以下転載いたします。

内部被爆が一番怖い

原発の建屋の中は、全部の物が放射性 物質に変わってきます。物がすべて放射 性物質になって、放射線を出すようにな るのです。どんなに厚い鉄でも放射線が 突き抜けるからです。体の外から浴びる 外部被曝も怖いですが、一番怖いのは内 部被曝です。 ホコリ、どこにでもあるチリとかホコ リ。原発の中ではこのホコリが放射能を あびて放射性物質となって飛んでいます 。この放射能をおびたホコリが口や鼻か ら入ると、それが内部被曝になります。 原発の作業では片付けや掃除で一番内部 被曝をしますが、この体の中から放射線 を浴びる内部被曝の方が外部被曝よりも ずっと危険なのです。体の中から直接放 射線を浴びるわけですから。 体の中に入った放射能は、通常は、三 日くらいで汗や小便と一緒に出てしまい ますが、三日なら三日、放射能を体の中 に置いたままになります。また、体から 出るといっても、人間が勝手に決めた基 準ですから、決してゼロにはなりません 。これが非常に怖いのです。どんなに微 量でも、体の中に蓄積されていきますか ら。 原発を見学した人なら分かると思いま すが、一般の人が見学できるところは、 とてもきれいにしてあって、職員も「き れいでしょう」と自慢そうに言っていま すが、それは当たり前なのです。きれい にしておかないと放射能のホコリが飛ん で危険ですから。 私はその内部被曝を百回以上もして、 癌になってしまいました。癌の宣告を受 けたとき、本当に死ぬのが怖くて怖くて どうしようかと考えました。でも、私の 母が何時も言っていたのですが、「死ぬ より大きいことはないよ」と。じゃ死ぬ 前になにかやろうと。原発のことで、私 が知っていることをすべて明るみに出そ うと思ったのです。

普通の職場環境とは全く違う

放射能というのは蓄積します。いくら 徴量でも十年なら十年分が蓄積します。 これが怖いのです。日本の放射線管理と いうのは、年間50ミリシーベルトを守れ ばいい、それを越えなければいいという 姿勢です。 例えば、定検工事ですと三ケ月くらい かかりますから、それで割ると一日分が 出ます。でも、放射線量が高いところで すと、一日に五分から七分間しか作業が 出来ないところもあります。しかし、そ れでは全く仕事になりませんから、三日 分とか、一週間分をいっぺんに浴びせな がら作業をさせるのです。これは絶対に やってはいけない方法ですが、そうやっ て10分間なり20分間なりの作業がで きるのです。そんなことをすると白血病 とかガンになると知ってくれていると、 まだいいのですが……。電力会社はこう いうことを一切教えません。 稼動中の原発で、機械に付いている大 きなネジが一本緩んだことがありました 。動いている原発は放射能の量が物凄い ですから、その一本のネジを締めるのに 働く人三十人を用意しました。一列に並 んで、ヨーイドンで七メートルくらい先 にあるネジまで走って行きます。行って 、一、二、三と数えるくらいで、もうア ラームメーターがビーッと鳴る。中には 走って行って、ネジを締めるスパナはど こにあるんだ?といったら、もう終わり の人もいる。ネジをたった一山、二山、 三山締めるだけで百六十人分、金額で四 百万円くらいかかりました。 なぜ、原発を止めて修理しないのかと 疑問に思われるかもしれませんが、原発 を一日止めると、何億円もの損になりま すから、電力会社は出来るだけ止めない のです。放射能というのは非常に危険な ものですが、企業というものは、人の命 よりもお金なのです。

「絶対安全」だと五時間の洗脳教育

原発など、放射能のある職場で働く人 を放射線従事者といいます。日本の放射 線従事者は今までに約二七万人ですが、 そのほとんどが原発作業者です。今も九 万人くらいの人が原発で働いています。 その人たちが年一回行われる原発の定検 工事などを、毎日、毎日、被曝しながら 支えているのです。 原発で初めて働く作業者に対し、放射 線管理教育を約五時間かけて行います。 この教育の最大の目的は、不安の解消の ためです。原発が危険だとは一切教えま せん。国の被曝線量で管理しているので 、絶対大丈夫なので安心して働きなさい 、世間で原発反対の人たちが、放射能で ガンや白血病に冒されると言っているが 、あれは“マッカナ、オオウソ”である 、国が決めたことを守っていれば絶対に 大丈夫だと、五時間かけて洗脳します。

