第四弾続き。
だんだん長くなる〜
















その日からうしくんとは会うこともなく、それどころか学校で見かけてもガン無視を決めこまれた。


うしくんと会わなくなってからの放課後と言ったら、もう言い表せないくらいに退屈だった。彼女の幸せを考えた結果なので提案自体に後悔はしていないにしてもこの退屈さ加減はちょっと、いや、かなりやばい。

なにをしていいかわからなくて、ついに公園の小学生と顔見知りになってしまったほどだ。これで告白うまくいってなかったらどうしてくれよう。そこまで考えてから、心の中でとは言え、随分と独り言が増えてしまったなぁと情けなくなった。



こんな気分の時は公園の小学生と遊ぶに限る!!

退屈なHRが終わると、俺は一直線にチャリ置き場に急いだ。

今日はなにすっかな。まぁ小学生がもう始めてる遊びに混ぜてもらうだけなんだけど。

チャリに跨りながらそんなことを考えていると、後ろから声が聞こえる。

聞き慣れた、芯のある声。


「待って!!!!おーじ!!」


走ってきたのか、うしくんは膝に手をつき、肩で息をしていた。


「……告白」

「え?」

「成功したのか?」


突然の質問にうしくんは一瞬驚いた顔をしたあと、ニカッと笑ってピースサインを突き出した。


「なんだ、やったじゃん!!なに?その報告するためにわざわざ走ってきたんだ?」

「そう…だけど、そうじゃないよ!!」


うしくんはズンズンと近づいてきた。


「じゃあなん…」

「おーじ、やっぱり、放課後遊ぼ?」

「はぁ?何言ってんだよ、それじゃ彼氏が…」

「じゃあ!おーじは私と付き合いたい!?」

「いや全然?……ウッ」


真面目に答えたのに鳩尾を殴られた。

地味に痛い。


「そこは付き合いたいって言って!!でもそうでしょ!?私だってそうだよ!」

「何が言いたいんだ?」

「ねぇ、放課後、つまんないでしょおーじ」


会話が全く噛み合わない。

うしくんの質問は意図が全然見えてこなかったが、真剣な顔をしているので正直に答えることしかできない。


「つまんねーな、退屈すぎて鯛になったわ」

「そういうのいいから。」

「ごめん」

「私もつまんないの。おーじもつまんない。なのに一緒にいないのってなんか意味ある?」


正論だった。

一緒にいるのをやめたらお互いにつまらなくなった。ならまた一緒にいることにすればいい。

理屈はわかるが、彼氏はどうなる? 

