
差し迫った台湾有事を阻止するために日本にできることは何か?
現在の中国は、もはや台湾奪取の野心を隠そうとしておらず、実戦を想定した軍事演習に取り組んでいます。繰り返される演習への慣れが台湾側の油断を生み、ある日突然、演習がいきなり実戦に切り替わり戦争の火蓋が切られるのでしょうか。
台湾有事は1、2年のうちにも実行に移される可能性も指摘されており、そうなった場合、日本は安全無事というわけにはいかないでしょう。尖閣諸島などあっという間に中国に取られてしまいます。台湾からの避難民が日本に大挙押し寄せてくることも考えられます。
はたして中国の台湾奪取の野心を思いとどまらせることは可能でしょうか。そのために一体何ができるでしょうか。どのような方法が考えられるでしょうか。
一般的には、差し迫った軍事的脅威に対しては軍事的に対抗すること。すなわち台湾、日本、米国が連携して中国の軍事力に対抗するという方法でしょう。
中国は超限戦という、なんでもありの戦略、戦術を駆使して、軍事力行使に伴う自国の犠牲を最小限にし、あっという間に台湾を占領してしまうという方法を練っているのでしょうか。
台湾側も軍事力には軍事力で対抗するとの論理で中国が繰り出すであろうあらゆる戦略、戦法に対応できるよう、効果的な対策を考えていくのでしょう。
軍事には軍事で対抗する論理が強まると政治の論理がこの軍事の論理に追従しがちとなります。軍事をも包括し軍事より上位の意思と見識と力を発揮すべき政治が軍事の下位に置かれてしまうという本末転倒が起きないよう、政治の側がしっかり軍事をコントロールしないといけません。
心配される台湾有事の根本原因は、台湾奪取を国是としている中国政府の意思(あるいは独裁者習近平の個人的野心)にあります。
中国の意思が変わらない限り、台湾有事は避けられないのでしょうが、そもそもの中国の意思を変更させることはできないものでしょうか。
この点に政治の知恵を傾注させることが重要であると考えます。
そこで、一つの案ですが、中国政府の基本方針の大きな転換を意味しますが、中国の領土的野心の対象を台湾からもっと魅力的な別の対象に変更させることが考えられます。
その対象とは、沿海州です。
沿海州の大きさは日本列島全体の約半分、台湾の約5倍に相当します。台湾や尖閣とは比較にならないほど、沿海州ははるかに大きく、しかも魅力的な獲物ということができます。
歴史を振り返えると、沿海州は1860年の北京条約でロシアが当時の清から文字通り掠め取り自国の領土としたものです。
西洋列強や日本は帝国主義時代に中国大陸に有していた領土や権益を、第二次世界大戦の終決とともに失いました。わずかにイギリスが保持していた香港は1984年にイギリスと中国との間で合意が成立し、1997年に中国に返還されました。
大国中国の意思に当時のイギリスのサッチャーが屈したわけです。国力の逆転により領土返還が実現した事例ということができます。
香港は合意後すぐに返還されたわけではありません。合意から実に13年の期間を経ています。この点がまさに重要ですが、中国がすぐに取り返えそうとしたなら、おそらく戦争が避けられなくなります。それを回避するために返還までの長い期間が設けられたということができます。
さて、中国にとって国辱ともいえる帝国主義時代の負の遺産でありこれまで手付かずに残こされてきた領土問題がまさに今ロシア領となっている沿海州の領有問題です。
中国政府はかねてより沿海州は本来自国の領土だとの認識を持っています。国民にもその意識を持つよう歴史教育を行っています。
台湾でも同様でしょう。
すでに中国は沿海州における中国の権益拡大を進めています。事実上の領土奪還を目指しているように思われますが、公式には沿海州がロシアの領土であることは中国とロシア間で合意された解決済みの事項でもあります。
しかしながら、国境線は国力によって決定されるのが、国際政治の現実です。
2004年に合意された中露間の国境線など、当時の中国とロシアの国力を反映したものに過ぎません。絵に描いた餅です。今の中国とロシアの力関係を考えると、中国のほうから国境線問題をロシアに対して提起し、沿海州を返還せよと強く主張すれば、ロシアは中国の要求を拒絶することはできず、交渉のテーブルに着かざるを得なくなり、そして最終的に沿海州を返還せざるを得なくなるのではないでしょうか。
旧ソ連時代とその後のロシアに対してはなかなか持ち出すことが出来なかった沿海州地域の返還の話を、超大国にまで成長した中国は、ウクライナとの戦争の長期化も相まって弱体化著しいロシアに対して、正式に堂々と主張できる時期に来ているのではないでしょうか。今が歴史戦を強力に推し進めることができる絶好のタイミングだと考えます。
歴史的に見たとき、沿海州が元々中国の領土であったことは明白な事実です。領有の正当性が中国にあることは疑いをいれません。願望の段階に止まりこれまで実現出来なかったことが、国力の逆転により実現可能な状態にあるのが今現在なのです。
中国が大きく舵をきれば、ロシアから中国への沿海州返還は、おそらく香港の場合と同じ道筋を辿って、遠い将来において、戦争を交えることなく、確実に実現されることになると考えます。