こういう「原発安全」の洗脳を、電力 会社は地域の人にも行っています。有名 人を呼んで講演会を開いたり、文化サー クルで料理教室をしたり、カラー印刷の 立派なチラシを新聞折り込みしたりして 。だから、事故があって、ちょっと不安 に思ったとしても、そういう安全宣伝に すぐに洗脳されてしまって、「原発がな くなったら、電気がなくなって困る」と 思い込むようになるのです。 私自身が二〇年近く、現場の責任者と して、働く人にオウムの麻原以上のマイ ンド・コントロール、「洗脳教育」をや って来ました。何人殺したかわかりませ ん。みなさんから現場で働く人は不安に 思っていないのかとよく聞かれますが、 放射能の危険や被曝のことは一切知らさ れていませんから、不安だとは大半の人 は思っていません。体の具合が悪くなっ ても、それが原発のせいだとは全然考え もしないのです。作業者全員が毎日被曝 をする。それをいかに本人や外部に知ら れないように処理するかが責任者の仕事 です。本人や外部に被曝の問題が漏れる ようでは、現場責任者は失格なのです。 これが原発の現場です。 私はこのような仕事を長くやっていて 、毎日がいたたまれない日も多く、夜は 酒の力をかり、酒量が日毎に増していき ました。そうした自分自身に、問いかけ ることも多くなっていました。一体なん のために、誰のために、このようなウソ の毎日を過ごさねばならないのかと。気 がついたら、二〇年の原発労働で、私の 体も被曝でぼろぼろになっていました。

だれが助けるのか

また、東京電力の福島原発で現場作業 員がグラインダーで額(ひたい)を切っ て、大怪我をしたことがありました。血 が吹き出ていて、一刻を争う大怪我でし たから、直ぐに救急車を呼んで運び出し ました。ところが、その怪我人は放射能 まみれだったのです。でも、電力会社も あわてていたので、防護服を脱がせたり 、体を洗ったりする除洗をしなかった。 救急隊員にも放射能汚染の知識が全くな かったので、その怪我人は放射能の除洗 をしないままに、病院に運ばれてしまっ たんです。だから、その怪我人を触った 救急隊員が汚染される、救急車も汚染さ れる、医者も看護婦さんも、その看護婦 さんが触った他の患者さんも汚染される 、その患者さんが外へ出て、また汚染が 広がるというふうに、町中がパニックに なるほどの大変な事態になってしまいま した。みんなが大怪我をして出血のひど い人を何とか助けたいと思って必死だっ ただけで、放射能は全く見えませんから 、その人が放射能で汚染されていること なんか、だれも気が付かなかったんです よ。 一人でもこんなに大変なんです。それ が仮に大事故が起きて大勢の住民が放射 能で汚染された時、一体どうなるのでし ょうか。想像できますか。人ごとではな いのです。この国の人、みんなの問題で す。

びっくりした美浜原発細管破断事故!

皆さんが知らないのか、無関心なのか 、日本の原発はびっくりするような大事 故を度々起こしています。スリーマイル 島とかチェルノブイリに匹敵する大事故 です。一九八九年に、東京電力の福島第 二原発で再循環ポンプがバラバラになっ た大事故も、世界で初めての事故でした 。 そして、一九九一年二月に、関西電力 の美浜原発で細管が破断した事故は、放 射能を直接に大気中や海へ大量に放出し た大事故でした。 チェルノブイリの事故の時には、私は あまり驚かなかったんですよ。原発を造 っていて、そういう事故が必ず起こると 分かっていましたから。だから、ああ、 たまたまチェルノブイリで起きたと、た またま日本ではなかったと思ったんです 。しかし、美浜の事故の時はもうびっく りして、足がガクガクふるえて椅子から 立ち上がれない程でした。 この事故はECCS(緊急炉心冷却装 置)を手動で動かして原発を止めたとい う意味で、重大な事故だったんです。E CCSというのは、原発の安全を守るた めの最後の砦に当たります。これが効か なかったらお終りです。だから、ECC Sを動かした美浜の事故というのは、一 億数千万人の人を乗せたバスが高速道路 を一〇〇キロのスピードで走っているの に、ブレーキもきかない、サイドブレー キもきかない、崖にぶつけてやっと止め たというような大事故だったんです。 原子炉の中の放射能を含んだ水が海へ 流れ出て、炉が空焚きになる寸前だった のです。日本が誇る多重防護の安全弁が 次々と効かなくて、あと〇・七秒でチェ ルノブイリになるところだった。それも 、土曜日だったのですが、たまたまベテ ランの職員が来ていて、自動停止するは ずが停止しなくて、その人がとっさの判 断で手動で止めて、世界を巻き込むよう な大事故に至らなかったのです。日本中 の人が、いや世界中の人が本当に運がよ かったのですよ。 この事故は、二ミリくらいの細い配管 についている触れ止め金具、何千本もあ る細管が振動で触れ合わないようにして ある金具が設計通りに入っていなかった のが原因でした。施工ミスです。そのこ とが二十年近い何回もの定検でも見つか らなかったんですから、定検のいい加減 さがばれた事故でもあった。入らなけれ ば切って捨てる、合わなければ引っ張る という、設計者がまさかと思うようなこ とが、現場では当たり前に行われている ということが分かった事故でもあったん です。