というか。


「彼氏と遊べばいいんじゃねーの…?」

「あいつとは学校内でも会ってるし休みの日だって会ってる!!も~~わっかんないかなぁー!」


うしくんはチャリを蹴った。

チャリが悲鳴をあげる。


「彼氏は彼氏!友達は友達なの!!変な気遣いほんとウザい、周りにどう思われるとか彼氏がどうとか、関係ないから!!いいから、遊ぶの!?遊ばないの!?」

「あ、遊びます…」

「声が小さい!!」

「遊びます!!!!」

「出るじゃん」


いつぞやの河川敷の時のようにうしくんが笑った。





たまには私が漕ぎたい。と半ば強引に俺からチャリを奪い、うしくんはチャリを漕ぎはじめた。

そのチャリの後ろにおとなしく乗る。

このパターンはなんだかんだで今まで一度もなかったのでうしくんといるのが久しぶりなのもあってなんだか落ち着かない。


どこに行くかもわからないままうしくんが漕ぐチャリは進む。

しばらくしてうしくんがポツリと言った。


「前に河川敷で聞いたよね。男女の友情ってあると思う?って」

「あー、うん、言ってたなぁ」

「あれ、おーじ答えなかったよねぇ」


鋭いところをついてくる。

あの時俺はどう答えていいのかわからずに有耶無耶にしたのだが、うしくんにはバレていたようだ。

うしくんは何故か楽しそうに笑って漕ぐスピードを急にあげた。風の音が大きくなって、他の音はほぼ聞こえない。

うしくんは叫んだ。



「ねぇ、男女の友情ってあると思うー!?」



実はあの日からずっと答えを探してた。

とうの昔に答えは出ていたのに、理由をつけてわからないふりをしていた気がする。でも。今度は自信を持って答えられる。


俺はうしくんにダメ出しをされないように大声で叫び返す。


「あるに決まってんだろーーーー!!」


うしくんは嬉しそうに笑ってから、





いきなり急ブレーキをかけた。


「逆方向だった!!おーじ、運転手交代!!」

「ハイハイ」

「ハイは一回~」


いつものやりとりをしながら、チャリはもと来た道を引き返した。




第四弾、かなうし。
似たり寄ったりになってきた気がする、気をつけます…w
















「ねぇおーじ。」

「どうしたー?」

「美味しいパンケーキ屋さんができたらしい」

「お、それはそれは」

「興味深くない?」

「深い」


だいたいはうしくんの提案からその日の予定が決まる。

チャリの後ろにうしくんを乗せて、今日のターゲット、"美味しいパンケーキ屋さん"を目指す。



「ナビは任せたぞ!!」

「任せろーっ」

「よし、んじゃ、次どっち?」

「わからーんっ!!」

「は!?」

「おーじの思うままに進め~」

「さっき任せろって言ってたの誰だよ!!!」


うしくんはいつもこの調子だ。

焦ってる俺をケラケラと楽しそうに笑って見ているだけで、目的地への道案内など最初からする気はない。



「つ、着いた……!!ここ?」

「ここー!おーじすごい!着いた~」

「だろ~?敬いたまえよワトソンくん。」

「ワトソンくんじゃなくて、うしくん」

「ごめん」

「以後気をつけたまえおーじくん!」


バシッと肩を叩かれうしくんがチャリから降りた。

うしは王族より偉いらしい。



「「わぁお……」」


何枚も重ねられたパンケーキ、その上からかけられている金色に輝くメープルシロップ、主役と言わんばかりに中央にちょこんと乗せられたバター。

それを見た途端、俺たちは感嘆の声をあげた。


「これはやばい」

「やばいねおーじ」

「やばい」

「やばい」


語彙力が抜け落ちた会話に店内の客たちがクスクスと笑った。

しかしそれは俺たちの耳には届いていない。今は机に置かれたパンケーキに目だけでなく耳まで奪われてしまっていた。




パンケーキを食べ終え、チャリに乗ってうしくんを家まで送る。

うしくんが家に吸い込まれるのを見届けるまで任務は終わらない。


「今日の思いつきもなかなかでしたなぁ」

「そうですなぁ」


2人で先ほどのパンケーキを思いだしてついつい頬が緩む。


「明日はどうしよっかなー」

「え、そういうのって当日決めてるんじゃないんだ?」

「明日どうしよっかなーって悩んでたらいつの間にか当日になってんの!」


肩を軽く押される。

チャリがよろめいたが、ど田舎に位置する俺たちの地元ではこれくらいで誰かにぶつかることなどほぼない。かなぶんにぶつかる確率の方が上だろう。


今日もうしくんの家が彼女を飲みこむのを見届けて、任務完了となった。








「ねぇ、男女の友情ってあると思う?」

「…なんだよ、いきなり」


今日は予定なし!就寝!!

