心と身体を緩めて穏やかなあなたへ戻す場所
治療院 『ばいたるえなじ~』
癒し手しげさんのアシスタント、くみです。
少し前に、
しげさんがどこかから、
大きめの断熱タイプの紙コップと、
その紙コップ用の飲み口がついた蓋、
つまり、
コンビニの量り売り用のと同じようなセットを見つけてきまして。
最近は、
コンビニでコーヒーを買うよりも、
しげさんが淹れた珈琲を持って出かけることが増えました。
そんな今日の、出張施術へ向かう車内の会話。
「しげさんが淹れてくれる珈琲、美味しいな〜」
『そうでしょ。もっと褒めてもいいよ?』
「本当に美味しいです。
こんな熱々の珈琲を、
普通に飲めるようになりましたよ。
飲み方のコツを教えていただいてから」
『そういえば、くみちゃんの猫舌自慢してたよね(笑)』
実は、私、
昔からひどい猫舌で、
珈琲なんて、たとえそれが缶コーヒーであったとしても、
しばらく放っておいてからでないと、飲めませんでした。
アシスタントになって間もなくの頃、
コンビニのカップ売りのコーヒーを奢ってもらったとき、
普通に飲むしげさんを見ながら、
「熱っ!しげさんよく飲めますね?
私、猫舌なのでこんな熱いの無理です!」
とドヤ顔で言った私…。
そんな私に対して、
しげさんがボソッとひと言。
『空気と一緒に飲んだらいいんだよ』
「え?」
『口に流れ込むのを飲むんじゃなくて、
吸い込む息と一緒に、
飛沫状の珈琲が飛び込んでくるように飲んだらいいの』
「???」
何を言われているのかよくわからないまま、
『ズズズ~っって音を出しながら飲んでみ?』
というしげさんの言葉通りに飲んでみたら、
嘘みたいに美味しく飲めたんです。
どうやら私、相当不器用なようで、
熱々の珈琲に唇をつけたり、
舌先で迎えに?行くような飲み方をしていたんですね。
今ならわかります。
そりゃ熱いわ(笑)
「え?!しげさんなんでそんなこと知ってるんですか?!」
『いや、皆そうしてるでしょ(笑)』
ほんとね、こういう会話しょっちゅうなんですよ。
結局、35年間猫舌だと思い込んでいましたが、
なんだ、不器用なだけでした(笑)
『そんなこともあったね〜』
「要するに、空気と一緒に飲めば、熱くないんですよね?」
『ちょっと違う…』
「え?」
『クーラーがどうやって温度を下げているか知ってる?』
「知りません」
『気体ってね、圧が下がると温度が下がるのよ』
「時間かかります?」
『ん?』
「手短に分かりやすくお願いします」
『何だよ?』
「サルにでもわかるように教えてください」
『浮き輪に息を吹き込んだことある?』
「口でですか?」
『そう』
「あるにはありますけど…」
『ぱんぱんに吹き込むと、浮き輪が温かくなるでしょ?』
「あれって、息の温度じゃないんですか?」
『違うよ。空気入れで入れても温かくなる。
ってか、そっちの方がもっと温かくなる』
「どういうことですか?」
『吹き込まれた空気の圧力が上がるから温度が上がるの』
「そうなんですね」
『そう。だから、空気を滅茶苦茶に圧縮したら、超高温になるよ』
「なるほど」
『反対に圧が下がったら、温度も下がる。
だから、クーラーは、
室外機のコンプレッサーでガスをガンガン圧縮して、
その圧縮されたままのガスを室内機まで運んで、
そこで、急激に圧を下げるの。
その時の急激な温度低下で冷やした空気を室内に送るわけ』
「何となくはわかりましたけど、
それとコーヒーの温度と何が関係するんですか?」
『口をすぼめて空気をすうと、
すぼめた唇の間を通るときに空気の流速が上がるじゃん?』
「ええ」
『その時って、空気が圧縮されてる状態なの』
「あ…」
『わかった?だから、すぼめたところを通過した空気は、
解放されて圧が下がるから、周りを冷却する働きをする、と…』
「なるほど」
『だから、逆も同じで、
熱々のラーメンをふ~ふ~するときも口をすぼめて、
息のスピードを上げるでしょ?
みんな、原理を知らなくても経験からそうするんだって。
それができないって、よっぽど不器用なのか、
よっぽど何も考えていないのかのどっちかだろ?』
「なるほど、よくわかりました。
まあ、でも、私だからいいですけど、
そうやって講釈ばっかりたれてると嫌われますよ(笑)」
『うっせーよ』
「まぁまぁ。
じゃあ、猫舌だって言う人は、
私みたいに不器用な人が多いんでしょうか?」
(仲間が欲しいだけ…笑)
『そうだね(笑)
あとは、弱い人かな?』
「弱い人とは?」
『苦痛とか痛みとかに弱い人。
あのさ、猫舌じゃない人でも、
多分、熱さをかんじていないわけじゃないんだぞ?
みんな、熱々が美味しいって言うじゃん?』
「しげさん、熱いと思って飲んでいます?」
『うん』
「へ~、そうなんですね?」
『だから、猫舌じゃない人でも、
予想外に熱かったり、飲み方や食べ方を失敗したら、
そりゃあ、ヤケドするよ』
「なんか、意外でした」
『そもそも、猫舌の人って、
身体が弱くて、低い温度でヤケドするってわけじゃないはず。
これ以上高温に触れたら細胞のタンパク質が壊れる、
みたいな限界点に個体差なんてほとんどないんじゃね?』
「たしかに…」
『だから、くみさんみたいに猫舌の自慢をする人って、
よほど不器用な人か、
よほど苦痛に対する耐性が低い人かのどちらかだと思うぞ』
「え?つまり、
他の人なら騒がない程度の熱さで、
熱い熱いって大騒ぎしているってことですか?」
『多分…』
「ほんとに?」
『いや、わし猫舌じゃないから、
種類の違う生き物の事情なんて知らんけど、
多分、そうだと思うぞ?』
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