A'sW3-34 JC直接対決(2)
ジャパンカップの1つ前の9レース発走前の時点で、パドックは黒山の人だかりができていた。
「ンン-、さすが国際GⅠ。注目度が違いますね」
「秋天の時も凄かったけど」
やがて、ジャパンカップ出走馬達がパドックに姿を現した。
「レッドディザイア、調子よさげに見えるなぁ」
「6番の馬ですよね。私もそう思いました。気が合いますねェ」
徹は皇騎の言葉に、多少の苛立ちを感じた。だが、そんなことを責めたてるような空気ではない。カメラで馬の全身写真を撮ることが難しく、徹は写真のほうに神経を注いだ。
パドックを後にし、馬券を購入した2人は、スタンドからコース側へ出ようとした
「すでに凄い人だかりだなぁ。ターフを見るのも難しいや」
「貴方がカメラに夢中になっているからですよォ」
徹は無視した。すると、皇騎がある提案を持ちかけてきた。
「ン~、このレースで、勝負をしませんかァ。一つ、大きな勝負を」
「何だよ、大きな勝負って」
「ゆかりさんを賭けた勝負ですよ。まァ聞いてください。【ANGEL's WINE】は単に4着や5着を当てれば良い、というのは昔の話。やっぱり、1番を当てないとダメなんですね。そこで本流の【ANGEL's WINE】とは別に、それぞれ1着予想をしましょう」
「おいおい、随分話が飛躍してねぇか?」
「フフフフ、これからお互い、1着になると思う馬を指名します。ゲームや馬券とは関係なく。
結果、どちらの馬も1着になれなかったら、この賭けは引き分け。片方の馬が1着になり、もう片方が6着以下、または4馬身以上の差をつけられたら、敗者は ゆかりさん争奪戦から手を引く。ン-、如何ですかァ」
徹は黙った。熟考した。なんでこんなギャンブルでゆかりを手放さなきゃいけないのか。
――このとき、徹は気づいた。何故、最初から負ける前提なのか。要は勝てばいいのだ。某賭博漫画ではないが、負けることばかり考えていたら、自分は負のスパイラルに陥る。そんな気分になった。
「気にいらねぇ」
「ン-、乗ってきませんかァ」
「違う。その言い方が気に入らないんだ。あと、勝手に賭けのルールを決められたことが。だけどもう時間がない。負けたら手を引く。そっちもその言葉に二言はないな」
「意外! 乗ってきましたか。貴方に男を見ましたよォ」
場内にファンファーレが流れ始めた。
「時間がないな。俺の1着予想は、オウケンブルースリだ」
「ホホォ、私は⑤番ですね。ウオッカ。あなたは⑩番ですね」
上位人気馬同士の、場外乱闘となった。そして肝心のレースは、ゲートが開いた。
スタートしてすぐ、オウケンブルースリは後方待機となった。一方ウオッカは、向こう正面で、やや前目とも言える好位に位置していた。
そして最後の直線。先に抜け出したウオッカを、外から猛然と捲くってくるオウケンブルースリ。
そしてゴール!!
「差した??!! どっち??!!」
「ン~、私にも分かりませんな」
徹は去年の秋の天皇賞を思い出していた。あのときも思った。「同着でいいじゃないか」と。
約7分後、着順掲示板1着の場所に「5」の数字が、2着に「10」の数字が点滅しだした。着差は「ハナ」。後で分かったことだが、その差は2cmだったという。
「ああ、ウチパク、差したと思ったのに…」
「ルメール君はうまく乗りましたねェ。武さんで惜敗続きだった馬を、よくここまでもってきましたよォ」
「あーあ、デジカメ、望遠にしたら凄い粗い画像だな、こりゃ」
「私の指名馬が1着でしたが、差はハナ差。今日のところは賭けは、引き分けみたいなものでしょう。ンン~、でもレースを2倍楽しめたような気がします」
「追い込み馬を指名するのは、結構キツイものがあるな、この賭けは」
皇騎は横にいた徹に身体を向けた。
「実は今晩も仕事でね。最終レースまでお付き合いできないのですよ。でもォ、今日は楽しかった。貴方とはまた近いうちにお会いすると思います。そうしたら、またこの痺れるギャンブルをしましょうよ」
「もうコリゴリだよ。痺れすぎたよ」
皇騎は、いつものように薄ら笑いを浮かべながら徹に背を向け、去っていった。
「アンタとの差はハナ差か…小さいのか大きいのか、よく分からないよ」
徹は呟き、その場にしゃがみこんだ。



