
パパ。また豊洲市場のニュース見てるの?好きだね。
この問題は土壌汚染の問題だけじゃないんだ。日本の行政の問題が凝縮されてるんだよ。
ふーん。パパはどうせ移転反対なんでしょ?
そう。でもその理由がちょっと変わってきた。一番の問題は巨額赤字の垂れ流しだと思ってたけど、もっと大局的な観点で問題だと思うようになった。
それは何?
行政の説明責任だよ。
なーんだ。陳腐だね。
そう思うだろ?でも実はとっても重要なんだよ。誰もが科学は信頼できると思ってるけど、今分かってる科学なんて氷山の一角なんだ。だから、土壌の安全性や建物の耐震性でも意見が分かれる。どんなに議論したところで意見が集約することなんてあり得ない。でも、直接的にしろ間接的にしろ、いずれ我々が選挙を通じて行政の仕事に評価を下さないといけない。その時、何を根拠に判断する?
専門家の意見じゃない?
専門家でさえ意見が分かれているんだ。その時重要なのが説明責任。着工前にちゃんと説明したのか、完成後に説明通り実施したのかを見ることが重要なんだ。盛り土を例にとれば、今になってそれが必要か議論しても平行線を辿るだけで結論は出ない。
「ゴールポストを動かすな」という話だね。
そういうこと。ところで、豊洲市場みたいな公共事業が決まった時、苺ならまず何をする?
設計図を書く。
そう。ここで基本構想が固まる。本来はこの段階で詳細設計説明会をして都民に説明しないといけない。
(公共事業の流れ)



でも、豊洲市場ではそれがなかった。むしろ隠蔽していたと思う。それは土壌汚染や耐震性だけの問題じゃない。例えば市場へのアクセスや市場内の人の動きもそう。最近ではこんな風にコンピュータ・シミュレーションするようになっているんだ。
(MITによる信号機通信システム)
(EXODUSを用いたスタジアム避難シミュレーション)
豊洲市場で都や設計会社がここまでやったのか疑問だね。でも、そこまでやってたら作業が膨大で大変だよね。
パパの尊敬する人にスタンフォード大教授のデビッド・ケリーがいる。あのスティーブ・ジョブズと一緒にアップルを創設した人だよ。デザインのプロである彼がデザインプロセスについて次の手順が必要と語っている。

①理解フェーズ (各分野の専門家と話し専門家以上のレベルに到達)
②観察フェーズ (現場を丹念に見て専門家も気付かない問題点を発見)
③視覚化フェーズ(模型やビデオで視覚化することで将来像を確認する)
④反復フェーズ (視覚化したものを多くの人に見せて他人の力を借りる)
ここまでやってようやく理想のものができあがるという訳。中でも特に④が最も大事と彼は言っている。デザインというのは単に格好いい外観という意味じゃない。考え尽くされた性能が形になったものなんだ。豊洲市場で言えば、事前説明会で市場の将来像を見せることが重要だった。例えば素人考えだけど「将来的に仲卸を通さないネット販売の安物と仲卸の目利きを通した高級品に二極化する」という像を描いたとする。それが設計に反映されていれば都民は納得する。ところが、市場の取扱量が減少している中でのあの巨大市場の将来像が見えない。それどころか、市場内のレイアウトも水産と青果を繋ぐ動線すらろくにないと言われている。他の市場との比較も必要。フランスのランジス市場との違いは何か。維持費はランジス市場と比べてどうなのか。そういう将来像を見せてくれれば、たとえその予想が外れたとしても都民は納得するんだよ。
でも、あれをデザインしたのは一流の日建設計でしょ?
天下の東芝だって今はああなっているんだ。もしかしたら日建設計も利益至上主義になってしまったのかもしれない。昔は日建設計にも職人気質の人がいたそうだよ。そういうOBは今の豊洲市場の現状を嘆いているかもしれないな。
なるほどね。でも一番の問題は行政の隠蔽体質という訳ね。
そう。豊洲市場だけじゃない。新国立競技場も将来像が見えないし、五輪選手村の格安譲渡も説明責任なんて果たしていない。要するに、行政が計画するハコモノには思想が見えないんだよ。
でも、パパ。あまりハコモノに思想を入れるのは危険だと思うよ。
どうして?
だって、豊中の小学校みたいになるでしょ?
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(デビッド・ケリーのデザインプロセス)
(公共工事の流れ)
(ランジス市場)
(大根2本のゆくえ)
(なぜネット食品は成功しないのか?)