A'sW3-43 皇騎の目的
【ANGEL's WINE】のない阪神JFが終わり、朝日杯FSの3日前となっていた。徹は結局、ゆかりの実家を探し当てることはできなかった。
徹は年末に向け、業務が再び忙しくなってきた。まだ仕事中だった12/18の午後6時、徹の携帯電話が鳴った。発信者は新城だった。
「よぉ、久しぶり」
「新城……アンタ、大丈夫なのか?」
「小杉の奴、おしゃべりだな。まだ入院中だよ。だけど、とりあえず今は躁状態は脱した。反動でむしろ、鬱状態だ」
「アイツの名前は出さない方がよいのかな…」
「いや、アイツの話で、電話したんだ。中原興樹」
新城の声色は、落ち着いているがハッキリしたものだった。
「この前の日曜、ゲームがなかっただろう。何でだか分かるか?」
「必死で調べようとした。だけど、ゆかりとは連絡がつかなかった。そして皇騎は、ゆかりの実家にたどり着いた。俺はたどり着くことができなかった」
「これから言うことは、落ち着いて聞け。といっても俺も躁状態だったら、ヤバかったかもしれないが」
しばらく間があき、徹は固唾を飲んだ。
「1週間前、間野ゆかりさんの父親が亡くなった」
「ぉぃ・・・おい、なんでアンタがそんなことを知ってるんだ???!! 本当なのかよ??!!」
徹は職場の片隅にいたが、声が職場中に広がってしまった。
「落ち着け。順に話す。中原興樹の敵は、俺だけじゃない。奴のことを恨んでいる人間は複数いて、俺はそのネットワークに入っている。
そのネットワークの人間は、中原のことをストーカーしているわけではないが、情報通の人間がいてな。西東京市で間野家の葬式が週末に行われることを知り、その参列者の中に中原興樹がいることを突き止めた」
徹は無言で、新城の言葉を聞いていた。
「それを入院中の俺に教えてもらったのが、昨日と言うわけだ。教えてもらった人間に聞いたんだが、間野家は田無近辺では、有名な家柄らしい。なくなった父親は、どこかの会社の役員だったらしい。葬儀は結構大きなものだったとよ」
「アンタ、それをご丁寧に俺に教えてくれたんだ。ありがとう。俺は強大な敵に対し、ますます闘争心が湧いてきたぜ」
「強がるな。それに、そろそろ理解しろよ、中原興樹の本当の目的を」
新城には簡単に強がりを見透かされた。しかし…皇騎の本当の目的? 徹には見当がつかなかった。
「皇騎は、ゆかりを自分のモノにしようとしている、そういうことじゃないのか」
「半分合っていて、半分違うな。中原興樹は、間野ゆかりと結婚し、婿養子に入ろうと画策しているんだ」
「おい、なんか凄い次元の話をしている気がするんだが…」
「アイツとお前とじゃ、元々次元が違うって。ようはな、間野家を乗っ取ろうと計画してるんだ。
まぁ、証拠はない。俺の推論だ。だが奴はハイエナだ。今までのヘッドハンティング先は、現在勤めている会社を含めて、新興会社で安定度に欠ける会社ばかりだった。奴なりに安定を求めた、それが間野家だったんじゃないか」
「でも、ゆかりはそんな奴は毛嫌いするだろう」
「中原興樹は、その辺は巧妙に話を進めたんだろう。奴の交渉術と狡賢さは、昔から天下一品だ。世渡り上手のハイエナは、若い娘さんの心を惹く術は、当然のように持ち合わせていたんだろうな」
「皇騎がトンデモナイ人間だというのは、分かった。要するにアンタは、俺に手を引け、と言いたいのか」
「ようやく分かってくれたか。まぁ、前から言ってたもんな。そうしないと、瀬田さんも神経おかしくするぞ」
徹はため息をついた。
「かもしれないな…… 分からなくなってきた」
「茜ちゃんにでも相談してみたらどうだい?」
「それくらいしか、思いつかないな」
「やべ、看護婦に見つかった。電話切るけど、アトは瀬田さん次第だ。じゃあな」
電話が切れ、徹は虚脱感に襲われた。
我に返った徹は、ゆかりに電話を掛けたが、コールすることなく留守番電話になってしまった。
巻き込みたいとは思わなかったが、仕方なく、新城に言われた通り、山下茜に電話を掛けた。