いきなりそう叫んだうしくんに河川敷まで連れてこられて(正確には俺がチャリで連れて行った)土手に寝転んでいると突然うしくんが言った。

不審に思ってうしくんを見るも、表情は読めない。


「…好きな人が、いるんだよねぇ」

「へー!!うしくんの恋バナ!聞きたい」

「うっさいなぁ!!黙って聞いて」

「ごめんごめん、続けて」


パチン、とおでこをはたかれたので黙って聞くことにする。

にしてもこのうしくんに想い人がいたとは。


「クラスで仲良くなったんだけど、まぁ言っちゃえば草食系な感じの。でね、いい感じになったかと思ったらさ~~!」

「どうした?」

「おーじさんと付き合ってるんだろ?って!!!」

「は!?」


思わず起き上がるとうしくんが笑った。


「ありえないっしょ?」

「ないないないない、百パーない。」

「でしょ~~?ホントさぁ草食系のくせに余計なこと考えなくていいっつーの!」


うしくんは足をブン!!と振り下ろして反動で立ち上がって叫んだ。


「遠慮してんじゃねーぞ、この、ド草食ーーーーーーーーっ!!!!」


あ。驚いたおっさんがコケた。

大丈夫かな……

哀れなおっさんをよそにうしくんはキッとこちらを睨んだ。


「おーじも!!言って!リピートアフターミー!!」

「えぇー…」

「遠慮してんなド草食ーーーっ!!!」

「ど、ド草食ー」

「もっと!!!」

「ド草食ーーーーーーっ!!!」

「出るじゃん」


満足げにうしくんは座った。

こんなに声を出したのなんて体育祭以来だ。



「あー、スッキリした!!はい、解散!」

「そら良かった」

「ほら!さっさと漕ぐぅ!」

「ハイハイ」

「ハイは一回~」


落ち込んでいたように見えたが、叫んだら本当にスッキリしたようで、うしくんはもういつものうしくんの調子に戻っていた。


夕焼けが眩しい田舎道をうしくんを乗せて漕ぐのも随分当たり前になった。

きっかけなんて覚えてないけど、今が楽しければどうだっていいと、少なくともうしくんは思ってるはずだ。


でも、確かに。

さっきのうしくんの(正確にはうしくんの想い人の)言葉を思い出す。


『おーじさんと付き合ってるんだろ?』


側から見たら俺たちはそう見えるのかもしれない。毎日放課後は一緒に出かけている男女をそういう目で見ない方が少数派だろう。


うしくんのことは好きだが、恋愛感情ではない。これは嘘ではなくて本心からそう言える。でもうしくんのことを好きな人からしたら、俺の存在はあまり面白くはないに決まっている。



「なぁ」

「んー?なにおーじ?」

「好きな人に告白しねーの?」

「は、はぁぁ!?」


うしくんがゴホゴホと咳き込んだのでチャリがかなり揺れた。


「そんな、なんで急に…っ」

「しねーの?」


チラ、と後ろを向いてもう一回。

うしくんは何か言い返そうと口を開くも何かを飲み込むように口を閉じ、それから静かに言った。


「…するよ。そうしないと、なにも始まらないし」


しばらく無言の時間が続く。

周りには誰もいなくて、チャリの音と風の音だけが耳に飛び込んでくる。


そろそろ下り坂にさしかかる頃、俺はうしくんに告げる。


「あのさぁ、俺と遊び行くの、今日で終わりにしねー?」

「…………え?なに?ごめん、意味わかんない、もう一回言って」

「だから、今日で俺たち、放課後会うのやめねー?って。」




うしくんは返事をしなかった。

そこからは坂にさしかかって話どころではなくなって、気づいたらうしくんの家の前だった。

最後にじゃーな、と声をかけると、うしくんはやっと振り返って俺の胸あたりをグーで殴った。


「いい男ぶったつもり?」

「まぁね、実際俺、いい男だし?」

「きも!……いいよ、じゃーね!!バイバイ!!」


もう一度殴ってからうしくんは家に振り向くことなく吸い込まれていった。





続く



第三弾はすがるさんと任意の誰かってことで。
2人ですっげぇ悩んで、君に決めた!












