A'sW3-54 金杯と心配
1月5日。徹は仕事始めであった。同日は、中央競馬恒例の、中山/京都金杯の開催日。
「金杯で乾杯」の運試しを現地・中山競馬場でしたい徹だったが、さすがに会社初日を休むわけにも行かず、なくなくPAT投票に。
仕事が終わってから、パソコンでレース結果を確認。中山金杯は1-2-4着、京都金杯は2-3-5着の三連複馬券を購入していた。徹は「年が明けても【ANGEL's WINE】病は罹ったままなのか」と呟き、苦笑いした。
帰宅した途端、携帯電話に山下茜から電話が入った。
「あけましておめでとうございます」
「アケオメ。茜ちゃんはいつ、こっちに戻ってきたの?」
「3日の日です。昨日から、私の会社は仕事だったので」
「ウチの会社より1日早いんだ。大変だね」
「それよりも………徹さんに相談したいことがあるんです」
茜の声のトーンが低くなった。
「どうしたの?」
「今日、ゆかりから、荷物が届いていたんですよ」
「荷物??」
「中を開けたら、バラの花束と、赤ワインのボトルが入ってました… 徹さんのところには、きましたか?」
「いぃや、きてないよ。今のところ」
「そうですかぁ… 何のメッセージも入ってないんですよ。気持ち悪い、というか心配になっちゃって」
徹は、元日に来た新城のメールを思い出した。添付写真には、バラの花束と、ワインらしきもののボトルが写っていた。
「徹さん、聞こえてますか?」
「ああ、ちょっと考えてたんだ。それってもしかして、『ご褒美』じゃないのかな?」
「ご褒美ですか?」
「茜ちゃん、というか『ユーカリ』がゲームの最後、優勝したでしょ。その景品だよ、きっと」
「そうなんですかね…まぁ、ちょっと気分が軽くなりました。ありがとうございます」
「明日も仕事…だよね。遅いの?」
「今日と同じくらいには帰れると思います。あ、今日は9時前には帰宅したんですけどね」
「もしかしたら、明日の夜、電話するかもしれない」
「何だろう・・・? 気になります」
「まぁ、電話待っててよ。じゃ、今年も宜しく」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
電話を切った徹は、これでいいんだ、と自分に言い聞かせた。
茜は知らなくていい。新城が『残念賞』を受け取っていることを。
しかもワインのボトルは小杉が持っていた。
ゆかりは新城の住所を知っているのだろうか? ゆかりと新城は、1度会ったのみだと思う。そこでゆかりは、新城に好感を持たなかった。住所を聞いているとは、考えにくい。
考えられるのは、小杉が退院祝いと称して持参したのだろう。そしてそのバックには、中原興樹がいるはずだ。
それを、茜や新城が知る必要は、ない。それを分かるのは自分だけで十分だ。
徹は、この「秘密」を胸にしまうことにした。