A'sW3-51 extra battle(3)
「ルールはジャパンカップのときと同じです。それぞれ単純に1着を予想します。両者の指名馬が2着以下なら引き分け、一方が1着でもう一方が6着以下、または5馬身以上差が開いたら、1着指名者の勝利。どうでしょうかネェ」
「何か賭けますか?」
「何か賭けたいところですが…ンン…『男のプライド』でいかがでしょう」
徹は失笑した。徹のプライドは、既にボロボロである。
「いいですよ。もう、俺の指名馬は決めています。ヴァーミリアンです」
「ウーン、私の指名馬は、馬券を購入してからで、よろしいでしょうかネェ」
「ヴァーミリアン以外を指名するってことなら、良いですよ」
2人はそれぞれ馬券を購入し、元の席に戻った。
「ンフフフ、決めました。私はサクセスブロッケン号です。⑭番です。瀬田さんは、⑬番指名ですね」
指定席から見下ろしていた2人は、下の観覧場所が人で溢れかえっているのが分かった。
長い長い『締切2分前』表示の後、投票締切の音が鳴り、しばらくして大井名物の生ファンファーレが鳴り響いた。
第55回東京大賞典(JpnⅠ)、スタート。レースは予定通り先行馬が前に行く展開になったが、向こう正面でゴールデンチケットが掛かり気味に前に出る。
最後の直線。ゴールデンチケットが失速し、徹の本命・ヴァーミリアン(武豊 騎乗)が先頭に立つ。その外から、中原皇騎の指名馬・サクセスブロッケン(内田博 騎乗)が急襲する。
「ユタカーーー! ここは意地見せろやーー!!」
僅差の勝負。2頭の好勝負になったのは、スタンドにいる全員が分かっていた。
写真判定。しかし、ジャパンカップのような「どっちが1着か全く分からない」という雰囲気ではなかった。
「内田がウイニング・ランをしていますネェ。」
中原興樹が満足げな笑顔を見せている。きっと、馬券も的中させたのだろう。
写真判定の結果が表示された。1着が⑭、2着が⑬と表示された。着差は「ハナ」。まだ審議中であり、確定はしていなかった。
「またハナ差ですか。貴方と私の差は、どこまで行ってもハナ差なのかもしれませんネェ」
「どこまで行っても逆転できない、ハナ差なんだと思うけど」
「ンー、うまいこと言いますネェ、ハハハハッ!」
中原興樹の乾いた笑い声が響いた。
着順はそのまま確定し、中原興樹は払戻窓口に向かった。徹は、ヴァーミリアンを1着固定にした買い方しかしていなかったため、馬券は不的中。
中原興樹が財布を小脇に抱え、戻ってきた。
「タクシー代くらい、稼ぐことができましたヨ」
「タクシー代?」
「申し訳ないのですが、私はもうすぐここを出なくてはなりません。あと2レースありますが、瀬田さんは残りますか?」
「どこに行くんだよ?」
「オヤ、敬語ではなくなってしまいましたね。マァ教えてあげますよ。今晩、新宿のホテルで会食があるのです。ゆかりさんのお母様と、お母様があってほしいと言う方がいらっしゃいましてネェ」
「ゆかりは知ってるのか?」
「ンー、私からは伝えてませんが」
「電話でチクってやろうか」
「ウーン、それは困りますネェ」
中原興樹は笑顔だった。困った様子はみじんもない。それを見た徹は笑うしかなかった。ただ、何故か笑い声が出なかった。
「電話はしないでいただきたい。その代わり…よろしければ新宿まで、一緒に行きませんか? まだ少々、お話してないことがあるので、ネ」
「行こう。もうあと2レースは当たる気がしない」
「では、そろそろ行きましょう。ただ、タクシーの中で話すことは、貴方が 聞いたことを後悔しなければ良いのですがネェ」
「安心しろ、何を聞いても会食には乱入しないから」

