A'sW3-44 そろそろ気づいて…
「なんか、いろいろあって気持ち悪いけど、まずは ゆかりが気を落としてないか、心配ですね」
「そうだよなぁ。父親を亡くすって、どんな気分なのか分からないけど、大変だよなぁ」
「ゆかりにとってお父さんは、お母さんに比べると比較的 理解してくれてたと聞いてます。そのお父さんをなくされたなんて…ずっと病気だったのか、突然だったか分かりませんけど、相当なダメージだと思います」
徹は山下茜と、新宿駅西側のファミレスで待ち合わせ、新城から聞いた話を伝えた。
茜は ゆかりの父親が亡くなった話をした段階では驚きの表情を見せていたが、皇騎の話をすると、表情は困惑したものへ変化していった。
「で、皇騎さんの方は、どうするんです?」
「どうするって……分からないよ。次元が違う話だもん。ただの競馬好きのレベルを何段階も超えた話になっちゃって…財力勝負だったら、勝ち目はないしね」
「ゆかりは諦める、ってことですか」
茜が鋭い眼差しを徹に向けた。徹は、苛立ちを隠そうとしなかった。
「どういう意味?? 俺は諦めなきゃいけないの?!」
「今、勝ち目はないって言ったじゃないですか! 財力勝負以外で、何か手段でもあるんですか?」
2人は怒鳴ったわけではないが、顔は紅潮していた。しばらく沈黙が流れた。
茜がパスタを口にしたとき、右目から一筋の涙が、頬を伝った。
「え? あ、茜ちゃん…?」
「そろそろ気づいて… 私だって、辛いんです……」
茜の目から涙が溢れてきた。ハンカチで顔を押さえ、俯いてしまった。
「ゆかりとは、親友です。でも、これ以上、ゆかりの話を徹さんから聞くのは、辛いんです…」
一緒に浦和競馬場に行ったあたりから、徹は薄々気づいていた。茜が自分に好意を寄せていることを。
「気づいてたよ。でも、ゆかりという存在のせいで、正面から向き合えなかった。それは謝るよ」
「謝られても困ります。徹さんは悪いことをしたわけではないですから。でも、そろそろ耐えられなくなってきました」
「いつからなの? その……俺のことを気にしだしたのは」
「最初に会った日からです」
「えぇ?!」
「ただ、日に日に徹さんとゆかりが仲良くなっていくのを見て、そういう感情はなくなりました。
いや、なくなったと思ったんです。でも、夏に徹さんと会ってから、心の中がモヤモヤしました。そして秋口に東京競馬場でもう一度会って、決定的になったんです。逃れられない、と」
徹はコーヒーを啜った。何回も啜った。頭の中は空回りしている。目の前で、俯きながら一生懸命話す茜の姿が、霞んで見えた。自分は涙は流していない。でも、茜だけでなく周りの世界が白んで見えている。
「……今すぐには、なんとも言えない。そんなに頭の切り替え早くないから。
ねぇ、有馬記念の日、中山競馬場に行かない? それまでに結論出るか分からないけど、そのときの考えを話すよ」
「27日ですよね… 私、午前中は都内で用事があるんです。WINS新宿にしませんか?」
「うーん。WINS新宿は狭いから、激コミするよ。WINS後楽園で、どう? 水道橋駅のすぐ近く」
「東京ドームで野球を見たことあるから、知ってます」
「ここも混むけど、比較的広いから。周りに食べるところもあるし」
「分かりました。午前中の用事が終わったら、電話します」
茜は顔を上げた。顔は赤いままだが、涙は止まっていた。
2人はそれから数十分、とりとめのない話をして、店を後にし新宿駅で別れた。