A'sW3-7 茜と府中にて(1)
京都競馬場で秋華賞のあった日、徹は茜と、東京競馬場のローズガーデンで待ち合わせた。
「瀬田さん、いったいどういうつもりなんですか…?」
「待った。デートなんだから、下の名前で呼ぼうよ」
「と、と、徹さんですか…」
山下茜の顔が紅潮している。「この子は処女なのではないか?」と関係ない邪推を徹はしてしまった。
「この場所はね、ゆかりのお気に入りの場所だったんだ。僕は正門、彼女は西門から来るから、この女神像の前を待ち合わせ場所にしてたんだ」
「やっぱり、私はゆかりの代用品なんですね」
茜はとくに怒ったり嘆いたりしているわけではなかった。女神像の奥の噴水広場に移動した。
「ゆかりについて、何か分かったことはありますか? 私はあれから、サッパリで…」
「ゆかりはヘンな男と、新潟に行ったり関西に行ったりしている。それは分かった。でもね、もっとおかしいのは、自分をゆかりだと名乗る偽者が出てきたんだ」
「偽者ですか?」
茜の顔は、とくに動揺した様子はない。徹は直球勝負に出ることにした。
「ゆかりが『紫』って名乗ってるSNSとゲームがあるって、前に行ったよね。そこで『ユーカリ』って名前の人が突然現れて、俺に『自分はゆかりだ』って言ってきたんだよ」
「………」
「俺は混乱したよ。どっちが本物か、分からなくなったからね。いろんな伝手を使って調べたんだ。そしたらね、そのゲームの参加者、新城さんって人が教えてくれたんだよ」
茜は無言だったが、とくに動揺が表れない。徹は正直 意外だったが、話を続けた。
「そしたらその新城さん、教えてくれたよ。ユーカリって名乗る人に、競馬予想サイトを紹介したって。なんて言ったかな、『ホースフリッター』だったかな…」
「それは『ホースグリッター』です!!!」
茜が大声で反応した。引っ掛かった!と、まず徹は思った。しかし、茜は大声を出したことで顔を赤くしているが、発言内容に後悔している様子ではなかった。
「結局、ソレが狙いだったんですね。デートとか言って……」
「え? ユーカリが茜ちゃんだって俺が気付いてたこと、知ってたの?」
「新城さんからメッセージもらってました。バラしたよ、って」
アイツ……、いったい何がしたいんだ? 徹は新城のことを恨んだ。
「私は、新城さんを恨みました。何故、徹さんに全てを話してしまうんだって。でもこうなったからには、後には退けなかった。形はどうあれ、この日が来るのは覚悟してました」
「ちょっと待って。俺は新城から全てを聞いたわけではないんだ。何故、茜ちゃんがゆかりのフリをするのか、さっぱりわからない。それは聞いていない……」
なんか、形勢逆転。徹はすっかり動揺してしまった。
「それはそうでしょうね。新城さんに、理由は話してないですから。
ね、せっかく競馬場に来たんですから、お馬さん見に行きましょ」
徹は呆気にとられながら、茜の後を歩いていた。茜は、パドックの方に進んでいた。
