面影四十八手 その二十九
過日、或る神宮で朱色の袴がならんで、右から左へと横ぎった。左の袴はいかにも巫女的な歩行とともにあったが、右の袴にいたっては幽玄という言の葉が社交辞令として適しているであろうか。ひどく生氣を感じさせなかった。しかし境内のほうから天の鈴がちゃりちゃりちゃりと訊こえると、たちまちふたつの袴は入れ替わり、左のそれは幽霊的に、右のそれはOL>的な動法となった。昔であったなら、ひどく靈的と畏敬の念を込められたこのような現象でも、今となっては、ただマトリックスのよじれにしか映らなくなっている。平行世界なるものは、どこか異次元の彼方で光り輝いているのではなく、眼前のアスペクト裏にだらしなくうたた寝しているものなのかもしれない。