A'sW3-46 それぞれの旅路へ(1)
中央競馬の総決算:有馬記念の行われる12/27、瀬田徹は午前中からWINS後楽園にいた。
2階入り口でポニーと戯れていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、間野ゆかりが1人で、笑顔で立っていた。
「なんで、ここに……」
「府中でもポニーがいると、よくじゃれてたから、きっといると思ってね」
「いや、何故、このウインズにいると知ってるのかと…」
「私、携帯はOFFにしてたけど、SNSのメッセージは読んでたからね。茜が、どうしても話したいって何通もメッセージを送ってきたから、電話した。いろいろ話は聞いたよ」
「そういえば、お父さん、ご愁傷様。なんて声を掛けたらいいのか…」
「んん。もう大丈夫。立ち直ったよ。私の傍には…」
「ねぇ、SNSで送った誕生日&クリスマスカード、見てくれた?」
徹はゆかりの言葉を遮った。
「見たよ。私の誕生日、天皇と一緒だもんね。イヤでも覚えるよね。だから天皇賞には力が入るんだけど」
「1年前も聞いたなぁ、そんなこと。誕生日とクリスマス、一緒にされるのがイヤだってのも」
徹とゆかりは、WINSの館内に入り、グッズ売り場をウロウロしていた。
「徹、ぬいぐるみとか買ってくれたよね。今でも実家にあるよ、ウオッカとダイワスカーレットのぬいぐるみ」
「まぁ、俺の財力と的中率では、その程度のことしかできなかったからね」
今度は徹から、明らかに皇騎を意識させる発言をした。
「ヤキモチでしょ。興樹がお金持ってるから? 私に強烈なアプローチをしているから? 興樹が間野家の婿養子を狙っているから?」
「茜ちゃん、そんなところまで話してたのかよ……」
「茜、イヴの夜に泣きながら話してた。貴方に対する想いも。イヴの夜に、ほったらかしにしたら、ダメぢゃない」
「俺と彼女は、付き合ってない」
「一年前、私と徹は、付き合ってなかったよ。でも、一緒にいたよね。女心をもっと分かってあげないと」
しばらく徹は無言になった。しばらく店内をぶらついた後、店外に出て、話を切り出した。
「答えはもう、決まってるのかい」
するとゆかりは突然、30mほど走り出した。
徹は「久しぶりな感覚だ」と感慨深くなりながら、後を追いかけた。
「うん。興樹さんに決めた」
徹は不思議だった。何故か、思ったより落胆を感じなかった。でも話さずにはいられなかった。
「決め手は何?」
「やっぱりね、父が亡くなった時、傍にいてくれたこと。これが大きかった。徹が、私の実家を捜してくれていたのは、茜から聞いたよ。
でも…でもね。興樹は優しくて、そして積極的だったの。その積極性が怖い時があるのは確か。だけど、やっぱりもう、離れられない」
「そうか……でもさ、彼を貶めるつもりはないんだけど、新城から彼のイカガワシイ噂を聞いているんだけど」
ゆかりは少し間を空けた。ただ、表情は変わらなかった。
「私の母ね、彼の身辺調査をしたらしいの。たしかに今まで、怪しい会社に勤めていたことはあるらしいの。でも、彼はいつも優秀で、活躍するステージを上げている。それが、母のお眼鏡に、認められたの」
「お母さんの言いなりでいいの?」
ゆかりは突然、6階へ直行するエスカレータに乗り込んだ。慌てて徹も追いかける。
「ゴメン、それは言っちゃいけなかったのか」
「興樹はそんなこと、絶対に言わない。母にも、亡くなる前の父にも、優しかった。傷ついている私に、できる限りの優しさをくれた」
「それは、打算の優しさじゃないのか?」
徹は、これを最後の抵抗にしようと覚悟していた。下手をすれば、二度と口をきいてくれないかもしれない。
「打算でも、間野家乗っ取り計画でも、かまわない。もう、そう覚悟を決めたの」
今度は徹が駆けだした。窓がある場所を探し、屋外を眺めた。ゆかりはゆっくり追いかけた。
「俺の覚悟が、ゆかりの覚悟に負けた」
「徹……、ごめんね……」
「謝られると、とっても辛いよ」
ゆかりが徹の肩に寄りかかった。たぶん、最後の感触だろうと、徹は思った。
想いにふけていると、徹の携帯電話が鳴った。
「もしもし、茜です。今、東京ドームの前まで来ました。今、館内のどのあたりですか?」

