俺のことが大好きなろふぇさんは今日、結婚する。
俺ではない他の人と。
自分で言うのもなんだが、ろふぇさんは俺のことが大好きだと思う。
俺もろふぇさんのことはその、好き、だと思う。でもだからと言ってそれを伝えようとか、ましてや付き合いたいとか、そんな風に思うことはなかった。
ずっとろふぇさんは俺のことが好きで、俺も言わないけどろふぇさんが好きで。そうやって続いていって、いつかは収まるところに収まるんだろうと思ってた。
そんな生ぬるいことを考えつついつも通りの日常を過ごしていたはずだったのだが、"それ"は突然突きつけられた。
いつものようにTLをサラッと眺めていると見つけたのは、ろふぇさんがアップしていた画像。男女の手が写った写真。その手にはお揃いの指輪がつけられていた。もちろんそこに写った女性の手はろふぇさんのもので間違いはない。そして、隣に寄り添う男性の手は、どう考えても自分の手ではなかった。
それを見たTLの住民たちは口々に祝福の言葉を送り、それに照れつつも幸せそうに返事をするろふぇさんをどこか遠くでぼんやりと見ているような気分だった。その日、俺はろふぇさんにおめでとうを言えなかった。
そこからしばらく経って、家に結婚披露宴の招待状が届いた。そしてそれを見計らったからのようにろふぇさんからDMが届く。
『届いた?』
『何が?』
『よかった、届いたみたいで』
わざととぼけてみても、ろふぇさんにはお見通しなようだ。
少し間が空いて、また返事が返ってきた。
『来てくれる、よね?』
少し不安そうな、遠慮がちな問いかけ。
行かないなんて選択肢はなかった。
『行くよ。』
『ありがとう、ララさん。あとね、お願いがあるんだけど…』
そんなDMのやりとりからさらに月日は流れ、ついに披露宴当日になった。
どうやら席は配慮されているらしく、同じテーブルにはお馴染みのメンツが顔を揃えていた。
「うわぁぁ、私がドキドキして来た…」
「いやなんで」
会場にはすでにみんな揃っているようで、あとはろふぇさんと新郎が登場するのを待つだけといったところだ。妙な緊張感のようなものが漂っていて、同席の灰歌ぽんは深く深呼吸をした。ツッコミを入れるりゃなもさっきから時計を見てはそわそわと落ち着かない。
「でもそろそろだよね…私まで緊張してきた…!」
たんちゃんにも緊張が伝わり、そわそわが更に増したところで音楽が流れ、大きい扉が開いた。司会の説明でそれが新郎だとわかった。
新郎は綺麗なお辞儀をして爽やかに笑顔を浮かべると、後ろを振り向いた。
笑いながら何かを言ったかと思うと、後ろからおずおずとろふぇさんが姿をあらわす。
純白のドレスを纏ったろふぇさんはぎこちなく礼をしてぎこちなく笑ったあと新郎にエスコートされてゆっくりと歩き出した。
緊張しているろふぇさんに新郎が優しく笑いかけるとろふぇさんがつられてふわっと笑った。それを見て、なぜか胸がちくちくと痛んだ。
「おい、ララさん。」
「ん…?なに、組長」
「気持ちはわかるけど拍手くらいしろよ」
みんなが拍手をしながら興奮したり涙ぐむ中でどうやら俺はずっとなにもせず真顔になっていたようで、隣の席の組長がこそっと注意をした。慌てて拍手をする。
でも、気持ちはわかるって、どういうことだろう?
