2023年5/15【643】very good 難易度5

有名な科学者と言えば、アインシュタインやホーキング博士などを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。

理系や哲学の話が好きな人であれば加えてハイゼンベルクやシュレーディンガー、中でも特に物理が好きなら(私はここかな)ボーア、ラザフォード、オッペンハイマー、ときどきアラン・チューリングにフォン・ノイマン…なんて天才達の名が思い浮かぶだろう。

ポール・ディラック。
反物質を予言したノーベル賞受賞の天才物理学者。

ご、ごめん、
わかりませ~~んっ!!
(※知らない?ほんとーーに知らないの?)
と思って読んでみたディラックの伝記である。


原書タイトルが『THE STRANGEST MAN』なだけあって、彼はボーアにしてストレンジ最上級の称号を与えられるに相応しい、相当な変わり者だったようだ。

というか、ほとんど言葉を発しない、とにかく目立つのを嫌がる…そんな程度だけれども。

まぁだから余計に認知度が低いんだろうな。
業績も難しすぎて一般メディア受けしそうにないもんね(などと自分の無知を棚に上げて偉そうに言ってみた)。


そんな変人ディラックの生涯を通してたどる『量子力学』の黎明期から現在に至るまでの歴史(主に1910~2000年代)といった感じの本書。

本文中は天才物理学者達がうようよ登場するので、天才好きの私も思わずうようよ小躍り。

膨大な資料をもとに書かれた本書の中で、半ば神格化された彼らが私と同じ生身の人間として生き生きと冗談を言い、悩み葛藤し、やがて一人また一人と年老いて死んでいく様を辿っていくという行為は、彼らを身近に感じるに十分であった。


途中、彼らは第二次世界大戦を経験する。
その中で行われた核爆弾の開発。
ナチスや反ユダヤの風潮、天才科学者達の苦悩や良心の呵責、そういったものを経て発展してきた『量子力学』というものに畏怖を感じずにはいられなかった。

だがしかし、量子力学なんて哲学と宇宙創成以外の一体何の役に立つの(それでも十二分に面白いが)?と思っていたけれど。
どうやら今日ではマイクロエレクトロニクス産業や医療現場など幅広い分野で応用されているらしい。
へぇ~。

また著者は最後にディラックの『自閉症疑惑』についての考察を述べていたが、そちらも『天才』を語るうえで大変興味深い話であった。


個人的に特に面白かった逸話を備忘録。

ディラックはキューブリック監督の『2001年宇宙の旅』に強い衝撃を受けたという。
なぜならシュトラウスの『美しき青きドナウ』や他のクラシック曲、また言葉より映像としてストーリーが語られる点が、言葉ではなく数学で表現されるという量子力学と共通しているからだとか。
なるほどね~

そんなディラックは哲学者ヴィドゲンシュタインを毛嫌いしていたんだとか。
なぜなら
「彼は絶対に話を止めないから」。
あはは~わかる気がする。
でも根本的な部分で気が合いそうだけれどもね。



どんな天才も、アインシュタインやディラックでさえも、ときが経てば老害扱いされ、疎まれ、世代交代を余儀なくされる。
そんな世の中の無常さに一抹の寂しさを感じつつ、500ページの本を閉じた。


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