A'sW3-21 帝王登場後(2)
トキノミノル像の前で、新城は天皇賞(秋)の日の出来事について、茜から聞いた内容を喋りだした。茜は結構詳しく新城に話しているようだった。徹は腑に落ちなかったが、菊花賞に続いて天皇賞(秋)が『ホースグリッター』のおかげで的中したことから、その御礼ついでに話をしたのだろう、そう思うことにした。
「先週も、俺、ココに来てたんだけどね。まぁさすがに連絡しなかったよ。邪魔しちゃ悪いと思ってね。そしたら、皇騎が現れたっていうから驚いたよ」
「そういえば、彼から名刺もらいましたよ。今あるかな…」
徹はカバンの中から定期入れを出した。その中から、皇騎こと中原興樹の名刺を取り出し、新城に手渡した。
「株式会社ジグザス? まぁたアイツ、会社変わったのかよ」
「転職を繰り返すタイプなんですか?」
「いや、アイツの場合はヘッドハンティングされてるんだ。アイツの成績は、ドコの会社でも抜群だ。そして渡り鳥のように高いところへ、羽ばたいていくんだ」
「もしかして、アンタと皇騎は、同じ会社にいたんじゃないのか?」
一瞬、新城の睨みつけるような視線を徹は受けた気がした。新城はすぐに、髭を触りながら半笑いの表情になっていた。
「ご明答。俺も今とは違って、月曜から金曜出勤の会社に勤めてた。俺が入社4年目に入社したのが、皇騎だった。当時俺は営業で、同期の中ではノルマの2倍近い売上を上げて、会社に一目置かれる存在だった。4年目にして、俺は異例の教育係となった。その教育相手の新人が、皇騎だ」
徹は、固唾を飲んで話を聞いていた。皇騎のこれまでについては、興味があった。口を挟まず、聞くことに徹していた。
「やーーーめたっ。もういいや、この話」
「エ?!」
新城が突然、話を中断した。これから話が佳境を迎えると思った徹は、肩透かしを喰らった気分だった。
「皇騎の話すると、瀬田さん、さらに皇騎について詳しく調べようとするでしょ。よくわかんないけど、連絡先まで交換したらしいし」
「ちょっと待てよ。ゆかりを巡って、皇騎と俺は敵同士だ。黙って見てるわけにはいかないんだよ」
「やめとけ。相手が悪すぎる」
新城の睨みつける視線を、徹は再び感じた。今度は、半笑いに戻ることはなかった。
「もう少し教えてやる。さっき言った会社で、皇騎は俺を踏み台にした。その後も、アイツは『犠牲者』を出しながら、会社を飛び出してステップアップしていった。アイツにかかわるとロクなことにならない」
「待て待て! 少なくとも、ゆかりはすでにアイツと密接にかかわってるんだぞ」
「諦めろ。お前が敵う相手じゃない。もしかしたら、ゆかりさんが、『犠牲者』になるかもしれんぞ」
「どーゆー意味だよ! それ!!」
徹は怒号をあげた。周囲の人物が徹と新城を見ている。新城は表情を変えずに口を開いた。
「今の皇騎が、何をしていて、何を考えているかなんて、分かるワケない。ただ今後、ゆかりさんが不幸になったとしても、それはどうにもならん、ということだ」
新城が言う『不幸』という言葉に、徹は呆気にとられた。返す言葉が出てこなかった。
「とにかく、瀬田さんは皇騎にかかわるな。今のままだと、茜ちゃんまで巻き添えになっちまう」
「なんだよ、ソレ…… あの嵐の夜の電話と言い、中途半端で気持ち悪いよ」
「気持ち悪いとは思うが、今が引っ込みどころだ。アンタはもっと、身近なところに注意を払った方がいいと思うよ」
「どういう意味だよ、それ…」
新城が半笑いの表情に戻った。
「俺はアンタの親でも親友でもない。そんなことまで教える義理はないね。
そろそろ俺、行かなきゃいけないんだ。トウカイテイオーだけ見に来たからね、今日は」
「おい、メインレースまで居ないのかよ」
「さっき、馬券は買ったよ。んぢゃね~」
そう言って、新城は正門の方へ向かってしまった。徹は立ち尽くすしかなかった。あの嵐の夜のように。