以下転載いたします。
原発がどんなものか知ってほしい

私は原発反対運動家ではありません。

二十年間、原子力発電所の現場で働い ていた者です。原発については賛成だと か、危険だとか、安全だとかいろんな論 争がありますが、私は「原発とはこうい うものですよ」と、ほとんどの人が知ら ない原発の中のお話をします。そして、 最後まで読んでいただくと、原発がみな さんが思っていらっしゃるようなもので はなく、毎日、被曝者を生み、大変な差 別をつくっているものでもあることがよ く分かると思います。 はじめて聞かれる話も多いと思います 。どうか、最後まで読んで、それから、 原発をどうしたらいいか、みなさんで考 えられたらいいと思います。原発につい て、設計の話をする人はたくさんいます が、私のように施工、造る話をする人が いないのです。しかし、現場を知らない と、原発の本当のことは分かりません。 私はプラント、大きな化学製造工場な どの配管が専門です。二○代の終わりご ろに、日本に原発を造るというのでスカ ウトされて、原発に行きました。一作業 負だったら、何十年いても分かりません が、現場監督として長く働きましたから 、原発の中のことはほとんど知っていま す。

「安全」は机上の話

去年(一九九五年)の一月一七日に阪 神大震災が起きて、国民の中から「地震 で原発が壊れたりしないか」という不安 の声が高くなりました。原発は地震で本 当に大丈夫か、と。しかし、決して大丈 夫ではありません。国や電力会社は、耐 震設計を考え、固い岩盤の上に建設され ているので安全だと強調していますが、 これは机上の話です。 この地震の次の日、私は神戸に行って みて、余りにも原発との共通点の多さに 、改めて考えさせられました。まさか、 新幹線の線路が落下したり、高速道路が 横倒しになるとは、それまで国民のだれ1 人考えてもみなかったと思います。 世間一般に、原発や新幹線、高速道路 などは官庁検査によって、きびしい検査 が行われていると思われています。しか し、新幹線の橋脚部のコンクリートの中 には型枠の木片が入っていたし、高速道 路の支柱の鉄骨の溶接は溶け込み不良で した。一見、溶接がされているように見 えていても、溶接そのものがなされてい なくて、溶接部が全部はずれてしまって いました。 なぜ、このような事が起きてしまった のでしょうか。その根本は、余りにも机 上の設計ばかりに重点を置いていて、現 場の施工、管理を怠ったためです。それ が直接の原因ではなくても、このような 事故が起きてしまうのです。

素人が造る原発

原発でも、原子炉の中に針金が入って いたり、配管の中に道具や工具を入れた まま配管をつないでしまったり、いわゆ る人が間違える事故、ヒューマンエラー があまりにも多すぎます。それは現場に ブロの職人が少なく、いくら設計が立派 でも、設計通りには造られていないから です。机上の設計の議論は、最高の技量 を持った職人が施工することが絶対条件 です。しかし、原発を造る人がどんな技 量を持った人であるのか、現場がどうな っているのかという議論は1度もされた ことがありません。 原発にしろ、建設現場にしろ、作業者 から検査官まで総素人によって造られて いるのが現実ですから、原発や新幹線、 高速道路がいつ大事故を起こしても、不 思議ではないのです。 日本の原発の設計も優秀で、二重、三 重に多重防護されていて、どこかで故障 が起きるとちゃんと止まるようになって います。しかし、これは設計の段階まで です。施工、造る段階でおかしくなって しまっているのです。 仮に、自分の家を建てる時に、立派な 一級建築士に設計をしてもらっても、大 工や左官屋の腕が悪かったら、雨漏りは する、建具は合わなくなったりしますが 、残念ながら、これが日本の原発なので す。 ひとむかし前までは、現場作業には、 棒心(ぼうしん)と呼ばれる職人、現場 の若い監督以上の経験を積んだ職人が班 長として必ずいました。職人は自分の仕 事にプライドを持っていて、事故や手抜 きは恥だと考えていましたし、事故の恐 ろしさもよく知っていました。それが十 年くらい前から、現場に職人がいなくな りました。全くの素人を経験不問という 形で募集しています。素人の人は事故の 怖さを知らない、なにが不正工事やら手 抜きかも、全く知らないで作業していま す。それが今の原発の実情です。 例えば、東京電力の福島原発では、針 金を原子炉の中に落としたまま運転して いて、1歩間違えば、世界中を巻き込む ような大事故になっていたところでした 。本人は針金を落としたことは知ってい たのに、それがどれだけの大事故につな がるかの認識は全然なかったのです。そ ういう意味では老朽化した原発も危ない のですが、新しい原発も素人が造るとい う意味で危ないのは同じです。 現場に職人が少なくなってから、素人 でも造れるように、工事がマニュアル化 されるようになりました。マニュアル化 というのは図面を見て作るのではなく、 工場である程度組み立てた物を持ってき て、現場で1番と1番、2番と2番とい うように、ただ積木を積み重ねるように して合わせていくんです。そうすると、 今、自分が何をしているのか、どれほど 重要なことをしているのか、全く分から ないままに造っていくことになるのです 。こういうことも、事故や故障がひんぱ んに起こるようになった原因のひとつで す。 また、原発には放射能の被曝の問題が あって後継者を育てることが出来ない職 場なのです。原発の作業現場は暗くて暑 いし、防護マスクも付けていて、互いに 話をすることも出来ないような所ですか ら、身振り手振りなんです。これではち ゃんとした技術を教えることができませ ん。それに、いわゆる腕のいい人ほど、 年問の許容線量を先に使ってしまって、 中に入れなくなります。だから、よけい に素人でもいいということになってしま うんです。 また、例えば、溶接の職人ですと、目 がやられます。30歳すぎたらもうだめ で、細かい仕事が出来なくなります。そ うすると、細かい仕事が多い石油プラン トなどでは使いものになりませんから、 だったら、まあ、日当が安くても、原発 の方にでも行こうかなあということにな ります。 皆さんは何か勘違いしていて、原発と いうのはとても技術的に高度なものだと 思い込んでいるかも知れないけれど、そ んな高級なものではないのです。 ですから、素人が造る原発ということ で、原発はこれから先、本当にどうしよ うもなくなってきます。

