A'sW3-35 JC裏対決
「ウオッカ、勝ったよ!!」
「うん、良かったねぇ~」
「嬉しい。ずっと応援してきたお馬さん。もうダメかと思ってた。勝てて良かったよぉ」
間野ゆかりは、山下茜に抱きつき、涙を流していた。茜は、子供をあやすように、ゆかりの背中をさすった。
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11月29日。徹と皇騎がジャパンカップ・一発勝負のギャンブルをしているころ、ゆかりと茜はエクセル田無にいた。
ゆかりは東京競馬場に行きたかったが、インフルエンザが治って間もないため家族からNGが出て、実家近隣にあるエクセル田無で競馬を楽しむこととした。1人では淋しかったので、茜を呼ぶことにし、茜は田無までやってきた。
この日のレースが終了し、2人は田無駅近くの喫茶店に入った。
「悪いね、本当は徹と一緒にいたかったんじゃない?」
「ゆかりからの連絡の後、徹さんからは連絡があった。でも、ゆかりが心配だったから、こっち優先した。体調はどう?」
「もう大丈夫。インフルエンザって聞いたときはガーンって感じだったけど、どうも新型ではなかったみたい。もう大丈夫よ」
茜がカフェラテを口にした後、ゆかりに話しかけた。
「この前の月曜日、徹さんを誘って、浦和競馬場に行ったの」
「随分、積極的になっちゃったね! もう勝負かけちゃったの?」
「ううん。ただ、一緒にお酒飲みながら競馬しただけ。でも、それでいいの。デートの誘いは、積極的に行こうと思うんだけどね」
「ふーん。徹はハッキリしないところがあるから、勝負所は早めの方がいいと思うわよ」
「そういう貴方はどうなの? 徹さん? 皇騎さん?」
ゆかりはコーヒーカップをソーサーの上に置いた。
「決めてない。まだ、決められないよ」
「そもそもの話を聞いていい? なぜ『ご褒美』だけじゃなくて『残念賞』なんて作ったの?」
「もう【ANGEL's WINE】の本当の意味は話したよね。『ブタの天使』だって。馬券の対象とならない4着5着を競うゲームにしたけど、ただ単純にゲームを楽しむのが私の狙いではなくて、もう1つ狙いがあるの」
「もう1つって?」
「私の婚活。突然だけど、このゲームって、6着以下にはプラスもマイナスもポイントがないよね。何でだと思う?」
「さあ……」
「6着以下には全く意味がないから。つまりね、4着5着を狙っても、1~3着を当ててしまう、ある意味 強運な人を求めてたの」
「それが、婚活の内容と、6着以下にポイントがない理由?」
「ちょっと強引でしょ。私も本気じゃなかった。で、一応 第1ピリオド最下位だった興樹さんに連絡とって、携帯電話番号の交換をしたの。そしたら、彼、私の実家にやってきて…」
茜は狐につままれたような顔をしながら、ゆかりに尋ねた。
「待って。どうして皇騎さんは貴方の実家が分かったの?」
「携帯電話番号。彼、前の職場でGPSを取り扱ってたんだって。だから番号だけで、GPSの位置情報が分かるみたい。ハッキリ言って、技術の悪用なんだけど」
「…それにしても、いきなり家に来られてビックリしなかった?」
「もうそりゃ、ビックリなんてもんじゃないわよ。でも、彼は私の両親に挨拶をして、新潟競馬場に一緒に行かせてほしいと頼んだの。驚いたけど、徹にはない行動力に、魅力を感じたの。だから最初の『残念賞』は、新潟競馬場になったの」
「でもさ、この前、徹さんが言ってた内容、新城さんは気付いたみたいだったけど、皇騎さんは最初から最下位狙いだったんでしょ?」
「本人からちゃんと聞いてないけど、そうみたいね。なんか、私の目的を全て見透かされているような気がした」
茜が机の上に肘を立て、両手を組んだ。その上に顎を乗せ、顔を斜めにしながら口を開いた。
「それって、怖くないの?」
「少しね。でも……やっぱりあの魅力は捨てられない。徹は徹の良さがあるんだけどね」
「私、待ってないから」
「え?」
「申し訳ないけど、ゆかりが結論出すまで待ってられない。私は、徹さんにアプローチしていく。問題ないよね?」
「う……うん。引っ掛かるけど、問題ない」
「正直、皇騎さんのことを掴みきれないけど、皇騎さんにしたら? 話を聞いてると、ゆかりの心は7:3で皇騎さんに傾いているみたいだし」
「うーん。茜の存在が難しくしてる部分はあるんだけどね」
「それは私も同じ。でも、もう ゆかりに遠慮はしないよ。私は私なりのアプローチを徹さんにしていく」
ゆかりが、茜と同じ体勢になった。
「ねぇ茜。この前、地方競馬に行ったんでしょ? 1つ提案があるの。来週の12月7日、会社休めない?」
「来週の…月曜? うーん。どうだろう」
「高知競馬場でね、女性騎手限定の闘いがあるの。レディース・ジョッキーズ・シリーズって言うんだけど。徹さん誘って、行ってみたら?」
「面白そうね。私の予定はともかく、徹さんが忙しそうな気がするけど、ちょっと検討してみようかな」
「私…敵に塩を送っちゃったみたいね」
「ゆかり、変わったね」
「何が?」
「いろいろ。『私』って言ったり、『敵に塩を送る』なんて言葉つかったり」
「いつまでも少女じゃいられないってわけですよーだ」
2人はライバルであることを確認しながら、終始穏やかな会話に終始した。1時間半ほど話して、喫茶店を後にした。
「じゃ、今日は、バイバイ」
「うん、今日は、バイバイ」
ちなみにこの日、2人がいた喫茶店は、8月下旬に徹と新城が会った喫茶店であったことは、誰も知らない。