2020年 1/8【306】普通
難易度5


妻を帽子と間違え被ろうとする、30年前で記憶が止まりずっと過去に生き続ける、人間の顔だけが認識できない、意識はあるが身体全ての感覚を失ってしまう…

脳神経に障害を持ち不思議な症状があらわれてもなお、懸命に生きようとする患者達の姿を綴った、医療エッセイ。


『病気』『障害』と聞くとすぐに身体的な症状を思い浮かべてしまうが、脳神経の病の奇妙さには驚くばかり

彼らは、見た目は正常な(場合もある)ので、医師ですら「よくあること」で済ませ原因を見過すことが多く、ましてや健康な他人からは病気だと認知されず、ただの変人扱いされる場合もあるという。


また記憶に関する病だと、幸か不幸か、自分が病に侵されていることに気付かないことすらあるのだ。


ほんの数分前のことをの覚えていられない男性。
過去も未来も存在せず、その瞬間だけが彼の人生。

昨日のことを覚えていられない男性。
感情においても思考においても全てに深みがなく、何も続かないしすぐに飽きてしまう。
それでも、なにかをしたい・なにかを感じたい、そんな物事の意味や目的を、彼は望んでいる。


激しいチック症に悩む男性はその症状を逆手に取り素晴らしいジャズドラマーとなる。
が、薬で症状を押さえるとドラムも叩けなくなってしまう。
チック症という以外に『自分』を確立することができないジレンマ。


年老いてから神経梅毒の症状が出た女性、病気のお陰で(今のところ)毎日興奮状態で幸せすら感じる。


サヴァン症候群(自閉症の天才児)の場合は、日常生活に馴染めるよう訓練したがためにそれまで持っていた天才的特殊能力が消え失せることもあるという。
ただひとつの優れた点はなくなり、どこをとっても人並み以下の欠点ばかりが残る。

なんと皮肉で残酷なことか。


ドストエフスキーやショスタコーヴィチも発作や脳に異常があったという。
偉大な芸術家にはやはり特別な脳内麻薬的作用が関与しているのだろうか。
ではもし脳の異常がなかったら、それら芸術は生まれなかったのか?

人間の精神や想像力は、中毒や病気によって解放や覚醒がおこらないかぎり、眠ったままなのであろうか。



そんな患者達と接し、医師として一人の人間として彼らと向き合い『生きることとは?』『彼らにとって一番の幸せとは?』に真摯に向き合う著者。

自分の誤りは素直に認め改め、権威を振りかざすこともなく相手を『ひとりの人間』として接する姿にはとても好感が持てた。


脳神経の病や自閉症児を見て、今のところたぶん健常者である私(達)は、そんな彼らのことを、心理を、生き方を理解も評価もせず、嫌なことだけれど、可哀想・不憫・不気味・非人間的、という感情を少なからず抱くと思う。


だが本書を読み、病気のことを知り、その患者を暖かい目で観察し共に時間を過ごしてきた著者の言葉を通じ、彼らには彼らなりの素晴らしい内なる世界を持っているのだと知ることができた気がする。


そして彼らが時折見せる驚異的な回復力や、『ただ普通に生活を送りたい』一心のひたむきな努力にはとても勇気付けられる。

できないって?
ほんの2・3週間やってみてできないからって諦めてどうする?


患者のエピソードはどれも大変興味深く、著者の考察もそれは素晴らしく考えさせられるものが多かったが…

やっぱり少し難しかった~!



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