代後半の社長仲間は画廊のオーナーなんだけど、本人がたまたま温泉に行ってた時、露天風呂が貸し切り状態になったんだって。その時、彼の好きな花が近くに咲いてるのを見つけてとても幸せな気持ちになったそうだよ。 それから30分後、湯上りに画廊から連絡があって、なんとその30分前に100万円くらいする絵が売れてたんだって」
「それはスゴイ偶然ですね!!」
「私も経験があってね、3年前にシンガポールの大好きなホテルのプールサイドでのんびりしていた時のこと。ぼーっと日の光を浴びながらリラックスしていたらメールが届いてね、なぜか覚えのない相手からお金が振り込まれていた。後で調べてみたら、数ヶ月前に外国で盗難に遭ったときの保険がおりたんだそうだ」
「それもスゴイ偶然ですね、、、」
「偶然の一致というにはタイミングが良すぎることが世の中では毎日起こっているんだよ。きっと君にも経験があるはずだがね」
「先生、今の時点での僕の理解度では、きっと周りの友人に話したところで夢のような話だと言われて信じてもらえないと思います。それに、僕自身がこれまで経験してきたパラダイムから乖離しすぎていて、ふに落ちるレベルまでは理解できていないと思います」
「急がなくていい。自分が良いと思う判断で行動することだね」
地道な行動、地道な努力。
確実で安全なもの、私はそう思って生きてきた。
ある時点までは。
その時点を超えて以降、そうやって得た光明が多くの人の役に立つということを確信している。
それは、世の中には地道な努力ができない人が大勢いること。
神様は皆それぞれ自由に生きられるように作っているはずだから、努力家だけがうまくいくような不公平はされない。
私は努力家だから、努力できない人の気持ちがわからなかったし、ダメな人だと決め付けてしまっているところがあった。
本当はそれはただの個性。
努力家ほど陥りがちな罠がある。
それが、義務感で続けてしまうことだ。
苦しくても歯を食いしばって、特定の行動を続けてしまう。
万物の根幹はエネルギーであるから、苦しいエネルギーを発して行動することによって、その苦しいエネルギーは二乗のスピードで現実化してしまう。
つまり、ゆるく楽しくワクワクしながらやるよりも、結果を得るまでに余計な時間がかかってしまうのだ。
一方、努力が苦手な人ほどエネルギーに敏感。
だから、つまらない・苦しそう・気持ち悪いと感じてしまうような行動は取れない。
ゆとり世代以降の若者たちと関わっていると、それを痛感させられる。
昭和中盤生まれの中間管理職たちと彼らとの意識ギャップは、案外ここに生起しているのではないだろうか。
しかし、商売上手はエネルギーを読み取るのがうまい。
肌感覚というべきか。
一方、YouTubeにしてもGoogleのSEO対策にしてもそうだが、アルゴリズムの性質を理解して適切な行動をとることが成功の秘訣でもある。
ロジックとエモーション。
この二つのバランスを取る時代なのだということ。
人間界はこの両面で成り立っているのだから、どちらも疎かにすべきでない。