クジラは、ある特定の周波数を出して仲間どうし会話をしているらしい。
ところがあるクジラの歌声は、他のクジラとは違う周波数だから…
いくら声をあげても他のクジラに気がついてはもらえないという。
いくら声をあげても周りに気がついてもらえない、52ヘルツのクジラたち。
2021年本屋大賞受賞作品にして現在映画が大ヒット上映中だという本書を読んでみた。
人は誰しも、何かしらの秘密や悩みを抱えているのだと思う。
それはもしかすると、他人に話してもなかなか理解してもらえない、決して解決することのない、答えのない悩みかもしれない。
本書でいう『虐待されて育った』子どもたちのように。
人に悩みを打ち明けられないし、打ち明けたとしても状況は良くなるどころか悪くなる一方で、だから打ち明けられなくて、どんどんと孤立しちゃって、そしてますます悩みは大きくなって。
遠回しなSOSを発信しても、52ヘルツのクジラがそうだったように、周波数の違う人々にはその信号は届かない。
気がついてもらえない。
そんな52ヘルツのクジラたちが、52ヘルツのクジラたちどうしで、一緒に生きていけたら。
52ヘルツのクジラたちも、仲間の52ヘルツたちの支えになり、そして支えられて。
秘密や悩みは人それぞれかもしれないけれど、誰にも理解してもらえない秘密や悩みを抱えているという点たけが共通していて、それだけで「わたしは一人じゃない」って、どこか安心できて。
人は一人では生きていけない。誰かを必要とし、必要とされて、生きていく。
『虐待』という重いテーマがあるものの、良い人たちも多く登場するせいか、美しい話にまとまっていたように思う。
風景の描写も、暗く重苦しいものというよりはどこかしら希望が感じられるようなキラキラした情景が浮かぶ。
個人的には美しくまとまりすぎている感じがして(どちらかというと殺人事件等のハードな話が好きなので…)、特に涙することもなかったけれど。
むしろ設定にどうしてもツッコミを入れたくなる面倒な読者だったりするが、まぁ良い話だったのではないでしょうか。
『本屋大賞』って、普段あまり本を読む機会のない方々に読書の楽しみを知ってもらうための賞なのかな、との感想を抱きつつサクッと読了。
映画はじんわり泣ける系なような気がする。