考えているうちにろふぇさんと新郎は会場の1番前にたどり着き、披露宴が始まった。
ろふぇさんはこういうお披露目的なものは苦手で、やるなら友人と身内だけを集めて小さなパーティーを開きたいと前々から言っていたが、新郎はとても人望のある人らしく、呼びたい人が多いのでどうせなら大きな会場で一気にやってしまおうという話で落ち着いたらしい。
このことは今日まで知らされることはなく、今さっき知った俺は実は誰よりも緊張していた。
そう、ろふぇさんのお願い。
それはなんと友人代表スピーチをやってほしいというものだった。
最初はすごい勢いで断った。友人といえばもっと学生時代の友人やリア友がいるはずで、こんな所謂ネッ友の俺がやるべきではないと思ったからだ。
しかし思った以上にろふぇさんはしつこく、渋々受けたお願いだったが、会場がこんなにも大きいなんて聞いてないぞ…。
ろふぇさんや新郎の友人たちが余興をやっても普段食べられないような食事が出されても興味がそそられず、気づいたらキャンドルサービスが始まっていた。
何個かの机を回った後、ろふぇさんと新郎がこちらの机にやって来た。
「ろふぇさん綺麗だよ~~」
「また泣く~」
「だって~~~」
灰歌ぽんが何度目かわからないが泣き出す。りゃなもからかいながらも少し目元が光っていた。
「ありがとね~、灰歌りゃな!たんちゃんも!もちろん他のみんなも!」
「幸せだねろふぇちゃん」
「えへへへ」
ろふぇさんと新郎が幸せそうに笑い合う。
そしてキャンドルに火をつけると、ろふぇさんがこそっと耳打ちする。
「来てくれてありがとう、スピーチ楽しみにしてるね」
何か返そうと振り向くとすでにろふぇさんは次のテーブルに向かって行ってしまった。
そこからも胸の痛みとスピーチをすることへの緊張で何もかもが頭に入ってこないままとうとうスピーチの時間になってしまった。
「では、友人代表スピーチ、ララさん前にお願いいたします。」
こんな大勢の前でHNを呼ばれるとは夢にも思わなかった…。
やりづらさを感じつつ立ち上がると、同席のみんながざわつく。
それもそうだろう、今の今まで俺がスピーチをすることは組長とろふぇさんしか知らなかったのだから。
「うっそ、らんさん!?」
「ララさんだったんだ…!?」
驚きの言葉を背に、どんどんろふぇさんたちの方へ進む。
やがてマイクスタンドの前までやってきた。
台本は用意しなかった。いや、できなかった。正直なにを話していいのか未だにわからない。
とりあえず、マイクをオンにしてからネットで調べた導入部を話す。
そして調べた順番に沿ってろふぇさんとの出会いやエピソードを紹介する。
「…そうやって、今日まで来ました。今のを聞いていて、そしてろふぇさんと仲が良かった皆さんならお分かりでしょうが、ろふぇさんははっきり言って変態です。メガネに目がないし。」
優しい人が多いのか、くだらないダジャレにも関わらず笑いが起きた。
ちょっとー!なに言ってるのララさん!と、ろふぇさんの方から怒ったような声も聞こえた。
「…でも、メガネメガネ…じゃなかった、ララさんララさんって慕ってくれたことはとても嬉しくて」
クスクスと笑う声が聞こえる。一呼吸置いて、続ける。
「…多分僕はろふぇさんにそうやって構ってもらうたびに救われていたんだと思います。いつもは言えないけど、ろふぇさんにはとても感謝しています。ありがとね、ろふぇさん。」
自然に微笑めていたかはわからなかったけど、ろふぇさんに笑いかけると、ろふぇさんは嬉しそうにふにゃっと笑い返してきた。
「そんなろふぇさんが結婚するっていうのはなんだか実感がわかないです。ご本人のいる前でアレなんですけど、嫁いでいく娘を持つ父親のような気持ちです。…うん、ちょっと寂しいです。でも、こんなに優しそうで良い人そうな旦那さんと幸せそうに笑ってるろふぇさんを見て安心しました。これからは2人で素敵な家庭を築いてください。」
もう自分がなにを言っていて会場の人たちがどんな顔をしているのか、全くわからないし見えなかった。それどころか新郎さえ見えず、俺にはその隣にいるろふぇさんしか見えてなかった。
大好きだった人。手に入れられなかった人。伝えられなかった人。大切な人。
「(俺だけ置いていかないで。)」
声に出せずに口元だけで紡いだ言葉はろふぇさんに届いてしまったのかどうかはわからないが、ろふぇさんは驚いたような、嬉しいような、泣き出しそうな、よくわからない顔をしていた。
「(大好きでした、)」
「…どうか、お幸せに。」
ありがとうございました、と礼をすると会場から拍手が起こった。
最後にろふぇさんを見ると、ろふぇさんは顔を覆って泣いていたのが見えた。
席に戻るとみんなが良かったと改めて拍手をしてくれた。
どっと疲れて椅子に座ると、隣の組長が言った。
「やればできるじゃん」
「スピーチ?できないと思ってた?」
「違う違う」
じゃあなんのことだろう?
頭にハテナマークを浮かべる俺の頭を組長はぐしゃぐしゃと撫でた。
「告白!」
「は!?あれ、聞こえて…!?」
「俺には読めちゃっただけ、そんな焦んなって!」
ま、ろふぇさんにはわかっちゃったかもなぁ?と組長はケラケラと笑った。
結局ろふぇさんに面と向かっておめでとうは言えなかったけど、胸の痛みは不思議と消えていた。