「ただいまー」

「おかえりー」

扉を開けるとジューッという何かを炒めている音が聞こえる。

同居人が晩ご飯を作っている音だ。


「今日は何?」

「麻婆茄子」

「いいね」


俺がナス好きだとカミングアウトしたその日から、食卓にはナス料理しか並ばなくなった。確か昨日はナスとトマトのパスタだったし、一昨日はナスの天ぷらだった。


同居人、すがるさんはたまたま利害が一致したために成り行きで同棲をすることになった。

こう言うのもなんだが、接点は特になく、偶然に偶然が重なった結果が今の同棲なのだった。


実はすがるさんのことを俺はほとんど知らない。名前と、料理がうまいこと、それだけ。

多分すがるさんも俺の名前とナスが好きだということしか知らないと思う。

俺はすがるさんのことをすがるさんと呼んでいるけど、実際のところ歳上なのかどうかさえもわかっていなかったりする。



「いただきまーす」

「はいどーぞー」

「うん、今日も美味い。すがるさんの料理とナスに乾杯。」

「褒めても何も出ないぞ~」

「それは困る」

「しょうがない、特別だよ」


冷蔵庫からナスのおひたしがあらわれた。


「あー、これ、俺の好きなやつじゃん!」

「どうせナスならなんだっていいんでしょう!?この、ケダモノ!アタシのカラダだけが目当てだったのね!!」


すがるさんはすぐ茶番をはじめる。

面白いからそのまま喋らせておいて、俺は黙々と食事をするのが恒例になりつつある。


「ちょっとー!聞いてる!?」

「聞いてるけど早く食べな?冷めちゃうよ」

「それは良くない。いただきます。」

「はい、どうぞ」


こうして作られた料理が2人の胃袋におさまり、食器洗い係の俺が仕事を終えるとその日のすがる食堂は閉店となる。

これが楽しみで家に早く帰ることがほとんどとなった最近では、俺は仲間内で付き合いが悪いと専らの評判だった。






「なぁ、彼女できたん?」

「は?」

席に着くなり友人が真面目な顔をして聞いてきた。そんなに真面目な顔して聞くことじゃねぇだろ、と可笑しくなる。

おそらくこの質問は最近俺の付き合いが悪い原因は彼女ができたからだと勘ぐったからしたに違いない。


「できてないよ、女の子とは住んでるけど。ほらあの前紹介してもらった」

「あー!?あのままほんとに付き合ったのか!?」

「いやだから付き合ってないって。紹介だって、そういうんじゃないし。」

「はぁぁ!?好きなんじゃねぇの!?」


好きか嫌いか。で言えばもちろん。


「?好きだけど。ご飯美味しいし。」

「おいおい胃袋掴まれちゃったんじゃねーの!?」

「あー、かもなぁ。俺がナス好きって知ってからナス料理ばっか出してくれんだよ!超幸せ」


あぁ今日は何かな、そろそろシンプルに焼きナスなんてどうだろう。

ニヤニヤと今晩のメニューを予想していると友人たちは怪訝な顔をして疑問を口にした。


「なぁそれって……嫌がらせ、じゃね?」

「嫌がらせ…」

「なんかお前に不満とかあるんじゃねーの?」

「不満…」

「実はもう同棲やめたい、とか?」







家に帰るとナスのいい匂いとダシの香りが漂ってきた。

「おっかえり~ざっちゅん今日も可愛いでちゅね~?ちゅっぺろ」

「…ただいま。今日はなに?」

「揚げ出し豆腐と揚げナス~うふふ」


今日のすがるさんはテンションが明らかに高い。


「いいことあった?すがるさん」


ダシのしみた揚げナスを飲み込んでから聞くと、すがるさんはちょっとだけ微笑んでからすぐに真顔に戻って箸を置いた。


「逆に雑種はなんかよくないこと、あった?」

「あったにはあった」

「だよねぇ、なんか変だし。何か言われたかな?オネーサンに言ってごらん?」


ちなみに雑種というのは俺の愛称のようなものだ。

俺も箸を置いてすがるさんをまっすぐに見つめる。


「毎日ナス料理なの、すごい嬉しい。毎日帰ってくるの楽しみだったし美味いし…。でもさ、もしかして、毎日ナス料理出すのって、嫌がらせ、なの…?」

「……」

「俺に不満がある?」

「……」

「それとも、同棲、やめたい?…俺といるのはもう嫌になっちゃった?」


すがるさんは俺が口をつぐむまでずっと俺の目を見ていたが、聞き終わった途端深いため息をついた。


「はぁぁぁぁ。なんっでそうなるかなぁ?友達にでもなんか言われた?」

「…言われた、今のそのまんま全部」

「やっぱりね。」


やれやれと言わんばかりにすがるさんは立ち上がって冷蔵庫から缶ビールを持って戻ってきた。そして無言でグビグビと酒を煽ると、ダンッ!!!と缶を置くなり再び俺の目を捕らえた。


「あのさぁ、私も暇じゃないわけよ。嫌がらせのために手間のかかるナス料理を被らないように毎回毎回作る労力はない!!あと不満があったら言うし、嫌だったら我慢してないから。本人からじゃない言葉を真に受けないで!!!」

「ごめん」

「私の感情は私だけから受けとってよ……私は雑種が喜ぶから毎日ナス料理を作ってるし、雑種といたいから同棲続けてるんだよ。……雑種は違うとは思うけど」


すがるさんはそこまで言うと気まずそうに視線をそらした。

雑種とは違う。

…なにが違うんだ?

