眠りから覚めたブルータスは、そのお告げが夢ではなかったのかと自問した。
が、しかし、風向きが好都合なうちに帆を揚げて、お告げのあった島へ躊躇せず向かうようせっつく仲間の意見を聞き入れた。
そのため、船は再び海へ出たが、荒れ狂う波の上での30日間にわたる航海の末、ブルータスは北アフリカ方面に進路を向け、
嵐を避けるため、沿岸地帯に沿って航行せざるをえなかった。
到着したのは、トロイ人がかつて食糧などを調達するのに利用したマラヴィア川の河口にあるモーリタニアに他ならなかった。
ヘラクレス円柱の近くを帆走中に、ブルータスは逃亡中に先祖が滅びそうになった、同郷のコリネウスと出会った。
コリネウスは生まれつき強大な腕力を備えていて、ブルータスと長旅の続きを同行できるのを喜んだ。
ヘラクレス神殿を通り過ぎた後、トロイ人たちは大西洋を航行し、アキテーヌ(フランス南西部地方)のガロンヌ川河口に停泊した。
この未知の領土を探索するため、彼らはガロンヌ川を帆を使って昇って行き、アキテーヌでしばらく休憩した。
この時代、ゴファール王がこの地を統治していた。
王はすぐに闖入者(ちんにゅうしゃ)の到着を知り、使者たちに彼らが平和をもたらすのか、戦争を引き起こすのか、確認調査するよう命じた。
不幸にも一行は、コリネウスと同じくらい手強く、短気なヒンベールという男に連行されてしまった。
王の家臣たちが現れたとき、一行の後尾にいた者がイノシシを矢で射るところだったのだ。
「王の獲物を殺す許可を誰に得たのか?」ヒンベールは叫んだ。
コリネウスは不敵な笑みを浮かべることで我慢した。
「私に許可など必要ない!」
この無礼な言動に激怒して、ヒンベールは矢筒から矢を取り出し、弓に取り付けたが、狙いを定める前に
コリネウスが彼に飛びかかり、ヒナゲシの花にするように難なく首をはねてしまった。
このようにして、トロイ人たちはアキテーヌで戦闘に突入してしまった。
運命が彼らに相反したにも関わらず、彼らの健闘が勝利をもたらすこととなった。
コリネウスはライオンのように戦った。戦闘で剣を失った後、彼は両手で斧を持ち、敵兵に大いに恐怖を撒き散らしたので、相手はすぐに退散した。
戦いは終わった。
トロイ人は自分たちの船にたくさんの戦利品を積み、アキテーヌにぐずぐずすることなく再び海に戻った。
というのは、他のガリア人の王国から来た無数の部隊が、ゴファールの援軍として向けられたからである。
風はトロイ人に味方した。船団は素早くアキテーヌの岸から遠ざかることができた。
海岸がはるか彼方に見えなくなるにつれ、トロイ人は喜んだ。
ついに彼らは、神々が約束した地にたどりつきそうだった!
彼らは新たな祖国の土を踏むことになるのだ!
ブルータスはそれでも、休息をとることができなかった。
目下のところ、女神の予言は全て実現していたが、彼は女神が心変わりしないか、自分たちが破滅の方向に進んだりしないか恐れていた。
青味がかった霧の中から、狭くて識別するのが難しい帯状の土地が現れたとき、彼は考えにふけっていた。
この小さな岬は見るたびに大きくなるように思えた。
そしてすぐに、木と藪に覆われた断崖が水平線上に現れた。
「トリノヴァンタム!トリノヴァンタム!新しいトロイだ!!」ブルータスは叫んだ。
「ラ・ブルターニュ!ブルターニュと呼ぼう!!」トロイ人たちは、ブルータスに敬意を表してそう叫んだ。
船を砂浜に接岸しながら、彼らは波間に飛び降りた。
もう1度言うが、神託は嘘をつかなかった。
待ちわびた島を見つけたばかりのトロイの亡命者たちは、トトゥネスと呼ぶことになる場所に降り立ったのだ。
第1話完→第2話へつづく