A'sW3-12 回答拒否
菊花賞から一夜明け、忙しい仕事を切り上げ、家路を歩く徹の携帯電話が鳴った。メールではない。液晶を見ると「CALLING:新城(ロイス3)」と表示されていた。
「もしもし、新城さん?」
「瀬田さんかい。聞いたよ。茜ちゃんに。先週、府中で会ったんだってな」
「アンタ、茜と深い仲なのか?」
「いーや。浦和競馬場で1回会っただけ。あとはメールか電話。昨日さ、御礼の電話が来たんだよ。あの…ホースなんとかが、菊花賞3連複的中しちゃったらしくて。彼女、PATで買ってて、生まれて初めての万馬券を喜んでたよ。4.6万馬券だもんな。
で、そーそー。瀬田さんと会った話もしてくれたってワケだよ」
台風の接近のせいか、風が強くなった。徹は建物の陰に隠れた。
「アンタ、何が目的なんだ? 俺を混乱させたいだけなのか?」
「瀬田さんはユーカリについて情報提供を求め、中山で教えた。そのことを、ユーカリさんに連絡することが、そんなに罪なことかい?」
「お前、俺らの関係を弄んでるだろ。ゆかりも含めて」
「人聞きの悪いこと言うねぇ。ゆかりさんとも茜ちゃんとも『寝た』わけでもあるまいし。瀬田さんこそ、ウブな茜ちゃんを『デートだ』って誘ったらしいね。紫さんにチクったろうかぁ」
うすら笑いの奥から雨風の音が聞こえた。新城も屋外から電話しているらしい。
「もういい。話にならない。それより、その紫について教えてほしいことがある。何故お前は、紫と一緒に行動している奴のことを知っているんだ?」
「そのことだよねぇ。いずれ聞かれると思ったから、こっちから電話した」
「何者なんだ、皇騎って???!!!」
「回答拒否。以上」
しばらくの沈黙が流れる。冷たい風雨が、徹を心身ともに凍てつかせる。
「なんだよソレ……。そっちから電話してきたくせに」
「俺は便利屋じゃない。瀬田さんの望みに応える義理は、ない。
ただ1つ言っておく。アイツには近づかない方がいい。紫さん、というか、ゆかりさんとやらが、皇騎と付き合っているかどうかはわからんが、もう諦めた方がいい」
「そんなの納得できるかよ!」
「納得できるように説明なんかできねぇよ!!!!」
新城の大声が、徹の耳を劈いた。
「…取り乱した。スマン。これは君の為に言うんだ。君は皇騎にかかわるな。俺だけで十分だ。
今、俺はアイツに勝負を挑んでいる。昔のトラウマに対する、ささやかな抵抗だけどな」
「それって【ANGEL's WINE】ではないのか」
「あのゲームだよ」
「アンタ、今は最下位独走中だろ」
「あのゲームの、前の2つのピリオド、最下位は誰だったかい?」
「そりゃ皇騎だけど…」
「ええい、もう1つ教えてやる。紫さんの狙いは、トップ争いだけではないようだ。あのゲームの、もう1つの戦いに俺は今、挑んでるんだ」
電話の向こうから、飲み物を啜る音が聞こえる。
「何が何だか分かんないよ……」
「分からなくていい。瀬田さんは今、ポイントが芳しくないが、まだトップを狙える。頑張って上を狙え。俺は皇騎とのガチンコに挑む。菊花賞は奴の計算違いでポイント稼いだが、この後 絶対マイナスを連発してくる。俺と皇騎は、マイナスの世界での勝負をするんだ」
「待て。今は頭の整理がつかない。また連絡していいかい?」
「いや、だからもうこの件は回答拒否だ。わりぃな。長話になって。じゃ、電話切るわ」
携帯電話から流れるツーツー音。徹の傘は、いつの間にか風に飛ばされていたが、ただ立ち尽くすしかない徹だった。