すがるさんの作るナス料理が美味しいから食べてるし、すがるさんとの生活が楽しいから同棲を続けている俺はすがるさんと同じなんじゃないのか。


「…最後の意味はわかんないけど、俺もすがるさんといたいから同棲続けてるし、すがるさんが好きだから不安になっちゃった。不快な思いさせてごめんね?」

「うん…」

「ほら、もうこの話は終わりでいいよな?ご飯食べよ?」

「うん…食べる…」


すがるさんは箸を持ち直してもそもそと食事を再開させた。

どうやら友人たちの発言は見当違いだったようで、俺は無駄に不安になった上にすがるさんを怒らせてしまったようだった。

さっきまでのハイテンションをしぼませてしまったのでなんとかしようととりあえず口を開く。


「あ、そ、そういえば、今日って同棲始めて3ヶ月じゃん!お祝いなのに俺なんも用意してな…」

「は、ちょ、雑種、覚えてたの…?」


すがるさんが食い気味で聞いてきた。


「え、うん。本当はなんか買ってこようと思ってたのにな~今日色々あって今の今まで忘れてたわ!最悪だ~」

「いやいやいや全然いいからそんなこと!!!」


すがるさんがまた立ち上がった。

今日のすがるさんはよく席を立つ。

何度も食事を中断されて、心なしか揚げナスがムッとしているような気がする。


「さっきは怒っちゃったけど、私も不安だったんだ…所詮は利害の一致で始まった同棲だし、私たち付き合ったりしてるわけでもないし、いつかは終わる生活って割り切るようにしてたんだけど。まぁ、無理だったよね。」


すがるさんが一向に座る気配を見せないから、俺もつられて立ち上がる。


「どんどんどんどん楽しくなってって、いつの間にか大切になってた…。最初はね、餌だったんだ、ナス。ナス料理を出せば雑種は寄ってきてくれるって。笑っちゃうよね。」


まんまと釣られた俺は笑っちゃえない。


「でもさぁ~~思った以上に雑種がナス料理喜んじゃうから~~!嬉しいじゃん~~!あーほんと、私だけ大好きでバカみたいじゃんね!?」


すがるさんが髪をぐしゃぐしゃと乱れさせているのをやんわりと手で止める。


「同棲を始めた日はただ始まったなぁって思っただけだったんだけど、大切になっちゃったらもう記念日じゃん…どうせ私だけ覚えてるんだろうなって、でもそれでもいいやってちょっとゴキゲンになっちゃってさぁ~~ケーキまで作ったし……」

「そうなの?」

「そうなの~~~~」


冷蔵庫を覗くと、すがるさんの言った通り手作りらしきケーキがお行儀よく座っていた。さすがにナスではなかった。


「すがるさん」

「なに~~」


もうテンションに引っ込みがつかないらしく、すがるさんは語尾を伸ばしっぱなしだ。

ずっと下を向いて表情が見えないすがるさんの頬に両手を添えて上を向かせた。


「俺難しいことはよくわかんないけど、すがるさんのこともっと知りたいって思ってるよ」


すがるさんは口をあけてポカンとしているが構わず続ける。


「だから、なんでもいいからすがるさんのこと教えてよ。ね?」


そう言って笑うと、すがるさんは頬を赤くしてぶっきらぼうに言った。



「カレー屋でバイトしてる!!!以上!!ご飯続き食べよ!!」


すがるさんが席に着いて食事を再開したので追いかけるように席に着いた。


「なんだそれ初めて知った!だから今までカレー作んなかったの!?」

「そうだよ!家帰ってきてまでカレー作るの嫌でしょ!」

「確かに。」





今度すがるさんのバイト先を調べて会いに行こう。もちろん、すがるさんには秘密で。

ニヤニヤと計画を立てていると、すがるさんがいつもの茶番を始めたので聞こえてないふりで機嫌を損ねてしまった揚げナスを口に含んだ。

うん、今日も美味しい。