何のために、
最初、この日起こったとある事件について彼に怒った。
彼の勝手な決断に腹が立ったから。
けれど、その話が収束に向かっていくうち、
彼の『考え方』について憤りを感じずには居られなくなった。
何が起こったのかは詳しくは書かないけれど。
彼が目先の事だけを考えているようにしか思えず、
その視野の狭さにうんざりしてしまったのだ。
「その考え方が嫌だ、」
口火を切った言葉に勢いが付く。
「何のために一緒に住むのだとか、
何のために結婚式を挙げるのだとか、
何のために今準備をしているのだとか、
その意味をもっと考えて。」
「貴方が言ってるのはそれを全部犠牲にするってこと。
そうまでする価値がそれにはあるの?」
しょげたように、ただ相槌を打って話を聞く彼。
「・・・・でも俺はそれが正しいと思ったんだよ、」
それを聞いて、何だかわたしは
弱い者いじめをしているような錯覚に陥る。
間違った事は言っていないはずなのに、どうにも後味が悪い。
彼はそれが正しいと思った。
それがわたしも望んでいると思ったから。
わたしはそれが正しいと思わなかった。
それは二人のこれからの為にならないと思ったから。
テツカの為にもそうしようと思った、と彼が言う。
その言葉を聞いて、散々彼に対してぶつけた言葉の余韻が苦くなった。
揉め事の余韻がまだ残る中、
さっきまでの沈んだ空気を晴らそうとするように、
思わず顔がほころんでしまうような言葉を、彼が口にした。
「早くお前と一緒に住みたいんだ、」と呟いた言葉が耳に残る。
けれど、嬉しくなるような言葉を耳にしても、
それを素直に受け入れられない自分もいた。
ひたむきに気持ちを注いでくれる彼という存在が、辛くなる時がある。
真っ直ぐな彼の温かさに触れられると、
どうにも惨めな気持ちを感じずには居られない時がある。
歪にひねくれた自分の心や性質が、露呈するようで。
彼を諭したくて言った言葉なのに、
彼を詰るだけの文句になってしまったようで、
どうにも、心の中がどろどろするような揉め事だった。
もうこういうのは、いいや。