以下転載いたします。

いいかげんな原発の耐震設計

阪神大震災後に、慌ただしく日本中の 原発の耐震設計を見直して、その結果を 九月に発表しましたが、「どの原発も、 どんな地震が起きても大丈夫」というあ きれたものでした。私が関わった限り、 初めのころの原発では、地震のことなど 真面目に考えていなかったのです。それ を新しいのも古いのも一緒くたにして、 大丈夫だなんて、とんでもないことです 。1993年に、女川原発の一号機が震度4 くらいの地震で出力が急上昇して、自動 停止したことがありましたが、この事故 は大変な事故でした。なぜ大変だったか というと、この原発では、1984年に震度 5で止まるような工事をしているのです が、それが震度5ではないのに止まった んです。わかりやすく言うと、高速道路 を運転中、ブレーキを踏まないのに、突 然、急ブレーキがかかって止まったと同 じことなんです。これは、東北電力が言 うように、止まったからよかった、とい うような簡単なことではありません。5 で止まるように設計されているものが4 で止まったということは、5では止まら ない可能性もあるということなんです。 つまり、いろんなことが設計通りにいか ないということの現れなんです。 こういう地震で異常な止まり方をした 原発は、1987年に福島原発でも起きてい ますが、同じ型の原発が全国で10もあり ます。これは地震と原発のことを考える とき、非常に恐ろしいことではないでし ょうか。

定期点検工事も素人が

原発は1年くらい運転すると、必ず止め て検査をすることになっていて、定期検 査、定検といっています。原子炉には70 気圧とか、150気圧とかいうものすごい圧 力がかけられていて、配管の中には水が 、水といっても300℃もある熱湯ですが、 水や水蒸気がすごい勢いで通っています から、配管の厚さが半分くらいに薄くな ってしまう所もあるのです。そういう配 管とかバルブとかを、定検でどうしても 取り替えなくてはならないのですが、こ の作業に必ず被曝が伴うわけです。 原発は一回動かすと、中は放射能、放 射線でいっぱいになりますから、その中 で人間が放射線を浴びながら働いている のです。そういう現場へ行くのには、自 分の服を全部脱いで、防護服に着替えて 入ります。防護服というと、放射能から 体を守る服のように聞こえますが、そう ではないんですよ。放射線の量を計るア ラームメーターは防護服の中のチョッキ に付けているんですから。つまり、防護 服は放射能を外に持ち出さないための単 なる作業着です。作業している人を放射 能から守るものではないのです。だから 、作業が終わって外に出る時には、パン ツー枚になって、被曝していないかどう か検査をするんです。体の表面に放射能 がついている、いわゆる外部被曝ですと 、シャワーで洗うと大体流せますから、 放射能がゼロになるまで徹底的に洗って から、やっと出られます。 また、安全靴といって、備付けの靴に 履き替えますが、この靴もサイズが自分 の足にきちっと合うものはありませんか ら、大事な働く足元がちゃんと定まりま せん。それに放射能を吸わないように全 面マスクを付けたりします。そういうか っこうで現場に入り、放射能の心配をし ながら働くわけですから、実際、原発の 中ではいい仕事は絶対に出来ません。普 通の職場とはまったく違うのです。 そういう仕事をする人が95%以上ま るっきりの素人です。お百姓や漁師の人 が自分の仕事が暇な冬場などにやります 。言葉は悪いのですが、いわゆる出稼ぎ の人です。そういう経験のない人が、怖 さを全く知らないで作業をするわけです 。 例えば、ボルトをネジで締める作業を するとき、「対角線に締めなさい、締め ないと漏れるよ」と教えますが、作業す る現場は放射線管理区域ですから、放射 能がいっぱいあって最悪な所です。作業 現場に入る時はアラームメーターをつけ て入りますが、現場は場所によって放射 線の量が違いますから、作業の出来る時 間が違います。分刻みです。 現場に入る前にその日の作業と時間、 時間というのは、その日に浴びてよい放 射能の量で時間が決まるわけですが、そ の現場が20分間作業ができる所だとする と、20分経つとアラ-ムメーターが鳴る ようにしてある。だから、「アラームメ ーターが鳴ったら現場から出なさいよ」 と指示します。でも現場には時計があり ません。時計を持って入ると、時計が放 射能で汚染されますから腹時計です。そ うやって、現場に行きます。 そこでは、ボルトをネジで締めながら 、もう10分は過ぎたかな、15分は過ぎた かなと、頭はそっちの方にばかり行きま す。アラームメーターが鳴るのが怖いで すから。アラームメーターというのはビ ーッととんでもない音がしますので、初 めての人はその音が鳴ると、顔から血の 気が引くくらい怖いものです。これは経 験した者でないと分かりません。ビーッ と鳴ると、レントゲンなら何十枚もいっ ぺんに写したくらいの放射線の量に当た ります。ですからネジを対角線に締めな さいと言っても、言われた通りには出来 なくて、ただ締めればいいと、どうして もいい加滅になってしまうのです。する と、どうなりますか。

放射能垂れ流しの海

冬に定検工事をすることが多いのです が、定検が終わると、海に放射能を含ん だ水が何十トンも流れてしまうのです。 はっきり言って、今、日本列島で取れる 魚で、安心して食べられる魚はほとんど ありません。日本の海が放射能で汚染さ れてしまっているのです。 海に放射能で汚れた水をたれ流すのは 、定検の時だけではありません。原発は すごい熱を出すので、日本では海水で冷 やして、その水を海に捨てていますが、 これが放射能を含んだ温排水で、一分間 に何十トンにもなります。 原発の事故があっても、県などがあわ てて安全宣言を出しますし、電力会社は それ以上に隠そうとします。それに、国 民もほとんど無関心ですから、日本の海 は汚れっぱなしです。 防護服には放射性物質がいっぱいつい ていますから、それを最初は水洗いして 、全部海に流しています。排水口で放射 線の量を計ると、すごい量です。こうい う所で魚の養殖をしています。安全な食 べ物を求めている人たちは、こういうこ とも知って、原発にもっと関心をもって 欲しいものです。このままでは、放射能 に汚染されていないものを選べなくなる と思いますよ。 数年前の石川県の志賀原発の差止め裁 判の報告会で、八十歳近い行商をしてい るおばあさんが、こんな話をしました。 「私はいままで原発のことを知らなかっ た。今日、昆布とわかめをお得意さんに 持っていったら、そこの若奥さんに「悪 いけどもう買えないよ、今日で終わりね 、志賀原発が運転に入ったから」って言 われた。原発のことは何も分からないけ ど、初めて実感として原発のことが分か った。どうしたらいいのか」って途方に くれていました。みなさんの知らないと ころで、日本の海が放射能で汚染され続 けています。