A'sW3-24 女友達同士の会話(2)
茜は思わず電話を切ってしまった。
再び携帯電話が鳴っていたが、携帯電話を持つことすらできなかった。留守番電話モードになった携帯電話から、かすかにゆかりの声が聞こえてくる。
茜は立ち上がり、再び風呂場に入った。熱いシャワーを15分ほど浴びていた。シャンプーもつけず、ただ熱湯を浴びていた。
髪を乾かした茜は、意を決して、留守番電話を再生した。
「茜、誤解しないで。私は貴方に徹を譲るために消えたわけじゃない。ただ、あの天皇賞の日、茜が徹と一緒にいて、茜が『ユーカリ』だと知らされた時点で、私は驚いた。茜が、そんな大胆な行動をとるなんて。私も混乱してるの。皇騎と徹、どっちも魅力的だし、茜と徹のことを考えると、私はどうすればいいのか、わか…」
ゆかりの言葉は、途中で切れていた。メッセージは1件のみだった。
茜は無心で、ゆかりの新しい電話番号に、電話をかけた。
「茜……私は悪気があったわけじゃなくて…」
「ゆかり、私は無我夢中なの」
「え? 徹に、ってこと?」
「違う。気持ちが整理できないまま、突っ走っているってこと。徹さんから、あのゲームの話を聞かされて、ゆかりに接触する気持ち半分、徹さんとコミュニケーションをしたい気持ち半分で、私はユーカリを名乗った。でも、競馬のド素人が私がついていくには厳しい世界だった。だから新城さんを頼りにした。そしたら、話がドンドン進んじゃって、徹さんにバレちゃうし…」
「茜、あのね…」
「聞いて。この前4人で会った日の3週前、私は徹さんと会った。徹さんから『デートしよう』と言われたの。
分かってた。正体をバラされたことは新城さんから聞いていたから、それを確認するための口実だってことは。
でもね、やっぱり『デート』って言葉に私は、気持がどうしようもないほど昂ったの。
そして実際に会って、その日は緊張と興奮を抑えきれなくなった。何が何だか、わからなかった。
そしてこの前。ゆかりと徹さんが再会しているところを直に見て、複雑な気持ちになった。さらに皇騎さんが現れてゆかりと仲良くしているところをみて、私は吐き気すら感じた。どうしたらよいか分からなくなった!」
「茜は、徹のことが本当に好きなのね」
「分からないの!」
大声をあげた茜は、我にかえった。落ち着きを取り戻しながら、言葉を続けた。
「ゆかりが失踪したことは、本当に心配していた。でも心のどこかで、今だったら徹さんと会話ができる、そんな軽い気持ちで『ユーカリ』になったの。正直、こんな展開になるなんて、思ってもいなかったよ」
茜の頬を、一筋の涙が落ちていった。
「茜、泣いてるのね。本当は私だって、泣きたい気分。でも、今日は茜の話を聞いてあげる」
「もう、今日はいい。疲れたよ。私ね、大学のときから思ってた。男の人とすぐ仲良くなれちゃう ゆかりが羨ましかった。嫉妬したこともあるよ。でもね、私は恋愛するなら、いつも全力になっちゃう。でも今は、中途半端で、こんがらがっている。本当に、どうしたらよいか、分からない」
「茜、徹のことが本当に好きだったら、私のことは気にしないで」
ゆかりの声が、きついものに変わった。
「私は今、徹と皇騎さんを、天秤にかけている。アナタは徹に一途。でも、私に気を遣っている。
もう、私のことなんか考えなくていい。今日から私とアナタは、徹をめぐって恋敵。ライバルよ」
「ライバルって……親友じゃないってこと?」
「違うよ。違うって言って。ただ、徹はライバルの皇騎さんの連絡先を聞いた。なんでもありなのよ。私とアナタは、親友であり、ライバル。そういうことよ」
「言ってる意味が分からないよ…」
茜は、泣きながら、笑っていた。ゆかりの声は真剣だった。
「茜は徹に一直線になればイイの。私と言う障害はあるけど、乗り越えようとすればイイの。そして私とアナタは、これからも親友。こうやって、また話そうよ」
「まだ分かんないけど、なんとなく分かった。もう、12時過ぎちゃったね」
「そうだね。また、話そうよ」
「うん。分かった。じゃあ、今日は、バイバイ」
「うん、今日は、バイバイ」
茜は電話を切った。
『今日は、バイバイ』は、大学時代に2人が帰り道の別れ際に、決まって言っていた挨拶だった。
茜はふと、大学時代を思い出した。あの頃から、ゆかりは世渡り上手で、茜はゆかりの後ろをついていくだけだった。あの時は、それで不満はなかった。
そんな2人が、ライバルだなんて……茜は笑うしかなかった。涙は止まらなかった。