A'sW3-41 女の戦い
【初めに】とりあえず、小説部分を再開します。時系列がだいぶずれますが、ご了承ください。
━─━─━─━─━─
12/7午前、はりまや橋から路線バスに乗って、徹と茜は高知競馬場にたどり着いた。
11:30過ぎに競馬場に入った茜は、浦和競馬場をもっと閑散としたようだと感じた。徹が写真を撮りに歩きまわるので、茜はついていくのが大変だった。
第2レースが終了し、今回の大目的であるレディースジョッキーズシリーズ(LJS)の騎手紹介が行われていた。
「あの一番右にいるのが、北海道の笹木美典。『みのり姫』って言われてるんだよ」
徹が写真を撮りながら、一生懸命解説をしてくれた。
茜は事前にオッズパークのLJSホームページを見ていたので、なんとなく騎手の名前は覚えていた。
そして第5レース。LJS今日の第1戦。
「あれが、名古屋競馬の山本茜。茜ちゃんと、一文字違いなんだよね」
「そうみたいね。ちょっと、運命的なものを感じちゃった」
「今度、名古屋競馬場に行かなきゃね。山本茜、今のところLJS首位なんだよ」
茜は嬉しかった。一緒に名古屋に行ってくれる――徹はそう約束してくれたような気分だった。その徹は、写真を撮るのと、競馬新聞を見るのに必死のようだった。
パドック周回を終えて、2人は馬券を購入した。茜は「運命的なものを感じた」山本茜の複勝馬券を購入。
「見てよ、馬連複の馬券にも、騎手の名前が記載されてる。さすが、LJSだね」
そう言って、徹は馬券を見せてくれた。確かに、それまでのレースでは馬名が記載されていたのが、このレースでは女性騎手の名前が記載されていた。
レースは、地元・高知所属の別府騎手が制した。茜が応援した山本茜の馬は、2着に入った。
「やった、私、複勝が的中!」
「ありゃぁー。山本茜は次のレースだと思ったんだけどなぁ。同じ高知でも森井じゃなくて別府が来ちゃったよ。これで山本茜の優勝は、ほぼ決まりかな」
次の6レース、LJS最終戦は、徹が山本茜の単勝馬券などで勝負。茜は、山本茜の複勝馬券。このレースは人気が割れていたが、山本茜の馬も単勝5倍台で、人気になっていた。
レースが行われ、山本茜の馬は4着。徹も茜も、馬券は撃沈した。
ここで、茜は徹の手を引っ張った。このタイミングで路線バスに乗らないと、高知空港発羽田行き飛行機最終便に間に合わなくなるかもしれないからだ。
このことは、前夜 徹にも伝えていた。徹は、まだ競馬場にいたいという顔をしていた。だが、半ば強引に、茜は徹を連れて、高知競馬場を後にした。
帰りの道中、徹は茜に女性騎手の現状について教えてくれた。
「騎手ってやっぱり体力がモノを言うから、女性騎手はなかなか活躍できないんだ。ハッキリ言って、男尊女卑の世界。まぁ実力の世界の結果だから、どうしてもそうなっちゃうよね。山本茜や、同じ名古屋の宮下瞳とかは、いろいろありながら活躍してるけど。でもJRAから増澤と西原って2人がいたでしょ? 増澤もほとんど勝てないし、西原なんて騎乗機会も全然ないよ」
「大変な世界なのね」
「でも、浦和の平山は、この前のLJSで勝利をあげた後、地元でも久々に優勝したんだ。LJSが、彼女達の活躍の場を広げてくれるとイイよね」
茜は競馬初心者で、女性騎手を生で見たのは、この日が初めてだった。それでも、女性騎手の活躍を祈る自分がいることに、気がついた。
「女性も強くならなくちゃ、ね」
「うーん、一般社会だと強い女は結構多いような気がするけどね」
「競馬界ほどじゃないけど、世間はまだまだ男尊女卑よ。それに立ち向かう、カッコいい女性が増えたのは確かだけど。私も強くなりたい」
「茜ちゃんが逞しくなると、なんかイメージ変わりそうだなぁ」
2日後、山下茜は徹からメールを受け取った。名古屋競馬の山本茜が、調教中の事故で骨折したというものだった。茜は少なからずショックを受けた。LJS優勝者の山本茜が、すぐに戦線離脱。競馬の世界の大変さも感じたし、女性が活躍するにはタフでないとならないと、考え込んでしまった。