2021年4/15【429】普通 と思いきや very good? 難易度3

思想OSを修正しよう。
あらゆる変化にしなやかに対応できるよう、西洋思想と東洋思想を上手く使い分けよう。


西洋において『音楽』の発見は古代ギリシャローマにまで遡る。
まず神との対話、ピタゴラスによる音律の発見、そして天体の観測へ。
それはやがて、何でも分析から始めようとする現代人のデータ中心理性主義へと繋がっていった。

音楽の道を志すのがかなり遅かった著者は、指揮者という特殊な職業ということもあり、焦り、理論分析を第一に効率良く合理的に実績を積んできた。

はずだった。
 
「こうありたい」という理想が強すぎた彼は最高の栄誉を得てから一転、どん底へ。
精神的に病んでしまう。

そこで出会ったのが『タオイズム(東洋思想)』。
自分とは何か?
切った爪は、もう自分ではないのか?

言葉で考えることの限界、西洋とは真逆の『無我の境地』、自意識という人間の勝手な思い込み。

世の中には『自分の努力によって自分の成功と人生がある』という『近代西洋思想』と、禅や瞑想、自己と宇宙を一体化する『東洋思想』があることに気付く。


理論によって洗練される西洋の『宇宙の音楽』。
一方、ジョン・ケージの《4分33秒》に代表されるように『あるがまま』を聴くタオイズムの『宇宙の音楽』。


自我の理想を何よりも第一として唯一無二の存在になったものの、あまり幸せを感じられなかったベートーヴェン。
自我を無くし、神と一体化することだけを願い、そうなった自分は何と幸福かと謳う、ティヤーガラージャ(インド古典音楽最大の作曲家のひとり)。

かたや近代西洋的に自意識を極めることによって、かたや東洋的に自我を捨てることで、歴史的イノベーターとなった二人。

西洋と東洋の相反する思想。
どちらが良い悪いではなく、状況に合わせて思想を変え上手くバランスを取っていくことが大事なのだ。


宇宙の話や指揮者あるあるを期待して読んだのに、まさかの哲学の話から始まって面食らったが、音楽を通して理論を、やがて哲学を学んでいく著者の姿には

「哲学なんか勉強してどうなるんだろう?」

という、合理的大好きな完全西洋思想寄りの私の疑問に対する、答えのようだった。

ある意味では、著者なりの成功法則の本。
西洋思想を中心として栄光を掴み、転落し、東洋思想によって立ち直る。
宗教ではなく哲学によって。

一読した段階では何の本だかよくわからなかったが、書評するにあたり読み直していくと、ぼんやりながら輪郭が見えてきた。

哲学と音楽と科学とがミックスされた、なかなか新鮮な切り口の本であった。


哲学の話は私には少し難しかったけれど、本書に紹介されていたベートーヴェン作曲《バガテル 変ホ長調 作品126-3》というピアノ曲に出合えただけでも、本書を読む価値はあったかなと思う。


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