2021年11/15【486】very good 難易度4

なぜヒトは、
意味のない音のパターンを聴き、奏で、
それに心を奪われるのだろう。


『音楽』って何だろう。
何の思想も提案も説明もしないのに。
ダーウィンですら、こう書いている。

『楽譜を作る楽しみも素質も人間にはほとんど無用の能力で、最も不可解な才能のひとつである。』

他にも

『ポロンポロンと音を立てることに時間とエネルギーを注いでどんなメリットがあるのか。』

酷い言われようだが、確かにそうだ。

人間にとって『音楽』とは何なのか。
本書はそんな『音楽』に取り憑かれた人々を綴る、脳精神科医オリヴァー・サックスの医学エッセイ。


一口に『音楽に取り憑かれた人々』と言っても、色んな症例があることに驚かされる。

音が見え味を感じる『共感覚』。
知能は低いのに2,000曲のオペラを覚えている『音楽サヴァン症候群』。
メロディを音楽として認識できない『失音楽症』。
特殊で高い音楽的知能を持つ『ウィリアムズ症候群』。
チャイコフスキーも幼少期に悩まされたという『音楽幻聴』。
言語的背景との繋がりのある『絶対音感』。
飢えた指をピアノの鍵盤を触ることで最上の悦びと感じる『トゥレット症候群』。
日常生活は全く問題がないのに楽器だけが弾けなくなる『ジストニア』。


本書を読んで改めて思ったことは『音楽』とは私が想像しているより、はるかに高度で神秘的な脳の活動、だということだ。

音質・音高・音色・音量・テンポ・リズム・音調・曲線を理解し、音を立体的に捉え、さらに言えば空間的位置と反響までをも知覚せねばならず、脳内だけで音楽をイメージする知力も必要となる。
耳の聴こえないベートーヴェンのように。


脳を破損すると、音楽への理解度や曲の印象度が180度変わってしまうこともあるという。
実際に音楽家の脳は、そうでない人の脳と明らかに違いがあるそうだ。

「音楽は感じるもの。細かいことを頭で考えないで感じるままに。」
と私はいつも注意(?)される。
確かに『音楽』の本質は『心でどう感じるか』なのかもしれない。

しかし本書を読むと、その『心で感じる』ことすら脳の活動の一部なのだと認識せざるを得ない。
そんな考え方をする私のことを、物質至上主義で何の感情もない『唯物論者』と言うのかもしれない(違っていたらごめんなさいね)。
けれど『感情』も『脳の活動の1つ』だということは、事実なのではないだろうか。

本書を読めば少し諦めがつく。
例え、慣れや経験や訓練によって技術が向上したとしても、やはり最高の音楽家達の脳は、私のそれと元々作りが違うのだ、と。

チャイコフスキーのように素晴らしいメロディを生み出す才能があれば、ベートーヴェンのように構成の優れた音楽を生み出す才能もある。
一口に『偉大な作曲家』と言えど、それぞれが全く異なる。

聴こえる音、そこから感じる感情、音に対する意識、感覚、全てが人それぞれで強度も異なる。
それは『才能』というよりは『個性』であり『適性』なのだ。


それでも。
私はきっとこれからも、ポロンポロンと音を立てることに、時間とエネルギーを注ぐだろう。

そしてこれからも、ポロンポロンと音を立てることに時間とエネルギーを注ぎ続ける同志のことを、尊敬して止まない。


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