A'sW3-16 再会の秋天(2) | Bisah's Blanket 【馬龍DEN】

A'sW3-16 再会の秋天(2)

4レースの新馬戦。ナカヤマフェスタの妹がデビューするということで、は事前に応援馬券を購入していた。

11時にゆかりと待ち合わせていたため、パドックを見ることはできなかったが、レースは見ることができた。

そして、見事勝利。配当的には大したものではなかったが、天皇賞の資金は作ることができた。


昼休みに入り、パドックではAKB48がイベントをやっていたが、とくに興味のない3人はスタンドの中で雑談することにした。

「ゆかり、どうしても聞きたいんだ。なんで、俺達の前から一切の連絡を絶って、消えたんだ?」

「それ、聞いちゃうんだ……。なんてゆーかね、全てをリセットしたかったんだ」

「リセット?」

「そう。今年に入って、なんてゆうか、息が詰まっちゃったんだ。だからね、徹にも、もちろん茜にも申し訳ないと思ったんだけど、イチからやり直そうと思ったんだ」

「それって、会社辞めさせられたのが、原因?」


が口を挟んだ瞬間、ゆかりは淋しそうな顔をした。

「茜には話したもんね。徹、私ね、派遣切りの対象になったの」

「俺は、派遣社員だって聞いてなかったけどね」

「そっかぁ、派遣だって言ってなかったっけ。でね。茜には実家同士で連絡したらしいから知ってるかもしれないけど、私、実家に連れ戻されたの。で、お見合いを強要されたの」

「お見合い?!」


は声が裏返りそうになった。

「ウチって、一言で言うと、とっても厳格な家なの。母親が希望した大学の受験に失敗したとき、喧嘩になって、家を飛び出した。それで、合格していた大学に通ったの」

「そこで私とゆかりは出会うのね。気になってたんだけど、学費はどうしてたの?」

「8割出してもらってた。でも、家には帰らなかった。最初の正月に帰らなくて、その後は帰り辛くなったってのが正しいかな。父親とは、メールで連絡してたけどね。母親とは、ほぼ絶縁。就職のときも、父親にはお世話になっちゃった」

「それって、親として当たり前だろ。いくら疎遠になってたって」

「ウチは特殊。父親が私の就職の世話をした、と聞いて、夫婦喧嘩したみたいだし。私は私で、その会社辞めて、派遣会社に登録しちゃうし」


話している内容の中に、ゆかりが以前とは違う部分を感じ、は淋しくなった。ゆかりは会話の中で、自分のことを『私』というのは、初対面のとき以来だったからだ。いつも『ゆかりは~』と話していたからだ。

「その派遣会社から契約打ち切られて、その情報が何故か実家に伝わって、母親が目の前に現れた。で、田無に連れ戻されたの。で、お見合い。ワケが分からなかった」

「俺が、ゆかりとの関係を中途半端にしてたからか……」

「私だって、『徹って人がいる』って言いたかった。でも、言えなかった。父親にもまだ、言ってなかったからね。田無に戻って2週後にお見合いして、断ったとき、全てをリセットしたの」

「2月下旬か、3月? 俺、忙しくなって、あまり連絡できなくなったころだ」


俯いていたゆかりが、顔を上げた。

「そして【ANGEL's WINE】の構想を思い付いたの」

「ちょっと待て。話が随分トンだぞ」

「いいから聞いて。このゲーム名、ヘンな名前だと思わなかった?」

「確かに・・・ 馬とは何も関係ないからね。『天使のワイン』って名前がゆかりっぽいとは思った理由だけど」

「茜は、この名前見て、何も思わなかった? 英米文学科で、成績優秀だった山下茜さんは」


突然話を振られたは、驚いた顔をしていた。

「どういうこと?」

ダブル・ミーニングよ。アポストロフィーのところを、スペースにしてみて」

「アポストロフィー?」

「カンマが上に来たやつ。こんな感じ」

ゆかりは、指で『’』マークを描いた。


「エンジェル・スワイン? ・・・あ、え? 『天使・豚』????????」

「そう。まぁ、『豚の天使』ね」

「ブタ? Pigじゃないの?」

「ブタはPigの他に、Swineともいうの」


は話が全く見えなかった。そんな様子を、ゆかりも気づいたらしい。

「あのね。トランプとかで『ブタ』と言ったら、ハズレって意味じゃない。だから、本来 馬券でハズレとなる組み合わせを競うゲームとして、あの名前にしたの。でも、もっと深い意味に気付いた人がいたの。

今、その人が到着したみたい」


そう言ってゆかりは、携帯電話を耳に当てた。

「コウキ? 着いたのね。今 私たちは、フジビュースタンド2階の……」