飢饉で女房のおもんを身売りしなければならなくなった次郎作・おもんの夫婦。

話を聞きつけた太郎兵衛は都から馳せ参じる。

「わしらにはこの日照りこそまたとない果報

あの雨乞いこそ妙なる音曲 ハッハッハ」とご機嫌。

 

一方、次郎作とおもんは悲嘆にくれる。

おもん「もみがら食べて暮らせたらなあ〜」

次郎作「かえる、何食うていきとんじゃろか」


次郎作「おまえのこの目もう見られんのじゃなあ」

おもん「見られん」

次郎作「おまえのその声もう聞かれんのじゃなあ」

おもん「聞かれん」

 

そこに太郎兵衛登場!

太郎兵衛「おいやい、さように嘆くこともあるまいがな。

なあに人間、心の持ちよう一つじゃがな。」

 

太郎兵衛は機嫌よくおもんを連れて行こうと口八丁手八丁

「売られたおもんは幸せになる」と説く。

太郎兵衛「これでおぬしも幸せ。売られるおなごも果報者。

にひき合わされたわしも幸せ。三方丸くめでとう楽しゅうござるわ。」

 

ところが、二人は些細なことから喧嘩を始める。

次郎作「こ、こ、こいつめが!」

おもん「次郎作…おらを打っただな!」

 

割って入った太郎兵衛は喧嘩に巻き込まれて…。

おもん・次郎作「おのれ!おのれ」

太郎兵衛「これきずものにせまいぞや。

引っ掻いてはならんわいの。これ、わしを打つとは」

 

たんこぶを作ってたおれた太郎兵衛。

 

はじめて叩かれた嬉しさに涙をこぼすおもん。

おもん「次郎作…おらを叩いてくれた。初めて立派に叩いてくれた」

次郎作「かんにんせえ、おもん」

おもん「あほんだれ!おらあ、おまえに叩かれてうれしいんじゃわ」

太郎兵衛はおもんの泣き声に死んだ女房を思い出す。

太郎兵衛「おらの女房に冥土の女房にそっくりそのまま生き写しだわ」

感極まった太郎兵衛は「女房の菩提!」と施しの小判を二人に渡す。

 

次郎作は男のプライドから施しの小判を突き返そうとする。

機転の利くおもんはとっさに、施しの小判と身代の小判を引き換えることを思いつく。

 

おもん「次郎作よ!身代は二枚。戻す小判も二枚じゃぞ!」

太郎兵衛「げえ、なんという腹黒さ!」

 

引っ込みのつかなくなった太郎兵衛は

「達者で暮らせやい!」と去る。

おもん・次郎作「ありがとうございます太郎兵衛さま!」

 

太郎兵衛「わしほどお人好しの人買いはまたとないぞやい!」

完!