名ばかりの検査・検査官

原発を造る職人がいなくなっても、検 査をきっちりやればいいという人がいま す。しかし、その検査体制が問題なので す。出来上がったものを見るのが日本の 検査ですから、それではダメなのです。 検査は施工の過程を見ることが重要なの です。 検査官が溶接なら溶接を、「そうでは ない。よく見ていなさい。このようにす るんだ」と自分でやって見せる技量がな いと本当の検査にはなりません。そうい う技量の無い検査官にまともな検査が出 来るわけがないのです。メーカーや施主 の説明を聞き、書類さえ整っていれば合 格とする、これが今の官庁検査の実態で す。 原発の事故があまりにもひんぱんに起 き出したころに、運転管理専門官を各原 発に置くことが閣議で決まりました。原 発の新設や定検(定期検査)のあとの運 転の許可を出す役人です。私もその役人 が素人だとは知っていましたが、ここま でひどいとは知らなかったです。 というのは、水戸で講演をしていた時 、会場から「実は恥ずかしいんですが、 まるっきり素人です」と、科技庁(科学 技術庁)の者だとはっきり名乗って発言 した人がいました。その人は「自分たち の職場の職員は、被曝するから絶対に現 場に出さなかった。折から行政改革で農 水省の役人が余っているというので、昨 日まで養蚕の指導をしていた人やハマチ 養殖の指導をしていた人を、次の日には 専門検査官として赴任させた。そういう 何にも知らない人が原発の専門検査官と して運転許可を出した。美浜原発にいた 専門官は三か月前までは、お米の検査を していた人だった」と、その人たちの実 名を挙げて話してくれました。このよう にまったくの素人が出す原発の運転許可 を信用できますか。 東京電力の福島原発で、緊急炉心冷却 装置(ECCS)が作動した大事故が起 きたとき、読売新聞が「現地専門官カヤ の外」と報道していましたが、その人は 、自分の担当している原発で大事故が起 きたことを、次の日の新聞で知ったので す。なぜ、専門官が何も知らなかったの か。それは、電力会社の人は専門官がま ったくの素人であることを知っています から、火事場のような騒ぎの中で、子ど もに教えるように、いちいち説明する時 間がなかったので、その人を現場にも入 れないで放って置いたのです。だから何 も知らなかったのです。 そんないい加減な人の下に原子力検査 協会の人がいます。この人がどんな人か というと、この協会は通産省を定年退職 した人の天下り先ですから、全然畑違い の人です。この人が原発の工事のあらゆ る検査の権限を持っていて、この人の0 Kが出ないと仕事が進まないのですが、 検査のことはなにも知りません。ですか ら、検査と言ってもただ見に行くだけで す。けれども大変な権限を持っています 。この協会の下に電力会社があり、その 下に原子炉メーカーの日立・東芝・三菱 の三社があります。私は日立にいました が、このメーカーの下に工事会社がある んです。つまり、メーカーから上も素人 、その下の工事会社もほとんど素人とい うことになります。だから、原発の事故 のことも電力会社ではなく、メー力-で ないと、詳しいことは分からないのです 。 私は現役のころも、辞めてからも、ず っと言っていますが、天下りや特殊法人 ではなく、本当の第三者的な機関、通産 省は原発を推進しているところですから 、そういう所と全く関係のない機関を作 って、その機関が検査をする。そして、 検査官は配管のことなど経験を積んだ人 、現場のたたき上げの職人が検査と指導 を行えば、溶接の不具合や手抜き工事も 見抜けるからと、一生懸命に言ってきま したが、いまだに何も変わっていません 。このように、日本の原発行政は、余り にも無責任でお粗末なものなんです。