「小麦色のマーメイド」を初めて聴いたときの感動を今も覚えている。

当時小6、テレビ番組のテーマ音楽やその他諸々の巷で流れる音楽に既に異様な関心を持っていた私は「渚のバルコニー」で作曲家呉田軽穂に関心を持っていた。

そして「小麦色のマーメイド」が発売され、
すぐにベストテン入り。
テレビの前で正座して拝聴するに至った。

その時の居間の網戸から生ぬるい風が入ってきていたこととか、隣に母がいたこととか、
今でも手に取るように光景を思い浮かべることができる。

サビ!である!
サビのコード、というか、和音というか。

テンションという名前は知らなくても、
小3くらいの頃に筒美京平作品の「魅せられて」でジュディオングが羽のドレスを広げた瞬間
メロディとベース音がかちあい、
凄いかっこいい和音になることを体験済みだった!

「小麦色のマーメイド」
聖子ちゃんが3回E♭のコードのバックに
ウインクした後、
あのサビが始まったのだ!

「魅せられて」のあの和音と同じ響き。
そのうえ、ベースが動かない。
真ん中の和音だけがけだるくけだるく少しだけ色を変えて進行していく。

水彩みたいな淡い色が見えて、湿気のある
和音、そして進行が好きだった!

めちゃくちゃ好みだった。
けだるくけだるく行きながら、ときどき、
きゅっと強い進行が入るのだ!
♫急に真面目顔でつぶやく、の
やーくー、のあたりね。

後に理論を勉強してそれがセカンダリードミナントと言うのだと知るのだが。

曲を聴き終わったあと「おーーーーっ」と
感嘆の声を上げたことを覚えている。

うちの両親はクラシックおたく、それもガチガチの古典派クラスタだったので、
私が何やらそこで騒いでいても関心を示さなかった。

私も両親と同じくモーツァルトやハイドンをとても愛していたが、いつの日か、
どうやら巷の音楽にモーツァルトやハイドンにはない和音が含まれることに気がつく。

初めての気づきはバカラックだったが、
テレビを見ているといくらでもその不思議な和音を聴くことができた。

その不思議な和音はメージャーセブンスやテンションノートであるのだが、
この「小麦色のマーメイド」のそのデリケートな使いかたが、めちゃくちゃ好みだった!

次の日から聴音、聴奏の日々が始まる!

ピアノのレッスンの宿題のベートーヴェンとかを弾いてないと母にこっぴどく叱られるので、
母が出かけている時に限られていた。

こそこそこそこそ五線紙にメモを取り、
弾きまくり、あのサビの変なコードが採れたときには悦に入った!
カセットテープに録音して客観的に聴き、
合ってるか確認する念の入れようだ!

そして母の帰ってくる自転車の音がするやいなや、即刻それらを隠し、ベートーヴェンを弾き出す。

その後、「秘密の花園」が出て、ますます
作曲家呉田軽穂への愛は深まった。

聖子ちゃんの新曲が呉田軽穂の作ではないと聴いたときに気がつくほどになっていた。
(とあるコードの使いかたでなんだけど)

どんな人なんだろう?ということになる。
古典派クラスタの親が教えてくれるはずもなく、
私の想像は凝り固まった!

きっとNHK「あなたのメロディ」の審査をしてたような作曲家大先生のような風貌であろう。

これは何ヶ月か前、当時の呉田軽穂氏のイメージを再現し描いたものである。

背は低くずんぐりむっくりで若干脂ぎってそうな
呉田軽穂大先生はきっと聖子ちゃんのレコーディングで燕尾服を着て颯爽とオケを前に指揮棒を振ったに違いない!

その後、ロックンルージュが発売されても、
時間の国のアリスが出ても、このイメージは変わらず、ヤフー検索など出来なかった当時、
そのまま時が過ぎ、大学生になった。

大学入試終了後すぐにユーミン作品にはまった私は通学中に「残暑」を聴いてその楽曲の美しさに涙するようなユーミン教信者になっていた。

そしてある時、クラスメートと
松田聖子作品の話題になり、
「呉田軽穂の曲って凄いよね!まだ生きてるの?」と友達に質問した。

友達は一瞬呆然とした後、

「えっ、バカじゃん!」と大笑いし、

「呉田軽穂はユーミンだよ」と
とんでもない事を言ったのだ!

あーーーーーーーーっ!

バカすぎる。
作風で気がつけよ、と当時の自分に言いたいが、
しばらく友達にバカにされ続けた(笑)

そしてしっかり頭が整理され、
今に至ります。

まさか大学卒業後、ここまで拘泥し、
連日作品研究をするとまでは思わなかったけど。

ビバーチェピアノ教室
おざきようこ



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2016/10/6(土)
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14:15  開場   14:30  開演  ¥2.000

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