2023年2/18【621】very good 難易度3

一大叙事詩【戦争と平和】、壮大な不倫劇【アンナ・カレーニナ】から続いて読んでみたロシア文豪トルストイの中編小説。



本作は前2作と比べどちらも圧倒的に短く、またロシア文学特有の小難しいロシア人名が殆ど出てこないばかりか、現代小説といっても違和感のないほどの読み易さで驚いてしまった。

トルストイ、相変わらず人の心の奥底に渦巻くドロドロした複雑な葛藤を描写するが本当に上手い。
「こんな面倒くさいことを考えてうじうじ悩んでいるのは私だけじゃないんだ」
と安堵するのは私だけだろうか。


死に向かう過程の葛藤を描いた【イワン・イリイチの死】では、本当にこの人(トルストイ)一回死んだことがあるんじゃないかとさえ思えてくる。

そして【クロイツェル・ソナタ】。
この作品で、今まで漠然と疑問に思っていたロシア文学の謎が解明できてスッキリである。

ずっと引っ掛かっていた。
なんでそんなに直ぐに恋に落ち、そのまま即結婚になるの?純粋すぎない?暇なの?(暇は暇みたいたけど)。

いやいや、なんのことはない。
作品中ではあっという間の恋愛劇に描かれているがその実、伯爵や公爵たちの頭の中も現代の男性諸君となんらちっとも変わらないようである(たぶん)。
そりゃそうだよね~。

それ以上に、トルストイなりの『性』に対するあからさまな考察が、もしかしたらきっと皆が抱いているかもしれない認めたくないような事実をズバっと言い切ってしまうところが、「言っちゃうんだ~」という感じであった(どんな感じ?)。
なにしろ当時この作品は発禁処分になったというではないか。
納得。

それよりもまず、タイトルが素敵すぎるではないか。
クロイツェル・ソナタ。
ベートーヴェン先生の有名なバイオリンソナタをここで持ってくるかね。
トルストイのセンスがキラリと光りまする。

一組の男女が奏でるクロイツェル・ソナタ。
音楽がもたらす愛の感情。そうきたかと。
なんともエロチックでロマンチック、嫉妬が渦巻くドロドロの展開。
大変読みやすいことも手伝い、お気に入りの作品となった次第である。


訳者あとがきによると、トルストイの文章にはロシア語がもつ特有の音やリズムや言葉の対比、語呂合わせといった言葉遊びが多くみられるという。

しかしそれらの面白さは、翻訳したものでは決して味わうことができないだろう。
もしもロシア語が理解できたのならより作品を深く味わえただろうに、と考えると残念で仕方ない。


死と生(性)、2つの作品しかも『死』がテーマの作品(イワン~の死)を先に読み、無常に繰り返させる種の繁栄と世の輪廻が頭をよぎった。


さて。

ロシア文学ファンはトルストイ派かドストエフスキー派かに分かれるらしい。
今のところ【クロイツェルソナタ】推しの私にドストエフスキーはどう映るのだろうか。
引き続きロシア文学を読むのが楽しみである。

《後日追記》
といいつつ、脱線しすぎてロシア文学から遠ざかりぎみの今日この頃。。
次何読むんだっけ。


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