同じ要求を持つ台湾がどう対応するのかという変数も考える必要がありますが、沿海州は中国が中心となって領有し、台湾も多くの権益をこの地域において手にするという形になることも考えられます。
そこで日本の役割が重要になります。日本は国際社会の中にこの歴史問題を持ち出すのです。元々中国の領土である沿海州をロシアが掠め取ったという歴史的事実を広めるプロパガンダを行うのです。
日本は中国側に立って協力するわけですが、そのやり方については、まず学術面から開始し、解決されるべき負の歴史問題として提起し、世界中の国が中国支持に動くよう、日本はその先導役を務めるのです。
中国サイドに立っての動きが起きることにより、今事実上進んでいる沿海州における中国の権益拡大も一層進むこととなります。最終的に数十年後に沿海州を中国に完全に返還することを内容とする条約の締結が実現するまで、日本は中国側を応援するのです。
ウラジオストクを含む沿海州はロシアという国の存亡を左右するチョークポイントと言っても過言ではありません。
中国とロシアとの協議により、ロシアが沿海州を失うことが決定した段階から、ロシアの弱体化、衰退は止まらなくなるでしょう。国土の東側において、ウラジオストクという不凍港を失い、最終的に大陸と太平洋とを繋ぐ大きな物流の出入口の拠点を失うことになります。
ロシアは巨大な国土をもちながら、その東側は陸の孤島と化すわけです。
ちなみに国土の西側においても、ロシアは海洋を自由に行き来できるルートを失いつつあります。ウクライナとの戦争の長期化により、北欧の国々がNATO加盟したことやシリアの体制が崩壊したことなどが影響し、ロシアは国土の西側から安全かつ容易に海洋を行き来することが困難になってきています。
そのため、第三のルートとしてロシアから南下しイランの国内を経由しペルシャ湾から海洋に出る計画を立てているようですが、イランの協力なしにはこのルートの開発は不可能です。しかも他国の領土内を経由しなければ海に出ることができないという弱点を抱えることになります。ロシアはますますイランに依存することとなり、イランの意向を無視できなくなるのではないでしょうか。
船舶による巨大な物流の拠点であるウラジオストクの港を失うことにより、ロシアはどうやって北方領土を維持することができるでしょうか。航空機を使って本国と島を繋ぐことはできますが、物流・人流とも小規模なものとならざるを得ません。
そうなるとロシアにとって北方領土の維持が逆に大きな負担となることが考えられます。それならいっそ日本に売却したほうがましだといった意見がロシアから上がってくる可能性も考えられます。
沿海州奪還は戦争によらずに、外交交渉を経て必ず実現できることです。そして日本は、沿海州の中国への完全な返還が実現するまでの間、対中国との関係において、安全保障上の安心をかなり長い期間にわたり確保することができるのではないでしょうか。
日本の下心など中国に見透かされていても構わないのです。それより中国自身が、台湾と沿海州を天秤にかけたとき、どちらが優先事項と考えるかが重要です。領土の大きさばかりでなく、より確実に、より平和的に奪還できるのはどちらかという点も当然中国政府は考慮するでしょう。
中国による安定保障上の脅威を緩和するため、日本は中国の沿海州奪還というかねてより温めている野心の実現に協力するのです。日本のふるまい方を見て中国としては悪い気はしないでしょう。むしろ日本の姿勢を大いに歓迎してくれるのではないでしょうか。
中国の野心を沿海州に振り向けることができたら、中国にとって一か八かの危険なかけである台湾奪還の問題や付随する尖閣問題は優先順位が下がり、実行を差し控えるのではないでしょうか。
台湾より沿海州をより重要視するという国家意思の転換も、面子を重んじる国だからこそ、可能であるということができるのではないでしょうか。
沿海州の奪還を実現した(少なくともその確実な道筋を付けた)中国の主席は、偉大な事業を成し遂げた英雄として中国の歴史にその名が刻まれることでしょう。
さて、沿海州を返還せざるを得なくなったロシアは太平洋への出口を失い国力の弱体化、衰退は避けられません。
ロシアはなんとかして沿海州の以北にウラジオストク並みの不凍港建設に乗り出すのではないでしょうか。
ロシアに対してはここからが日本の出番です。
沿海州以北に大陸と太平洋を繋ぐ良好な物流の出入り口(大規模な不凍港、十万単位の人々が居住できる都市、大陸西側との太い交通網の整備などが必要)を建設することはロシア一国では不可能です。そこで地理的に近い日本が、ロシアによる新たな巨大プロジェクトに援助の手を差し伸べるのです。大規模な物流の拠点となる不凍港建設には長期の期間を要します。完成するまでの間は、日本はロシアとの関係において安全保障上、安心できる期間を確保できるのではないでしょうか。
そればかりでなく、日本にとって長年の悲願であった北方領土の返還についても、返せ、返せの一本槍のやり方ではなく、ここに至り自ずから実現の扉が開かれる条件が整ったということができるのではないでしょうか。